イネの変異の件です。
先日は「愛国」を例に、見つけ易い変異として「出穂期」の異なる変異個体をお見せしました。
コチラ↓
「出穂期」の変異(早生化とか晩生化とか)は、周囲の普通個体との違いが目視で簡単に分かりますから、一番見つけ易い変異です。
他に、草丈の違いとかも見つけ易いですね。いもち病に強いヤツとかも斑点の出来てないのを探せばイイから比較的見つけ易いです。
但し、その見つけたモノがモノになるかどうかは別問題で、元に戻ってしまう場合も少なくありません。
今日は逆に見つけにくいヤツです。
まあ、一番見つけにくいのは「美味しいお米」ですよね、見た目じゃ分かりませんからね。
アレは大変ですよ、いちいち食べてみなければなりませんからね。
トマトやブドウみたいのなら、チョットもいで口に放り込みゃソコソコ分かりますけど、コメはねぇ、脱穀して籾摺りして精米して炊飯して見ないとイケませんからね。
だいたいの籾摺機とかはまとまった量でないと使えません。
たった一株の変異株の食味を調べるにはちょびっとの量でも籾摺りや精米ができ、上手く炊いてみれる専用の道具が必要です。
ソレ用の精米機とか売ってますけどメチャ高いです。
私は生米を齧って炊いた時の味を推定出来ないものかと、「コシヒカリ」とか「旭」、「カメノオ」とか穂から一粒採っては齧ってみましたけど、ちょっと分かりませんね。
味覚に特殊能力でもないとムリです。
今日のは「味」ではなく、「色」です。
この↓画像の中に変異個体が居ます。お分かりでしょうか?
「お分かりでしょうか?」って、ど真ん中に写してりゃ分かりますよね。
上の画像↑では、まだあまり周囲の普通個体と差が出ていませんでしたので、私もすぐには気づきませんでした。
なんとなくその辺りを歩くと、明るい光が視界に入るんですよね。
「ん?なんかおるな?」と、こう言うのに限らず、「変わり者」に気づくのは先ず全体の空気です。
イネの様に「金太郎飴」みたく同じ顔したヤツを等間隔でズラッと並べて栽培していると、異質なモノが混じっていると、どれかは分からなくても、その周辺を通るとなぁ~んか妙な感じがするものです。
良い意味でも悪い意味でも「アイツが混じると、ちょっと雰囲気変わるんだよね」みたいな事ってありません?
ケーキ屋さんの冷陳に並んでるショート・ケーキで、1個だけイチゴじゃなくてチェリーが乗ってるのが混じってたら、すぐには気づきませんけど「ん?なに?」ってなりますよね。
なんか違和感感じて、良く良く見るとチェリーのヤツが居た、みたいな。
だんだん登熟が進んでくると、黄色がハッキリと冴えてきました。
穂だけではなく、葉の色も普通個体よりずっと黄色くなっています。
穂も普通個体は緑がかっていますが、変異個体はより綺麗な黄色です。
光の当たり加減では、ソコだけ輝いて見えます。
抜き取って夕日の当たる時間に、普通個体と並べてみると凄く違います。
光を抑えて自然な状態で撮っても、やはり黄色いです。
穂の状態、垂れ加減などは似たようなモノですから、登熟が進んで株が枯れ初めて黄色く色づいたものではない事が分かります。
これは園芸では「黄葉」とか「萌黄斑」とか言うヤツです。
最近流行りで良く見かける「田んぼアート」の黄色い部分、アレは「黄大黒」と言う観賞用品種みたいですが、アレなんかは典型的な「黄葉」の品種ですね。
コレはその様な観賞用品種ではなく、「神力」の中に一株現れた変異株です。
「神力」は明治10年(1877)頃、兵庫県で丸尾重次郎と言う篤農家が「程良し」と言う在来種から収量が25%も多く熟色の良い個体を選抜育成したものです。
味はあまり良くなかった様ですが、作り易いので西日本を中心に非常に好評を得て、当時、最も作付け面積の多い主流品種でした。平成10年に「コシヒカリ」に抜かれるまで、全国で最も作付けの多い記録を打ち立てた大品種です。
非常に広い地域で沢山栽培されたので、様々な派生系統が純系選抜された様で、元々の「神力」は極晩生だった様ですが、早生から晩生まで色々選抜されたそうです。
私が入手したものは、やや出穂は遅いかな?と言う程度、「愛国」より遅く「旭」より早いくらいで「極晩生」ではありませんでした。9月アタマの出穂でした。
「神力」も「愛国」「旭」「亀の尾」などと共に、現在の日本のイネの殆どがそのDNAを受け継いでいる現代イネのルーツとも言うべき品種です。
昭和の中期にコメがあまり始めるまでは、我が国は慢性的コメ不足国でした、かつてはコメも輸入していましたから「外米」と言う言葉があったくらいですからね。
国内産のコメでは足りなくて輸入していたのです。
ですからイネの育種が始まった明治36年(1903)から戦後に化学農薬と化学肥料が普及して米余り→減反政策までは、イネの品種改良は「先ずたくさん穫れるモノ」と言う優先目標があったのだろうと思います。
当時としては多収性だった「神力」は多くの品種の親として用いられた様です。
現在のイネ品種の殆どには何処かで「神力」が入っていると言われています。
「コシヒカリ」も曽祖父母世代に「撰一」と言う品種があり、その親が「神力」だと言われていました。が、どうもこの「神力」と「撰一」の関係が良く分かっていない様です。
ですから、「コシヒカリ」の4代前に「神力」が居たかどうかは確信が持てないワケですが、一応一般的には「神力」も「コシヒカリ」の先祖の様な扱いとなっています。
ウチで今年播いた「神力」の種籾を一部精米炊飯して食べてみましたが、結構美味しかったです。
まあ、どちらが?って言えば「愛国」の方が美味しい感じでしたけど、思ったほど不味いコメではありませんでした。
収量が多いならコッチを取るかな?ってくらいの感じでした。
さあ、この黄色い変異株、選抜固定して「黄金神力」とでも名付けましょうか?
メチャクチャ神々しい名前になるので、名前負けが心配ですね。
葉が黄色い植物は観葉植物などでも色々ありますが、大抵は黄色の色素が強くなっているのではなく、葉緑体が少なくなって「緑」が減った結果、元々あった黄色が目立つ様になったものです。
イネは窒素肥料を多く与えると葉色が濃くなります。元々色が薄い変異株は窒素の吸収量が少ないかも知れません。
一般的に窒素が多いと味は悪くなりますから、窒素吸収が少なければ美味しくなるかも知れませんよ。
それとも葉緑体が少ない分、炭水化物生産力が落ちてマズくなる?
(知らんけど・・・)
ま、味は食べてみなけりゃ分かりませんけど、田んぼ全体が黄金色に綺麗に色づいて光り輝けば気分が良いですから、是非、固定して増やして実現してみたいと思います。