ハイッ、ちゃんと書きます。
福岡正信氏の自然農法による稲作を検証しています。今年は超密植による湛水栽培、乃至は、抑制栽培(不湛水)の試験です。
去年、25株/㎡(20x20cm)の密植栽培で、以外と「コシヒカリ」が良い成績を上げました。
今年は、密植と初期抑制の関係を調べてみます。
福岡正信氏の稲作には良く分からない部分が多々あります。
最も関心を引くのは、無農薬無肥料とかのトレンディな話題とか、不耕起で直播すると言う自然農法的で慣行農法を覆す様な部分なんでしょうけど、私は、そんなコトはどうだってイイ、と思っています。
それどころではないんですよ。福岡氏は「コメは1t/10a以上穫れる」と言っているんです。
なんで皆んな、ココに突っ込まないかなぁ、と思いますよ。
「1t/10a」と言えば、慣行栽培の倍くらいですよ。
普通の栽培の倍も穫れる栽培法がある、ッて言えば、先ずそっからでしょうが!
こう言う所にスポットライトが当たらないってコト自体が、自然農法を盛んに語っている人達が、実は農業技術のシロートだ、ッてコトなんですよ。
専門知識を持った技術者なら、先ず、その部分で「コレは凄いッ!!」ってなるか、「嘘や!!」ってなるかどっちかです。
「凄い」にしても「嘘や」にしても、検証が必要です。
んで、栽培技術的な要素をチェックしてみると、「無農薬、無肥料」とかはあまり関係ないと思います。
勿論、農薬や肥料を使った方が多収し易いに決まっているのですが、それを使ってさえ500kg/10a前後なワケですから、ソッチをどういじっても1t/10aにはならないでしょう。
不耕起だ直播だ、とか言うのも同じですね。耕起しようが移植しようがすまいが、500kgが1tにはならないワケです。
無除草についても、まあ、多少関係ありそうな情報もありますけどね、草が微生物を増やして、微生物に養分を供給させる、みたいなね。
にしても、倍には・・・・
ってコトで、そう言う面白そうな話は後回しにして、それ以外の慣行だろうが有機だろうが自然だろうが、全ての栽培手法に共通する部分から攻めて、読み解いて行った方が近道なんじゃないかと思います。
ってコトで福岡正信氏の本を読んでみると、2つのキーワードが見つかりました。
「密植」と「抑制」です。
最近「密」と言うのは評判悪いですけど、あの「密」です。
「密度」の「密」です。
つまり、一定の面積に沢山居る、ってコトです。
んで、「抑制」ですから、生育を抑えると言うコトです。
なんだか、アコギなコトをするみたいな感じですね。
狭いトコにぶっ込んで、抑圧して育てるんですから、養鶏場みたいなコトを連想してしまいます。
栽培理論的な説明は、今年の栽培試験の結果を見てからにしましょう。
先ず、試験方法です。
5 x 3m(15㎡)の区画を1品種2区画用意しました。
その区画の半分には、40株/㎡(25 x 10cm)の超密植で植え、残りの半分には22.2株/㎡(30x15cm)の標準密度で植えました。
播種は出穂期から逆算して90~100日前頃に行い。
移植は75日前に行いました。
2区画の一方は「抑制区」とし、幼穂形成期(=出穂前30日≒最高分げつ期)まで湛水せずに初期生育の抑制を行います。
もう一方は移植時から通常の湛水栽培を行います。
つまり、
不湛水超密植
不湛水普通
湛水超密植
湛水普通(これが一般の普通栽培)
の4パターンです。
品種は「コシヒカリ」と「福岡糯3号」です。
「福岡糯3号」は晩生なので、まだこれから田植えです。
参考の為に早生の「ヒデコモチ」も半分くらいの面積で同様のテストを行っています。
今日は「コシヒカリ」の状態です。全て幼苗の一本植です。
5/10に育苗箱にタネ播きし、6/3に田植えしました。
超密植の抑制区です。

水溜めないと草が良く生えますね。
草は手取りします。
超密植の湛水区です。

当然、水貯めてる方が一回り大きくなっています。
コレは栄養云々ってコトもありますが、コシヒカリって水を入れれば入れただけヒョロヒョロと上に伸びるんですよ。
ですから、幼苗の一本植で爪楊枝みたいのを植えて葉先だけ出るくらいに水を入れると、グングン上に伸びて倒れてしまいます。
日に1センチくらいは平気で伸びます。
なので、最初は極浅くしたかったのですが、去年に続いて今年も前半冷夏で、ココは特に夜温が低いので、温度保持の為にできるだけ深くしていたら、ますますヒョロ伸びしました。
毎朝、見回って倒れているのを起こすのが大変でした。
ココ数日で左右に分げつが出始め、茎も太くなって安定しました。
普通植えの方は、どこでもやってるヤツですから、画像上げませんけど、最近は株間15cmでもちょっと「密」気味ですかね。20cmくらいが多いのかも知れません。
超密植の株間10cmは、かなり無謀な感じです。

ゲンコツ一個分です。
条間も25cmですから、田んぼの中に入れない感じです。
抑制区を上から見るとこうです。

比べるものが写ってないので分かりませんね。
湛水区はこうです。

分げつ出始めで、既に隣の株と接触し始めています。
ただ、一本植なので、葉っぱの重なり合いはありません。

一般的な30x15cmの密度だと、一本植はこんなに寂しい感じです。
密植抑制区の草丈は20cm前後です。

密植湛水区は25~30cm近くなっています。

もう、この時点で分かり切った感じがしますけど、水を貯めてて超密植にすると、お決まりの「過繁茂→倒伏コース」を行きそうですね。
一本植えですらそうですから、田植え機などの束植えだと、一箇所に4、5株は植えられていますから、それぞれが競合して我が我がと他の個体の上へ葉を出したがりますから、もっとヒョロ伸びするでしょう。
この段階で、超密植栽培をしようと思えば、前半の生育抑制は欠かせない、って感じがしますね。
となると、次の疑問として「生育抑制して小さく出来たイネに大きな穂が出るのだろうか?沢山のモミがなるのだろうか?」ってトコに行きます。
こうして見ると、福岡正信氏の栽培法も、特別に奇っ怪な事を言っているワケではなく、基本通りのアタリマエの事を言っている、と言う事じゃないかと見え始めまて来ます。
40年代から60年代にかけて「緑の革命(Green Revolution)」として世界的に穀物生産性が向上したのは、化学肥料等の普及と、短稈多収品種の育成が大きな要因でした。
アジアのイネでは「IR8」などの半矮性品種の開発が大きく寄与しました。
つまり、イネでもムギでも、「背の低い品種で多肥栽培すれば倒伏しにくいから多収できる」って言う理屈は、世界的なスタンダードなワケです。
自然農法も何も関係ありません。
日本では「日本晴れ」なんかがその系統の品種ですね。
日本は戦後真っ先に、その方法論で多収を実現し食糧難を脱しました。
そして同時に高度経済成長が起こったので、次の瞬間スグに「量はもうイイ、もっと美味しい品種を」って事になって、「コシヒカリ」などの良食味品種へと移って行きました。
「コシヒカリ」は少し背が高いですし、倒伏し易い品種ですから、その後、より短稈でコケにくい品種改良が重ねられたワケです。
そして最近のF1ライスを見ても分かるように、今度は「短稈、良食味、しかも多収」って方向に進むでしょうね。
福岡正信氏は、同様の「緑の革命」を、「品種改良と化学肥料」と言う「力づくの革命」よりも「密植と生育抑制」と言う「テクニカルな改革」の側からトライした、と考えて良いのではないでしょうか?
「力づく」でなかったため、それは「自然農法」との親和性の高いものとなった、あるいは、より自然な方法で多収を実現する為に、車の両輪として「テクニカルな改革」と「自然農法」をシンクロさせて行った、と解釈すると理解し易いかと思います。
あ、コレは単に私の「読み」です、未だ検証結果は出てませんでしたね。
じっくりと生育経過を見て行きましょう。