先日、移植した「べにふうき」です。
根がつき始めたようで、新芽も伸びてきました。
日除けの寒冷紗も取り除き、平常管理に移りました。
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全体に大柄な「べにふうき」ですが、新芽も大きくスラッとしています。
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左が「べにふうき」右が在来のお茶です。
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「べにふうき」の葉は凹凸が少なく、先が尖っています。
明らかに日本のお茶とは違います。

そこで、品種登録データベースで来歴を調べてみました。

母木は「べにほまれ」父木は「枕Cd86」と出ていました。
より詳しくは、

「べにほまれ」は元幕臣の大田元吉が1875年頃、インドから導入した種子を元に選抜されたものだそうです。
「べにほまれ」は農林省のお茶登録品種第一号で、「茶農林1号」と呼ばれていました。

「枕Cd86」は、ダージリンからの導入系統で、マナスル初登頂に成功した登山隊隊長の槇有恒氏が1954年に鹿児島県に寄贈したものだそうです。

両親ともインド系で、つまり、紅茶用の品種と言うことです。

お茶は、抹茶も緑茶もウーロン茶も紅茶も全て同じチャノキ(Camellia sinensis)の新葉から作られますが、それぞれに適した品種があります。

品種登録データベースで「べにふうき」のデータを読んで、チョット引っかかる部分がありました。
「この品種は,「べにほまれ」に「枕Cd86」を交配して育成された固定品種であり・・・・」
「固定品種」?
先日のF1品種の話でもありましたが、「固定品種」とは種子を取って播くと親と同じ形質の作物が得られる遺伝的に純系になっている品種の事です。
「お茶で固定品種なんか作らんじゃろう・・・・」
お分かりでしょうか?
リンゴやブドウ、ミカンなどの果樹やバラやランなどの花卉、ジャガイモ等のイモ類、ウコンやショウガなど、これらの作物は種から栽培しません。
しかし、品種があります。
リンゴなら「フジ」とか「ツガル」、ジャガイモの「ダンシャク」や「メイクイーン」、これらの「品種」とは一体何なのでしょうか?
これは「栄養系」と言って、今風に言うと「クローン」なのです。
種を播いてその中から形質の良い個体を見つけ出し挿し木や接木で増やしたものです。
芽の先端コンマ1mmくらいを無菌培地で培養して作るメリクロン苗もそうです。
みんな元はと言えば、たった1本の苗から増やしたものなのです。
植物では細胞が全形成能を持っているので、体の一部から完全な植物体を再生する事ができます。
植物の「クローン」は農業では昔から行っている事なのです。
当然、元が一本ですからみんな同じ形質を持つコピーなのです。

栄養系の場合、通常は「固定品種」とは言いません。
遺伝的には固定されていないからです。ですからリンゴやブドウを食べた後、種を庭に播いても元の果物と同じ実を付ける木はできないのです。

そこで鹿児島県枕崎の野菜茶業研究所に問い合わせてみました。
茶の育種を担当しておられる根角様が、親切に教えてくださいました。

お茶は、中国やインドでは同じ親から取れた種子を播いて得られた集団に対して品種名を付けて品種として扱う場合があるのだそうです。
兄弟全部を一つの品種と見るわけですね。
当然、兄弟ですから似てはいますが、いくらかのばらつきが有り、日本ではこのようなものを品種とは認識しません。
これと区別し、選抜した一個体からの栄養系である事を表現するために、「固定品種」と言う言葉が使われているのだそうです。
野菜の固定品種とは意味が違うのですね。

上記の「べにふうき」の来歴も根角様から教えて頂いた事の、受け売りです。

植え替えの時、挿し木した枝も、今のところ元気です。
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新芽も伸びて来ています。
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朝昼晩、噴霧器で水を掛けています。
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芽は伸びてきていますが、根が出ているかどうかはまだ判りません。
お茶の挿し木は初めてなので、良く判らないのです。
もうしばらく様子を見ます。

「べにふうき」(当時は系統名の枕崎3号の名で呼ばれていました。)は、このような両親の交配で得られた種子から育成され、選抜されたのですが、当初は紅茶用の品種として登録を予定されていました。
しかし、なんと登録直前に紅茶品種の育成事業が中止されてしまったのです。
そうです、レンホーが仕分けたのです。
と言うのは嘘で、1971年に紅茶の輸入が自由化され、国内の紅茶産業が壊滅的な打撃を受けたのです。
産業自体が潰れたので、育種も登録も立ち消えになってしまいました。
もしかしたら、ここで「べにふうき」も消えてなくなっていたかもしれません。
しかし、野菜茶業研究所の育種研究者は諦めませんでした。
その後、ウーロン茶ブームの時、「枕崎3号」に半発酵茶試験を行い結果を追加して、日本で始めての紅茶、半発酵茶(ウーロン茶)兼用品種として、ついに1995年に「べにふうき」の名で品種登録に成功しました。

こうして一度は消えかけたメイドインジャパンの紅茶、ウーロン茶用品種が見の目を見るに至ったのです。

その後、緑茶として用いれば抗アレルギー作用がある事が判り、脚光を浴びました。

そして、紅茶用としても2007年と2009年にロンドンで開催された「グレート・テイスト・アワード」(食品コンテスト)で2度も金賞を受賞したそうです。

1870年代に始まった外国茶品種導入の努力は130年近く経ってから、ようやく花開いたのです。

まさに大器晩成を絵に書いたような、ダイナミックな品種ですね。

それにしても、一つの品種が世に出るまでには並々ならぬ地道な努力の積み重ねがあるのですね。
途中で、一度でも途切れてしまったら、二度と作る事は出来ないかもしれません。
品種、タネと言うものはそれほど大切なものなのです。
F1品種だ固定品種だと言う前に、個々の品種の特性と美点を良く理解し貴重な遺伝資源を大切に扱いたいものです。