何からお話しましょうか?カンケーない事を繋いでお話しますからね。
先ず、画像行きましょうか。

手前のイネと向こうのイネ、背丈が「倍半分」違います。
手前は超多収米の「タカナリ」、向こうはコシヒカリの大粒変異種「イノチノイチ」です。
「タカナリ」は出穂期をずらすため7/9に遅植えしたモノです。
予想通り、定植をずらすと出穂がずれました。生育も遅れるので結局、より小さいイネに穂が付いてしまいます。
後で着粒数など調べてみないといけませんが、見た感じでは穂の大きさはそんなに変わらない印象です。穂数の方が減るみたいです。
「イノチノイチ」は幾つかあるコシヒカリの選抜系では特に大柄な方です。コレも同じ頃に植えたので幾分か生育は抑えられている筈ですが、それでもグングン背が伸びてきました。
「タカナリ」がこんなに小さいのは、"sd1"と言う半矮性遺伝子を持っているからだそうです。
同じ遺伝子を持つ背丈の小さなイネが各国の研究機関で作られている様です。
私は「コシヒカリがこんな風に小さくなればイイのに」と思っていましたが、調べてみたらソレも既にできていました。
「ヒカリ新世紀」と言う半矮性遺伝子を持つ「コシヒカリ」が鳥取大学の富田因則教授によって育成され2004年に品種登録されています。
コレは「タカナリ」や「IR8」の様な台湾在来系の半矮性遺伝子ではなく、九州の在来種「十石」の半矮性遺伝子を導入したもののようです。
出もとは違いますが遺伝子そのものはやはり"sd1"みたいですから、やっぱり背が低くなるんですね。
「タカナリ」も「ヒカリ新世紀」も、その育成過程を調べるととても興味深いです。
が、今日はその話ではありません。
「タカナリ」は韓国のインディカ系矮性品種2種を1979年に交配し選抜育成を重ねて1991年に「農林300号」として品種登録されています。
1990年の段階で13代の選抜が重ねられていたそうです。
「ヒカリ新世紀」は、1985年にコシヒカリの変異系統(放射線当てて人為的に突然変異を起こさせたもの)と「十石」との交配から始まり4代育成し、それに「コシヒカリ」を8世代戻し交配して育成されたそうです。合計12世代ですね。登録は2001年です。
今の研究機関での育成は、温度や日照をコントロールした育成ハウスで行われるので、年に数世代進める事が出来るようですが、それでも12、3世代を重ねるとなると4、5年はかかりますね。
「タカナリ」は着手から登録まで12年、「ヒカリ新世紀」は16年かかっています。
エマニュエル・シャルパンティエ博士とジェニファー・ダウドナ博士がゲノム編集技術「クリスパー・キャス9(ナイン)」の発明によってノーベル化学賞を受賞されました。
そのニュースを見て、私が最初に思ったのは、「オットー・ハーンのノーベル化学賞受賞」です。1944年です。
1938年に「原子核分裂を発見」した事によって受賞しました。
そして広島、長崎に原子爆弾が投下されたのが1945年です。受賞の翌年、核分裂発見から7年後です。
ノーベル賞は、スウェーデンの発明家アルフレッド・ノーベルがダイナマイト等の爆薬の開発・生産で巨万の富を築き「死の商人」と呼ばれた事により、遺産は「すべての資産で基金を設立し、人類のために最大たる貢献をした人々に分配される」と遺言を残した事から始まっています。
けれど、爆薬で沢山の人々を死に追いやって儲けた資産で表彰した「核分裂」は更に桁外れの大量殺戮を実現してしまいました。
そして今も、一瞬でその何百倍もの被害をもたらし、この世界を破壊しつくすだけの核兵器が各国に保有されています。
何が「人類のための貢献」なんだかワケが分かりません。
「クリスパー・キャス9」は「夢の技術」と言われています。
端折って言えば、生物の遺伝子の好きな所を切り取って、好きなモノに差し替える事を可能とする技術です。
都合の悪い遺伝子があればソレを切り取って良い物に替える事が可能となりますから、遺伝病の治療に応用されます。
この技術を用いれば、半矮性遺伝子を組み込んだ「コシヒカリ」は2年以内で出来るかもしれません。
更にソコに「いもち病耐性遺伝子」や「耐寒性遺伝子」も組み込めるでしょう。
1つの形質を改善するのに10年以上、多大な労力と資金を投入して頑張る必要もなくなるかもしれません。
もう5年もしたら、「コシヒカリ」より更に美味しくて、800kg/10a以上穫れ、病虫害に強くて農薬が不要で、北海道など寒冷地でも栽培できるイネができているかもしれません。
こう言う技術が開発された以上、研究者はソレを使わないと世界のトレンドについていけません。
研究の潮流から置いていかれますから、我先に導入せざるを得ないでしょうね。
企業も、他社との競争に負けないためには、一日も早く優良品種を開発して売り出さなければ経営が立ち行きませんから、スピードの早い技術は導入しないワケには行きません。
でも、一方で、食料は余っています。
と言ったら疑問を持たれる方もおられるでしょう、チョイチョイ、飢餓に関するニュースが流れます。「食糧問題」と言う言葉もよく耳にします。
でも、本当は余っています。
その証拠は、価格です。価格が証明しているんです。
試しに、農地を1反(300坪)借りて、鍬で耕して、堆肥でもやって、コメでもムギでも作ってみれば分かります。
原価と労力を計算すると、とてもスーパーで売っているお米やパンの価格ではできない事が分かるでしょう。
勿論、より安く作る方法もありますけどね、普通の人が普通にやったらの話ですよ。
広大な土地で、超大型農機を用いて大量生産する事によって、一人の農家さんの生産出来る食料は何千人分にも上るでしょう。
余っているからこそ、あんなに安いんです。これからITだのAIだので、農機も自動になるから更に安くなるでしょう。
敗戦直後の食糧難の時には、コメ一俵買うのに高価な着物や宝飾品と交換したワケです。食料が足りなかったからね。
今、一月の給料の何%が米代になってるでしょうか?食料が不足していたら稼ぎの殆どが食料に注ぎ込まれる筈ですが、もう何十年もそんな事は起こっていません。せいぜい数%じゃないでしょうか?
つまり、余っているんです。
だから、足りる、足りないの話なら、品種改良も遺伝子操作も要りません。
一部の途上国で「食糧問題」が起こっているのは、政情不安や貿易不均衡など政治や経済のシステム上の問題です。
でも、資本主義経済だと、安くなれば更に生産効率を上げて原価低減し、利益が上がるようにしなければなりませんから、余っているモノを作るのにも更なる改良改善が行われます。
もしかしたら、もしかしたらですよ、要らない事の為に「夢の技術」が必要となるワケです。
一方で「新技術」は、その名の通り新たに開発された技術なワケですから、それがエポックメイキングであればあるほど、その技術を制御、管理するシステムはまだ存在していないワケです。
良いも悪いもワケ分からないまま大急ぎで原爆を作って、チャチャッと投下して何十万人を一瞬で殺し、生き残った人や未だ生まれていなかった人にまで深刻な被害を与えてしまった人類最大の失敗例はその為に生まれました。
しかし核分裂同様、「クリスパー・キャス9」と言う人類にとって何個目かのパンドラの箱は既に開いてしまいました。
後戻りは効きません。技術はあっという間に広まります、いや、既に広まっています。
核技術との違いは、利用が容易であると言う点です。
アメリカでは、バイオ技術を趣味とする人達が増えているそうです。もはや遺伝子操作はマンションの一室でも行える時代です。
ウチなんかみたいに朝早く起きて試験田からイネの穂を切り取ってきて、温湯除雄して、ハウスの中で汗だくになって花粉かけて、自分もその花粉を吸って花粉症起こしてるなんて言うノドカな光景ではないわけですよ。
政府は「遺伝子編集は遺伝子組み換えと違って自然界で起こりうる変異しか起こさないから、従来の交雑育種法などと同じ事であり安全です」として、遺伝子編集農作物の生産/販売を自由に出来る様にしようとしています。
本当でしょうか?
嘘だと思いますよ。自然界で起こり得ないような変異が起こる可能性はゼロではないでしょうし、仮に自然界で起こり得る変異しか起こらなかったとしてもソレが安全である保証なんか何処にもありません。
自然界での生物の変異でも、危ないのはチョイチョイ出てくるわけですから、そんなのを作物として大量に栽培すれば、生態系に影響を与えるでしょうし、その様な遺伝子改変生物(ミュータント)が自然界に逸出すれば、外来種問題より厄介です。
エマニュエル・シャルパンティエ博士とジェニファー・ダウドナ博士は、第二の「オットー・ハーン」にならないとも限りません。
しかし、この人達が開発しなかったとしても、いずれ誰かがやってた筈です。
ひとたび発表された新技術に蓋をする事はできません。
コレをどう扱えば「夢の技術」になり、どう扱えば「悪夢の技術」になるのか?
天から神様が降りて来て「こうしなさい」と「お告げ」をくださる事なんかありません。
また、答えの分からない問題が増えたような気がします。
1つだけ、言える事は、「慎重に、ゆっくり」と言う事です。
市民団体か、環境団体か、それとも生産者自身か、科学に対して深い理解としっかりとした批判精神を持って、ブレーキ役を果たす「カウンターカルチャー」が育たなければなりません。