昨秋、イモチ病で全滅した「ミツヒカリ2005」ですが、その中に一株だけ病気に罹らない個体がありました。記事はコチラ 他の個体より出穂が遅いようでしたので、姉妹品種でよりイモチ病に強い「ミツヒカリ2003」が混入したのではないかと推測しました。
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イモチ病が蔓延した原因は、ほぼ解明できました。

①土壌が異常に肥えており、窒素過多となった事。

これは後に、この土地の前の持ち主がシイタケ屋さんで、シイタケを穫った後の「廃菌床」をこの場所に投棄していた事が判明しました。
それで異常に地力が強まっていたのでした。早春にライ麦を作付けた時は多肥状態にならなかったのは、この手の有機物は低温時には地力発現しにくいからでしょう。その為、見落としてしまいました。
そこへ7月21日播種と言う超遅播き試験をしたので、高温で窒素が出易くなったところへ、タネを播いて水をたっぷり入れて・・・・・・そりゃ窒素過多になりますよね。

②不湛水栽培で珪酸の吸収量が不足した。

水はたっぷりやったものの、やはり「畑」です。水田の様に完全に水が溜まった状態ではないので、イネの珪酸吸収量が低下するようです。
細かい事はよく分からないのですが、どうやら土壌中の珪酸がイネに吸収されるには、一度水に溶けなければならないのですが、水を溜めていない状態だと溶け出す珪酸の量が少なく、結果的にイネに吸収される量も低下してしまう、と言う事の様です。
珪酸の吸収量が低下すると、イネは柔らかくなりイモチ病に罹りやすくなります。

③遅播きでイネが軟弱な時期にイモチ病が出易い気候が重なった。

イネが小さいうちは葉の組織が固まっておらず、柔らかいのでイモチ病菌が侵入し易いそうです。
葉が成長して固くなると羅病しにくくなるのですが、遅播きのせいで秋口の気温低下と秋雨とが重なり、発病条件が揃ってしまいました。

④ダムからの濃霧と、アシやオギなどの保菌植物の存在。

イモチ病菌は25~28℃の真夏より少し低い気温で、葉面が濡れている時間が10時間以上続くと葉の中に侵入します。
ここはダムが近く、夜明け前から濃霧が発生し葉がビシャビシャになるので、長時間濡れた状態が続き発病し易くなったようです。
それに加えてダムにはアシやオギなどのイモチ病を多発させているイネ科植物が非常に多いので、そこから菌が風に運ばれて常に供給されていた事も考えられます。

そんなこんなで、結局、全ての発病条件が見事に揃っていたのでした。
その結果、病斑が大量に発生し、いわゆる「ずり込み症状」となって、イネの生育が停止しました。
「ずり込み症状」は始めて経験しましたので何が起こったのやら見当が付きませんでしたが、未だ元気な葉っぱがたくさんあるのに、ピタッと生育が止まって動かなくなるのです。

例えば、九州などでは、早く稲刈りした田んぼは、刈り株からひこばえが伸びて秋に再び出穂し、結構な量のお米が実る事があります。
地上部を全部刈り取ってさえ、再生してお米ができるのに、半分以上葉が残っている株が全く成長しなくなるのはどう云う訳か?もの凄く不思議で、毎日イネを見ながら首を傾げていました。
その時は、イモチ病菌が何か毒素を出して、イネの生育を阻害しているのだろうと思っていましたが、後で詳しく調べたら、どうやら病原菌の侵入を受けるとイネ自身が大量のエチレンを発生させる事が原因のようでした。
エチレンは老化を誘導する植物ホルモンですので、その働きでイネは生育を止めてしまうようです。

このイモチ病に罹らなかった株は、綺麗な葉をしていましたが、周囲の羅病株から発生するエチレンのせいか、それとも気温が下がったせいか、出穂直前になってピタッと動かなくなりました。
茎の先が膨らんで、葉鞘の隙間から穂が見えるところまで行ったのですが、何時まで経っても穂は伸びて来ないので、種籾の収穫は諦め、消耗を避けるために11月11日に地上部を刈り取りました。
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まあ、F1品種なので種籾を採っても翌年同じモノは出ませんから、品種を特定する為にはタネからではダメなわけです。
で、なんとかこの個体を春まで維持して、もう一作、今度は普通の時期に作付けて正体を突き止めたいと思いました。

圃場整備が遅れ、資金不足でビニールハウスも建てて居ないので、イネを越冬させられるだけの設備がありません。
春まで保たせるには最低10℃くらいは必要です。


一株だけなので、鉢植えにして室内で越冬させる事にしました。
鉢ごとすっぽりビニール袋に入れて、窓際で日に当てています。
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これで最低10~15℃が維持できています。熱源には「電気アンカ」を使っています。
ビニール袋の中は湿気が溜まって「アンカ」が濡れる心配があるのでレジ袋を被せてあります。
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これで最低10℃、最高20~25℃に維持でき、イネは少しずつ葉を伸びしてきます。
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真冬の弱い日光で、しかも窓ガラス越し、ビニール袋越しなので、イネはフニャフニャに徒長します。
なるべく明るい場所で日光に当て、枯れない程度で低めの温度にして余分な成長はさせない方が良いかもしれません。
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こんな方法で無理やり越冬させると、春になって一安心した途端にポロッと枯れてしまう事があります。
冬中の無理が祟るのか、なにか生理障害や病害が発生するのか、良く分かりませんが、春先に加温が必要なくなったら、一旦無加温の日当たりの良い場所のビニールハウスなどに地植えして、順化させた後、圃場に定植した方が良さそうです。
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あまりこんな手を使う機会はないと思いますが、現在の栽培イネの祖先には多年生の野生イネが入っているらしく、希少品種や一株だけ見つけた変異個体など、種籾を採り損なった時や世代を進めたくない場合に、栄養系で数年間育て続ける事が可能です。