最近は機械を使わずにイネを作ってるの見た事無いでしょ?
小学校に上がった頃に東京オリンピックがあったんだけど、あの頃はまだ手作業の稲作が残っていました。
友達んちの農家さんが手で田植えするのを見に行って、混ぜてもらって少し教わって植えた思い出があります。
稲刈りも鎌で刈って「稲架掛け」して乾燥させ「足踏み脱穀機」で脱穀してました。
流石に耕運機は普及してたから鍬や牛馬で耕すのは見た事なかったけどね。
先日、ツイッターで
「自家消費用の米を手軽に少量作る、 100%買った方が早いのだけど、小規模自給の可能性を検討したい」
って書いてる人が居てね、ウチラ手作業稲作最後の世代だし、今でもほとんど機械なしで作ってるから
「稲刈りはノコ鎌で手刈り、脱穀はワンコ用の鉄櫛で、籾摺りはすり鉢で、精米はアイリスオーヤマの精米機(一万円チョイ)で、チョットめんどくさいけど、少量なら一応OK。 不耕起で直播、前半陸稲作りなら野菜とかと一緒に出来ます。 意外とコシヒカリが作り易いよ。」
って書いたら、どうもピンと来なかったみたいで、失笑を買ったような雰囲気でした。
「おっかしいなぁ」と思ってよく考えると、もう世の中には「稲作は手道具ダケで十分できる」って常識は通用しなくなってんだな!って気付きましたよ。
そりゃ皆んなそんなの見た事無いんだからね、しょーがないね。
だけど、歴史的事実ってモノを考えてみてください。
弥生時代(縄文後期?)から、日本人はずーっと機械なんか使わずに1940年代まで簡単な道具ダケでイネを作ってきたんですよ。
例えば「足踏み脱穀機」が出来たのは明治中期ですよ、その前は「千歯扱き」です。
コレも江戸の中期頃まで開発されなかった、ソレより前は「コキ箸」って棒を二本紐で括ってその間に穂を通して手作業で脱穀してた。
コレはどうも脱穀作業が寡婦の職業みたいになってて、社会福祉みたいな役割もあったから機械化効率化しちゃイケなかった、と言う背景もあったみたいなんだけど、まぁ、そう言う事が可能なくらい稲作の生産力/扶養力が高いって事なんだよ。
つまり手作業でゴリゴリやってても、一応皆んな暮らしていけるくらいの収穫が出来たって事です。
米はほぼ完全な栄養食らしくて、それだけ食ってても生きて行けるらしいですよ。
ソレが良いってワケじゃないけどね。
だから、戦後の食糧難の頃から経済復興するまでは「日の丸弁当」が普通だったんですよ。
肉体労働者でも、白ごはんの真ん中に梅干し1個の「日の丸弁当」食って働いてたんです。
勿論、弁当箱はデカかったけどね。
だから殆どコメばっかり食って、あとは漬物とか干物とか少量のオカズだけで暮らせた。
しかも水田稲作には連作障害が無いから、まあ、気候によって豊凶はあるにはあるけど、他の作物よりは遥かに長年に渡って安定した収量を得る事が出来た。
麦なんかだとヨーロッパの三圃式農業みたいに3年に一回畑を休ませたり、輪作したりしなければならないから、タダでさえイネの半分程度の収量なのに更にその2/3とかで同じ面積で養える人の数が少ないワケですよ。
すると労働力も少ないから収益を増やそうと思ったら、畜力→機械力って方向へ行くけど、稲作だと扶養力高くて人口増えるから労働力たっぷりで、人手でやりゃイイや、ってなるんですよ。
そんな風に、元々作業に過大な労力が必要ない上に、人手があるもんだから日本では殆ど家畜も使わずに手作業だけでイネが作れました。
ところが最近のヤツラは機械化された稲作しか見た事がないもんだから、もう機械なしでは出来ないと思いこんでんじゃないかな?
んで、ちょっと皮肉ツイート
「農業に限らないけど機械化、自動化のカラクリは、ソレなしでは生産や生活が出来ないと思い込ませる事にある。
そうすれば機械やシステムが継続的に売れるからね。
最近では稲作も機械や化学物質なしには出来ないと思ってる人までいる。
弥生時代から1940年代まで殆ど原価ゼロで生産して来たと言うのに・・・」
イャホント、今は電気仕掛けと〇〇システムだらけだからね。
TVだってスマホだって、いつの間にやらソレなしでは生活できない様な錯覚に落とし込まれちゃってますよ。
ホントはなくてもなんともないんだけどね。
んで、何から何まで手でやってちゃ軟弱なクセに(遊ぶのに)忙しい現代人には向かないから、一応補助的な小型機械を使って、自給だけ出来る小規模(10a~50a程度)稲作にどれくらい元手がかかるか計算してみました。
なにせ、ツイッターで
「1反でも100町でも、米を作ろうと思えば機械代で1000万以上かかる」
なんて言うとんでもないデマを流してるヤツがいるんだから、ホント困ったもんですよ!
稲作2000年の歴史も地に落ちたって感じです。
で、計算してみてツイートしたのが以下の通り↓
「小規模稲作でも機械代1千万かかるってデマ流れてたから計算してみた。
5反程度までコレでOK
小型耕運機 10万円
手動刈取機 2万円 (手で押してザーッて刈る道具です)
バインダー 40万円 (自走式のエンジン稲刈り機)
足踏み脱穀機 5万円
籾摺り精米機 7万円 (籾摺りと精米の両方が一台で出来るよ)
不耕起なら刈取機と脱穀機、籾摺り精米機で14万円。
耕運機と刈取機併用手刈りで24万円。
耕運機+バインダー機械刈り 62万円。 これだけでお米は作れるよ。」
「あとガソリン代5千円もあれば足りる。
肥料は硫安一発で400円/10a 5反で2000円。
イネは無肥料でも7割は穫れるから、それならタダ。
無農薬で頑張るとして、石灰防除のみで400円/3kgあれば足りる。
散布は 5千円の噴霧器でOK。
イネは全ての作物の中でも、最も生産原価の低いモノの一つだ。」
って事です。
どうもヤヤコシイ事を言う人は
「稲作も自然エネルギーを利用して発電とかしてその力で機械動かして・・」
みたいな事を考える様だけど・・・
ハッキリ言います。
「大阪から東京行くのに西廻りヨーロッパ経由で行く様なモノ」
2千年以上機械使わずにやって来たんだから、先ずソレをやってみるべきだね。
それをやってみないと現有戦力と知見で何処まで出来るのか?って言う現状把握が出来ませんから、耳年増になって余計なコトばかり考えてグル~ッと遠回りになってしまいます。
現実的な線で、先ずは労力低減の為に不耕起直播でやってみればイイ。
で、答えを先に言っちゃうけど(ま、やってみりゃ直ぐに分かる事だけど)、労力が発生するのは「除草、抑草」と「収穫」なんですよ。
不耕起か部分耕(播き筋だけ小型機械で浅く耕す)で手動播種機使えば作付けには労力はかからない。
問題はその後、イネと一緒に雑草が繁茂する。コレをどう抑えるか?ココ工夫が必要。
そして、最後に収穫、脱穀、精米、ここが結構難関。労力集中するからね。
今はどう言うワケか、皆んな農業は大規模機械化とかIT化、AI導入とかがトレンドみたいに皆んな思い込まされてるけど、そんなモン要りますかぁ?
もっとずっとシンプルに、道具と小型機械(数馬力以下)と品種の工夫でクリアできると思いますよ。
先ず、大げさな事をせずに、原始的と思われるかも知れないけど、ベーシックでシンプルな解決策を求める為に、とにかく昔を振り返ってもう一度手作業稲作からやり直す事が近道だと思います。
やってみたら色々、昔は出来なかったけど今なら出来るアイデアってのも湧いてくるしね。
で、ようやく今日の本題。 江戸時代、一世を風靡した美味しいお米「穂増(ほませ)」です。
コレは1834年に熊本で見いだされた品種です。
200年近く前です。良く残ってたなって感じですけど、ずーっと作り継がれて明治の終わり頃くらいまでは結構作られていた様です。
去年精米を取り寄せて食べてみましたけど、上品な甘みでとても美味しいコメです。とても江戸時代からある品種とは思えない今でも十分に通用する味です。
コレ今年始めて作ってみたんですけど、印象としては「旭」に似ている感じです。
出穂は「旭」より早く「コシヒカリ」より遅い中~晩生品種です。
今年は6/25の遅目の田植えで、9月始めの出穂でした。
8月末に走り穂が出始めた時の画像です。↓
田植えが遅かったせいか稈長は75cmくらいにしか伸びませんでしたが、肥沃な田で早く植えれば90cmくらいにはなるようです。
造成したばかりの田で窒素分が多かったので、分げつの最盛期に突然葉いもちが激発しましたが、石灰防除でなんとかかわして出穂期以降は殆ど出ませんでした。
穂いもちもわずかでしたので、そう極端に病害に弱い印象はありません。
コシヒカリと同程度か作り方によっては少し強いくらいじゃないかと思います。
登熟は順調に進み、窒素過多の割には熟色も綺麗でした。
気に入ったのでお米の販売サイトみたいな画像を撮って見ました。↓
ま、コレは写真の撮り様なんだけど、やっぱり古い品種だからか、なんとなく伝統的な秋のたわわに実った稲穂の感じが出易い気がしました。
遅植えと中期の葉いもちのせいで寸詰まりになってますが、上手く作れば結構立派なイネが出来ると思います。
穂は大きめで着粒は密、着粒数は多い方です。
ほら、イイ感じでしょ?この穂の垂れ加減がいかにも日本のイネって感じで・・・
コレが何で手作業省力稲作と関係あるかですけど、この品種「脱粒性」なんですよ。
こうやって穂を軽く摘んで・・・
ズリーッと引っ張ると綺麗に米粒が取れます。
脱粒性品種では「旭(朝日)」が有名ですが、この「穂増」は「旭」より少し軽い感じです。
「旭」だと手刈りして畦なんかに置くと動かす度にパラパラ落ちる感じですが、「穂増」では稲刈りの時には乱暴に扱わない限り殆ど落ちませんでした。
脱粒性にも色々あって、古代米の様に風が吹いてもパラパラ落ちるものから、この「穂増」や「タカナリ」の様に手で引っ張ればズリッと落ちる程度のモノまで様々です。
昔は前述した様に「手脱穀」だったので、ソコソコ脱粒性の方が作業が楽で都合が良かったのでしょう。
「穂増」の場合は、余程の遅刈りでもない限り刈り取りの時にはそんなに落ちないで、稲架(ハサ)掛け乾燥させて枝梗が枯れると落ち易くなる様ですから、手作業収穫では都合の良い性質です。
コレなら足踏み脱穀機でも楽に脱穀出来そうです。
それでもシンドい方は、足踏み脱穀機に小型のモーターか汎用エンジンを繋げば楽勝です。
今、政府や農業関連企業が志向しているのは、大規模ハイテク農業です。
それは悪い事ではありません。
技術と言うものは様々な方向へ向けての解決手段の集積です。それ自体に良いも悪いもありません。
良くないのは「選択と集中」みたいな寝言を言って「一点張り」になってしまう事です。
技術にも多様性が重要です。
大資本を投入しての大規模ハイテク農業も重要です。
同時に、小規模、ローテク、低原価農業の道も探っていかないとダメだと思います。
昨今、日本の自動車産業に衰退の影が忍び寄ってる感じがしませんか?
実際にはトヨタなど依然世界一の座に君臨しているのですが、テスラや中国の新興EVメーカーに比べると活気が感じられません。
911テロの頃、2001年頃ですね、街では中国製のいかにもバッタモンって感じの電動自転車を良く見かけました。
フツーの自転車の荷台に箱の様な物が乗ってて、その中にモーターとかバッテリーが入ってるいかにも取って付けた様な電動自転車でした。
日本のメーカーもアレをドンドン作って日本でもアジアでも売ればイイのに・・・と思いましたが、日本の行政は逆に禁止してしまいました。
で、電動自転車はサポート動力のみOKってなって、ソッチの開発は芽を摘まれてしまいました。
それが現在のEV市場出遅れの原因とは言いませんが、日本の自動車メーカー、バイクメーカーってもう50年くらいメンツが変わってないんじゃないですか?
って事は50代以下の人達は新しい国産メーカーには出会った事がない、って事ですよ。
逆に言うと、誰か優秀なエンジニアが画期的アイデアで車やバイクを設計しても、新会社を設立して業界に参入すると言う事が起こらない世界になってしまっている、と言う事です。
そんな業界が進化するでしょうか?
農業の機械化、自動化は大規模化とセットで行わないと元が取れません。
ですからソッチに向いて行くと、大資本じゃないと参入できなくなります。
大規模化は重要な生産性向上手法ですが、ソレばかりになると新しいプレーヤーが参入しにくい環境がガチガチに出来上がってしまいます、自動車業界の様に。
自動車やバイクも電動にすると部品点数が半分以下に減るし、構造がシンプルになるのでEV化は新しいアイデアを持つプレーヤーが参入するチャンスだったんですけど、日本社会は何も生まれない内に芽を摘んでしまいました。
そりゃ海外に置いていかれますよ。
新たに事業を始める人や会社は、皆んな最初は小さく非力です。
小さくても生き残れる環境がなければ、その業界には次世代が生まれなくなります。
農業も大規模化ハイテク化一辺倒では足腰の弱いものになって行くと思います。
元々、体一つと簡単な道具があれば誰にでも出来る仕事だったんです。
そう言う要素を重視して、必ず何処かにソレを温存し、小さくて弱くても良いアイデアを持ったプレーヤーが生き延びる余地を残しておかないと、巨大で強力な恐竜ばかりがノッシノッシやってたらどうなるかは、過去に歴史や自然が証明しています。