自然農法がブームになって「無肥料栽培」に関心が高まってますね。
中には「無肥料栽培」こそが自然農法の真髄だ、みたいに思っている方もおられるようです。
私は「肥料が足らなんだら、やりぁエエじゃろ」って思うだけなんですけどね。
つまり、まあ、やらずに出来ればソレがイイし、出来ない圃場では適切な施肥を、ってアタリマエの事なんです。

ただ、自分の圃場では殆どやっていません。
なかなか肥料やってる暇がないんですよ。
開墾だの、造成だの、ハウス設置だの、栽培試験だの、記事執筆だのが忙しいからね。
コッチに移転してくる前は、古くからの棚田で土が出来上がっていたから何もしないでもコメや野菜がたっぷり穫れました。
だから農作業は一日2時間くらいで済んだんです。
ココは山を削った造成地で、土には腐植質も肥料分もないガリガリの痩せ地、樹木が生えてたり傾斜があったりで、伐採、整地、腐植投入など、栽培地としてのスタート地点以前の作業が多くて、その分、栽培管理に時間を避けません。

その上、こんな栽培試験ばっかりやってるから・・・

ウチはとにかく、最低限の労力で収獲まで持って行こう、ッて方針ですから、肥料やらずにイケるなら多少栽培成績は悪くても、低労力優先って事でやってます。

そうやって肥料代と労力けちって作ったタネって、どうなんでしょう?
自然農法ファンの方は、無肥料栽培のタネって事で歓迎してくださいますが、果たしてソレは実際に自然農法や無肥料栽培に適したタネになっているのでしょうか?
売ってる限りは多少のチェックもしておかないとマズイですね。

と、言う事で、多肥栽培で採種したイネの種籾と、無肥料栽培で採種したものを比較してみました。


以後、画像は特に断らない限り、上が「少肥」下が「多肥」の親から採種したタネを播いたものです。
多肥の親株は去年、バケツに植えて葉っぱが椿の葉みたいに黒緑色になるほど肥料をやって育てた株から採種したタネです。
少肥の親株は肥料っ気のない真砂土の土地を均して水溜めた即席水田で無肥料栽培しました。
どちらも「コシヒカリ」です。
その種籾を良く洗った砂100%の用土を詰めたプラ舟に18cm間隔くらいで3x5 15箇所に3粒ずつ播き、発芽後に1本に間引きました。
5月末です。


発芽直後は「多肥」のタネの方が少し生育が良かったみたいです。
ま、肥料食わしている分だけタネも大きいですからね。

この画像は手前が「少肥」です。
その後の成長は、見た感じでは殆ど差が無いように見えました。
肥料分のない砂だけ水だけですから、大きくはなりません。
分げつも殆ど出ずピロッと1本だけ立ってる感じです。

そのまま水が減ったら足すだけでひと夏放置しました。
9月上旬に普通より遅れて出穂しました。
コシヒカリはイネの中では少ない肥料で栽培できる品種と言われていますが、全く肥料っけがなければこの位にしか育たないんですよ。
草丈40cmくらいです。

抜き取って束ねて乾燥させました。
左が「少肥のタネ」右が「多肥のタネ」から育ったものです。
たいした違いは無いように見えました。

重量や粒数を計ってみると、チョット面白い結果が出ました。
全草重量(藁と根と穂を付けたままの全体)は、多肥50g、少肥39gで、多肥のタネを播いたものの方が2割くらい多かったです。
穀粒の重量はどちらも12gで同点。
粒数は多肥648粒、少肥655粒と少肥の方が僅かに多く付いていました。

ココまではまあまあどちらも似たようなもの、と言う感じでした。
多肥のタネは茎葉は大きくなっていたけど、結局実ったお米の量は増えなかった。
逆に言うと少肥のタネは小さな体に多くのお米を実らせた、と言う傾向があるように見えます。

ココで米粒をチェックしてみました。
「シイナ」の数を数えました。ぺちゃんこで中身が充実していないタネです。
シイナの粒数を差し引いた「充実粒」の数は、多肥400粒、少肥532粒と、少肥のタネから育ったモノの方が3割以上多かったのです。
多肥のタネから育った株は「シイナ」の数が少肥の倍くらいありました。

この結果を見ると、少肥栽培したイネから採種したタネを無肥料栽培すると、多肥栽培のものより2割小さい株に3割多いコメ粒を実らせた、と言う事になります。

面白い結果ですが、チョット出来すぎな感じがします。
また、多肥由来の株に「シイナ」が多かったのが肥料のせいなのか、他の病害等により起こった偶発的な問題なのか、判断できません。
一穂の全粒がシイナになっているモノが数本ありましたので、「穂いもち」等の病害かも知れません。

来年、もう一度テストしてみます。
去年の多肥のタネを今年もバケツで多肥栽培したものを採種しています。
試験に用いた少肥のタネは今回の採種で少肥2代目です。
来年は2代続けて多肥/少肥栽培したタネで、完全無肥料ではなくもう少し現実的な環境で試験してみたいと思います。