去年のイネの栽培試験結果をまとめました。
もう一度ご説明しますが、何が調べたかったかと言うと、福岡正信氏が著書に書かれたような、自然農法で1t/10a穫れるって話は本当か?なんですよ。
自然農法について色々語る人は多いけど、この主要作物に関する重要な、しかも、飛び抜けた成績の記述に関して説明している人が見当たりません。

それは「無〈Ⅲ〉自然農法」のP233から始まる「米麦」の節にそう言う記述があるワケなんですが、まあ、福岡氏の自然農法ですから、不耕起直播ですね、で、無農薬無肥料無除草みたいな感じです。
それで10a(300坪)当たり1000kgですからね。慣行稲作の倍くらいの収量です。
耕して代掻きして田植えして肥料、農薬を使って500kg前後が普通ですからね。
耕さずに直播きして肥料、農薬使わずに1000kg穫れると言うのは不思議な話です。

あっさり「コレは有り得ない、ウソだ」と言う人も居ます。
大抵の方は、最近の自然農法家の方と同じで、この件には言及しない、と言う感じです。
ま、無視と言う事ですね。
逆に「自然農法で稲作やってみたら、書いてある通り1t穫れた」と言う話は聞いた事がありません。

私はソコら辺は全く興味ないんですよ。ホントだろうがウソだろうがどうでも良いんです。
仮に、記述されている事が事実だったとして、「どんな事が起こったらそうなるのか?」と言う事に興味があります。
そりゃねぇ、例のSTAP細胞の件でも、アレは論文に書かれてる通りに世界中で追試してみても、同じ現象は起こらなかったそうですから、まあ、認められなかったのは仕方ないのですが、ナンカの拍子にそう言う事がたまたま極稀に起こってて、ソコを捉えたんじゃないの?って見方もあるワケですよ。
何か他の現象で、そう言う風に見える未知の現象が存在する・・・・とかね。
まぁ、ああ言うシリアスな世界では、そんなマグレ当たりみたいな事もなかなか無いでしょうけど、屋外の自然の中で行われる農業の場合は、色々複雑な要素が絡み合いますからね。
フツーは起こらないけど、特定の圃場では起こっている、みたいな事もありますから、一概に「有り得ない」とか「ウソだ」とかもちょっとね、と思います。

だからとりあえず、書いてある事は事実であるとしておいて、何がどうなったらそう言う現象が起こるのか?って考えないとダメだと思うんですよ。
それで、色々試してみて、どうやっても絶対に起こる道理がない、ッて事が分かれば「ありゃウソだ」って言ってもいいと思いますけどね。

で、P298の「9 米麦の多収穫栽培」ってトコに「稲の理想型」がどうとか色々細かい事が書いてあるんですけど、面倒臭いので、一番ありそうなトコを拾ってみると、P302に「収量の調査」って表に、平米当たり24株の植栽密度で1142kg収穫したって出てるワケです。
平米24株って言うと、正方植えなら植栽間隔は20x20cmくらいです。
慣行稲作だと平米16株くらい、30x20cmくらいですから、かなりの密植です。
こう言う数値的に分かり易いトコから探って行った方が早いと思うんですよ。
やれ「奇跡」がどうとか、「微生物」がどうとか言ってると、そりゃそう言う事もあるのか知りませんけどね、実際に自分が栽培するッて立場だと、そんなものアテにしてる暇ないッて感じになるんですよ。
まあ、「信者」の人にとってはソッチの方がアリガタイんでしょうけどね。

とりあえず「無肥料でも多収できる」とか「農薬使わなても・・・」とかの方は放っといて、何品種かを20x20と30x20で植えてみたら収量はどんな感じになるか?ってトコだけやってみました。
ホントは各品種を二通りの密度でやってみれば良かったんですけど、場所の都合とか種籾販売の都合とかで、ソコまで出来ませんでした。
今回はそんなんで、ざっとしたテストですが、ある程度の傾向的なモノがチラチラ見える感じはしました。


細かい事は表をご覧いただければお分かりと思います。

上から収量の多い順です。
各品種の栽培面積は1㎡~10㎡くらいの小さなもので、反収(10aの収量)はソレを元にして換算したのであまり精度は高くありません。
「千粒重」は穫れた穀粒を50g計って、その粒数をカウントし一粒当たりのgを出して千倍しました。
「一穂粒数」は全穂数をカウントしといて、収量を千粒重で割って全粒数を出し、それを穂数で割りました。
6月に入ってから播種したモノが殆どなので、若干栽培日数は少なめです。

普通に5月中旬までに播種や田植えをすればもう少し沢山穫れるかも知れません。

最も反収が多かったのは、20x20cmで一本植えした「コシヒカリ」でした。

463.1kg/10aでした。
2位が「福岡糯3号」の30x20cmで445.7kg/10a。
3位が「ヒデコモチ」の20x20cmで404.8kg/10a。
ここまでが400kg/10a以上ですね。

「コシヒカリ」「ヒデコモチ」が良かった要因は「㎡穂数」が多かった事ではないかと思います。
ま、単純な話ですね。穂がいっぱい出たモノが収量が多かった、と言う事です。
「コシヒカリ」は従来から無肥料でも慣行の7割は穫れる、と言われてますから、無肥料栽培や省肥栽培に向いていると言う事かも知れません。

20x20cmで一本植えするとこんな感じです。

出穂期の状態です。植栽密度が高い割には余り過密な感じでもないでしょ?
一株当たりの穂数は10本程度です。それでも株数が多いので㎡穂数は多くなりました。


出穂期でもまだ地面がチラチラ見えているくらいなので、もっと多く出す事もできそうです。

通常より穂は小さいです。密度が高いので茎が太くならなかったのかも知れません。
ズングリ型に育てる工夫をすれば違ってくるかも知れません。
 

「ヒデコモチ」は良く分からないんですけど、この品種は慣行栽培だと7月中に出穂するくらいの早生品種なんですよね。
出穂期だけで見ると現在の品種で最も早いクラスなんですが、じゃあ、単なる極早生品種かと言うと、遅く播けばそれなりに遅く出穂してくれる柔軟性も持っています。
全体に生育速度が早い品種なんじゃないかと思います。

高密度の割には、開帳型に分けつもよく出てガッシリしています。

コレも上から見ると、登熟期でもまだまだスカスカで、もっと分げつを出させてもイケそうです。
定植期を早めれば更に穂数を増やせるんじゃないか?と思いました。

痩せ地の無肥料なので、収穫前になってもかなり涼しい感じです。
元が偏穂重型なので、工夫すればもう少し大きな穂も出せそうな気がします。
確認は出来ていませんが、栽培指針に「窒素の適量施肥を守る」とありますので、コレも省肥品種なのかも知れません。
草型は短稈の偏穂重型なので、型から言うとあまり穂数が多いタイプではなさそうなのですが、今回は何故か沢山出ました。


「コシヒカリ」「ヒデコモチ」共に一穂粒数はそれぞれ66.3、68.5ですから、穂はむしろ小さく出ています。
因みに下から3番目と2番目にある「ユタカコシヒカリ」が収量が低かったのはイモチ病で登熟が悪くて籾が軽かった事と、穂数が多過ぎて一穂粒数が低下してしまったからだと思います。

「福岡糯3号」は言わずと知れた、あの、福岡正信氏が育成された通称「ハッピーヒル」と呼ばれている品種の糯米バージョンですが、さすが本家本元でベスト3に食い込みました。


背丈の割に軸が太いガッシリ型のイネです。
分げつは多くありませんでしたが、とにかく茎が太短い「ドラえもん」みたいなイネです。
穂も太くて丸くて「ドラえもん」の頭みたいです。
コレは他の2種とは違って、穂数は多くなく、一穂粒数の多さで稼ぎました。
とにかく穂が、ねえ。異常なんですよ。

一穂粒数をご覧いただくと分かりますけど、極端に多いでしょう?
タヌキの尻尾みたいな穂ですからね。

穀粒がギッシリ密着しているので色付いても穂が垂れずに上向いて立ってるんですよ。
コレは「コシヒカリ」や「ヒデコモチ」とは逆に、この大きな穂でもう少し数が増えれば、より多収になると思います。
今回は一株8.5穂でしたから、10穂くらいはイケるんじゃないですかね。
それにコレは30x20cmでしたから、20x20cmにして10穂立てれば600kg/10aを超えれると思います。
この品種は極晩生ですから、田植えを早くすれば長い生育期間を確保できますから相当な多収が期待できると思います。

と、言う事で、ザッとした話過ぎて申し訳ありませんが、穂数を多くして更にはその穂をできるだけ大きくすれば収量は多くなる、と言う当たり前過ぎる当たり前の話です。
今回の試験田は真砂土の痩せ地に水を溜めて3年程稲を作ってやっと普通に生育するくらいに肥えて来た無肥料田です。
土は半分くらいが砂利だったのですが、作付け前に頑張って3mm以上くらいの砂利を取り除き、細砂と粘土質と腐植でいくらか田んぼらしくなってきました。
まだドロは茶色で普通の水田みたいに黒くはなっていません。
それでコレくらいですから、普通の水田土壌で一株の穂数を増やすか、植栽密度を上げればこれらの品種は500kg/10aは難しくないだろうと思います。

それでも1tの半分ですね。


ここから先は、「福岡稲作」特有の要素が出てくるのかも知れません。
福岡正信氏は「藁は不要」とか「できるだけ稲を小さく作る」とか書かれてます。
コレは実現が可能なのかどうか、よく分かりませんが、理屈には一理あると思います。

私は何度も小さなイネに大きな穂が出るのを経験した事があります。
逆に、草丈の高い田んぼでイネをかき分けて潜り込んで見ると中は真っ暗です。
ある植栽密度を超えると、イネは大きくなればなる程、上に出ている葉っぱばかりに日が当たって、首から下は互いに覆い合って影になってしまいます。
そうなると「仕事」をしているのはサキッチョだけで、下の方の殆どの葉と茎はサキッチョの葉が作った栄養を浪費して食いつぶしているだけになってしまいます。
イネが小さく、働かずに食ってばかり居る茎や下葉が少なければ、ロスが少なくなって生産性が高まるかも知れません。

植栽密度を高め、茎数を増やす事は、過繁茂、倒伏との戦いです。
イネは茂らせれば茂らせる程、影に隠れる部分が増え、病虫害が出易くなり、倒れ易くなります。
そのどれが酷くなっても収量は低下します。
背丈を高くせずに高密度多穂数(茎数)を実現できれば、これらのリスクを回避できるかも知れません。
今年はその辺りを調べてみたいと思います。