「アルプス乙女」です。ゴルフボールくらいのクラブアップルで、「フジ」と「ヒメリンゴ」の交配と言われています。
今回ご紹介するのは、その「アルプス乙女」からタネを採って播いた実生苗なので、正しくは、「アルプス乙女の実生」です。

作物には「栄養系」と呼ばれるものがあります。挿し木や接ぎ木で一個体から増やされたクローンの事です。
果樹は殆どそうです。ジャガイモやサツマイモもそうです。イチゴもランナーで増やして苗を作るので「栄養系」です。
生姜、ウコン、ニンニクなどもそうです。
これらは偶発的に発見された優良個体をそのまま切って増やして品種として普及させたものです。
洋蘭などでは、メリクロンと呼ばれるバイオテクノロジーを応用した手法も広く行われています。
これなどは無菌状態のフラスコ内で細胞を培養して増やし、短期間に大量に生産されます。物凄く小さな挿し木みたいなもんです。

植物体の一部、枝葉、根茎など「栄養体」を用いて増殖するので「栄養系」と呼ばれます。
当然、元は一個体ですので、遺伝子は同一のものを持っています。
タネで増やすプロセスがないので、遺伝子なんかどうでもええわ、と言う立場です。

タネで増やす野菜、例えば白菜なんかでは、播いたタネからカブみたいのや、コマツナみたいのや、山東菜みたいのや、色々に出てきては困ります。
白菜もカブもコマツナも山東菜も、みんな元々は同じ植物なので、容易に交雑してごちゃまぜになります。
そんな事になっては困るので、白菜しか生えてこないように、異なる遺伝子が混じっている個体を取り除き、優良な個体からタネを採っては播き、取り除いてはタネを採り、を数代繰り返して、目的の品種の特徴のみを備えた苗しか生えてこないレベルまで遺伝子を純化します。
そうやって固定されたものを「純系品種」と言い、俗に「固定種」と呼ばれています。
タネを播くと親と同じものばかりが生えてくるので、遺伝的に固定されている、それで「固定種」です。


では、「栄養系」や「F1品種」からタネを採って播いたらどうなるでしょう?

世間では「F1品種」はタネが採れないとか、採っても親と同じものは出てこなくてダメなヤツばかり生えてくる、かの様に言っている人がいますが、聞きかじりを喋っているだけで、実際に播いて見て確認してはいないようです。
答えは「モノによって違う」と言う事です。
ほとんど親と見分けの付かないモノが生えてくる品種もあります。バラバラな個性の子供達が出来る場合もあります。タネがなかなか採れなかったり、取れたタネの発芽率が良くない場合もあります。
バラバラと言っても日常的に食用とするにはほとんど問題無い程度のバラつきの事もあれば、極端に違うものが出てきて「こりゃ駄目だ」となる場合もありますが、農家さんで営利栽培に用いるのでなければ、家庭菜園での自家消費用なら極端な問題は起らない事が多いと思います。
一度お試し下さい。

では「栄養系」ではどうでしょうか?
早めに白状すると、「分かりませんm(..)m」と言う事です。

「F1品種」の場合は、「純系品種(固定種)」と「純系品種(固定種)」を掛け合わせて作るので、親の形質自体がソコソコ一定の範囲に入っているので、そう無茶苦茶なものは出てこないと思います。
例えばキュウリなどでは、F1だろうが固定種だろうが、どうせ親は普通に食用に出来るキュウリ同士の交配ですから、見栄えとか収量とか耐病性とか、細かいコトを言えばバラついているんでしょうけど、キュウリがバラついて2割ほどメロンが生えた!!とか言うような面白い事は起こらないわけです。

ところが「栄養系」はそういう訳には行きません。
例えば梨の代表品種「二十世紀」などは、明治21年に千葉で民家のゴミ捨て場に生えていた野良生えのナシだったそうです。
育成者の方は、よくぞまあこんな世界的な大品種をゴミ捨ての中から見つけ出したものだと思います。
野良生えですから当然親は分かりません。
突然変異かもしれません。
この例はちょっと極端かもしれませんが、栄養系は偶発的に実生から現れたものや、枝の一部に変異が起こったもの(枝変わり、芽条変異)などが多く、交配採種して選抜育成されたものではないので、どんな遺伝子を持っているやらあてになりません。


特に果樹では、生育に年数がかかるので、多くは挿し木や接ぎ木で増やされます。
品種改良の為に、交配してタネから栽培する場合もありますが、ほとんどの品種は代を重ねて選抜を繰り返すと言う事は行われず、一発勝負で交配苗の中から優良なものを選抜して、あとは栄養系で増やされます。
つまり選抜淘汰によって優良遺伝子のみをフルイにかけると言う作業が行われていませんので、作物としては有難くない雑駁な遺伝子も潜在的に持っている可能性が高いのです。

そんなワケで果樹品種からタネを採って増やす、と言う事は普通は行われません。
播いて数年育てた後に、先祖返りして実が小さいものや、食用に適さない渋みや苦味の強いものが出てきたりしては、面白くないからです。

「アルプス乙女」は「フジ」と「ヒメリンゴ」の交雑種から選抜されたものと推定されています。初めは「ふじ」と「紅玉」の交雑ではないかと言われていたようですが、DNAを調べると「フジ」と「ヒメリンゴ」のものが検出されたようです。

リンゴは普通、自家受粉しない自家不和合性の果樹です。しかし、「アルプス乙女」はいくらか自家受粉もするようです。
自家受粉でタネが採れるなら、親に近い形質のものが得やすいのではないかと思い、リンゴの実生を思いついた時に、真っ先に選んだ品種です。(リンゴ飴に使われる「姫小町」と言う品種は「アルプス乙女」の実生だそうです)
苗を2本購入したのですが、すぐには実が成らないので(先日、お知らせしましたが、植えたばかりの苗に1つだけ実が付きました)、種まきの練習をしようと、スーパーで買った「アルプス乙女」からタネを採って播いてみました。

驚いた事に、播いてすぐ発芽しました。たぶん3月の10日前後に播いたと思いますが、20日には発芽していました。
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未だ寒いうちだったのでビックリしました。
ここは標高300mくらいあるし、周囲が開けているので放射冷却でかなり冷え込みます。
3月20日頃は未だ氷が張ったりしていたと思います。
リンゴってホントに寒い地方の植物なんだ・・・・と感心しました。
発芽率もとても良く、8割を超えていただろうと思います。
5割以下と見込んで多めに播いていたので、ゾロゾロ生えてきてちょっと困りました。
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生育も順調で、すぐに本葉も出始めました。
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4月10日頃には2、3枚の本葉が出て、樹木の苗らしい形になり始めました。
果樹園では意図的に低樹高になるように栽培しますので、野生状態でリンゴの樹高がどのくらいまでになるのか分からないのですが、「落葉高木」と言う事ですから、10mくらいにはなるのではないかと思います。
売られている苗木は接ぎ木ものですのでちょっと違いますが、1mくらいのものでは枝があまり出ず、一本立ちで真っ直ぐ伸びているようなので、実生でもしばらくはヒョローッと上に幹一本だけで伸びるのではないかと思います。
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6月の20日頃には本葉も数枚となり、かなりしっかりしてきました。
特に生育が早いとも思いませんが、この辺りまではフツーに育っている感じでした。
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しかし、この後、ちょっと様子が変わってきました。
日向に生えたものは葉焼けの様な症状が出て、生育も落ちてきました。
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日陰のものは倍くらいの大きさになっています。
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ここは周りを4mくらいの広葉樹に囲まれていて、リンゴの苗は完全に日陰に生えています。
葉や茎がやわらかく育っている様ですが、まあまあ健全に育っています。
風通しは良いので病害が出る気配はありません。
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いつもの野菜と同様に「不耕起草生直播」なので、気を付けないと草に埋もれます。
フキの葉の右上に2枚の葉が見えます。
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草を刈ると、ほら、こんなに元気に育っています。
数本が固まって生えているので間引いた方が良いのかもしれませんが、自然に一本に癒合するか、強いものだけが残るかしそうなので放置しています。
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日向で葉焼け気味で固く育っている苗と、日陰でやんわり育ってる苗と、どちらが本来のリンゴの育ち方なのか、ちょっと判断に困りますが、山林の自然状態ではほとんどの樹木は他の樹木の林床で芽生えて、葉陰、枝陰で育ちますので、小さいうちは日陰が良いのかもしれません。
また、リンゴはカザフスタン南部、キルギスタン、タジキスタンなどが原産地だそうですから、低温乾燥気味の気候に適応しているようです。
木陰は湿度が高くなりがちですが、通風を図ってやれば気温は高くなく、夏場も心地良い温度湿度を保ちやすいので、林床の草の間で育てるのも良いのかもしれません。

30cmを超えるくらいになれば、少しずつ上の木の枝を間引いて行って木漏れ日栽培に移行しようと思っています。
西日本の気候はリンゴにはあまり適していません。
実生を続ける事によって少しでもこの地の気候に馴染んだ木が育ってくれればと願っています。