えー、長くこのブログを愛読して下さってる方だとお気付きかと思いますが
僕の嗜好の範囲は、ゲーム・マンガ・アニメに加え、絵本というものがあります。
絵本のどこがいい?
と訊かれるとまあ見方によっていろいろあるからなかなか難しいんですが
まずゲームから絵本に至るまで、これに書とかロゴタイプとか
まあとにかく目に映るものが好きというのがありまして
絵本はゲームやマンガやアニメではなかなか出会えない超一級の絵に出会えて最高です。
また絵本は画、文章ともに余計な装飾を排しその本質のみで勝負してる点がとても好きですね。
まちがっても子供の情操教育にいいとかそういう部分ではなく
嗜好品として絵本大好き、という感じです。
むしろ0歳からの絵本とか真剣に考えてる人たちに会うと
アッパー昇龍でも喰らわそうかと思ったり思わなかったりw
面白いと思うものに理由はいらんぜよ。
さてさて、そんな僕なのでこの映画を見過ごす訳にはいかんのです。
あの『かいじゅうたちのいるところ』を映画化するってことで
いまいち乗り気じゃない子供を無理矢理連れてって鑑賞。
子連れなもので日本語吹き替え版を鑑賞。
ここで残念なお知らせです。
主人公マックスの声が…
テレビで観かけるたびに大人を小馬鹿にしたような印象を受けイラっとしてしまい
こいつ10連コンボ喰らわしたろかっ!!!
とテレビの前で毒づいてしまう子供店長(加藤清志郎くん)でしたorz
いや、君は君で仕事として頑張ってるのは分かるのだが。
なんか生理的にNG。
ちなみにちょっと前まではポニョの子(大橋のぞみちゃん)も10連コンボ対象だったのですが
NEWマリオで遊ぶ姿、というかその眼差しがガチすぎてステキだったので
現在は応援していますwww
ま、まあ、声は仕方ない。
数多の原作付きアニメでイメージと違う!!!と憤慨しながら
うまいこと補正して楽しんできたマダオ脳発動させて頑張るw
で、上映終了。
原作がかれこれ30年以上愛され続けてる傑作絵本ということで
親子連れ、しかも3歳前後の幼児の姿もけっこう見かけたんだけどみな一様に困惑した様子。
ま、まあそうだよね。
中にはマックスのコスプレして観にきてた猛者(推定8歳)もいて
彼は元気に劇場を飛び出して行きましたけど
後の子は一様に困惑した、そして保護者さんも困惑した様子にビビる。
でも気持ちは分かる。
ということで観た感想など。
まず、オリジナルである絵本『かいじゅうたちのいるところ』について少し。
『かいじゅうたちのいるところ』はアメリカの絵本作家モーリス・センダックが
1963年にアメリカで発表した絵本で原題は『Where the Wild Things are』。
日本語版は1975年に出版され翻訳は劇場版の字幕監修も行っている神宮輝夫。
絵本のあらすじは
主人公マックスがおおかみの着ぐるみをきて大暴れしたところ
おかあさんに怒られて晩飯抜きで寝室に閉じ込められます。
すると寝室に木が生え、森となり、波が押し寄せ船を運んできます。
船に乗ったマックスは約1年の航海ののち、かいじゅうたちのいるところにたどり着きます。
かいじゅうたちはマックスをみて吠えたり爪をたてたりするんですが
それに腹を立てたマックスが「しずかにしろ!」と一喝。
まほうを使いかいじゅうたちをを睨むと
かいじゅうたちは恐れ入ってマックスをかいじゅうの王様に。
王様となったマックスはかいじゅうたちに「かいじゅうおどりをやるぞ!」といい
かいじゅうたちと大騒ぎ。
しかしそれに飽きたマックスはかいじゅたちを晩飯抜きで眠らせます。
マックスは王様なのに寂しくなっておかあさんが恋しくなりまして
どこからかおいしいにおいが漂ってきたので
かいじゅうの王様をやめて帰る事に。
かいじゅうたちは「いかないで、たべてやるからいかないで」と引き止めるも
マックスはさっさと船に乗り約1年の航海ののち部屋に帰り着きます。
部屋には晩ご飯が用意してあり、それはまだあたたかかった。
あらすじと言いつつ、元が絵本なもんでほとんど書いちゃったかもなあw
絵本ってやつは、わずか30ページ前後の中で物語を展開するメディアで
おのずと絵と文章も情報量を削って削って残った結晶の部分を見ることになります。
最終的な価値は読み手に委ねられる事が多いメディアとも言えます。
受け手の感受性でその作品性までもが変わると言ってもいい。
そしてその幅広さ、懐の深さを楽しむメディアといってもいいかもしれません。
マンガやアニメでもそういう面はありますがマンガやアニメはなんてんだろう
深読みの度合いも作者の計算に織り込み済み、な感じがするんだけど
絵本の場合はその辺が読者に完全に委ねられてる気がします。
子供は自分に正直なんでそこを自由に楽しめるんだけど大人はねえ。
けっこう困るんだよなあ、特に絵本は教育にいいとかいってる人たちは困る。
それは動機が不純過ぎるよwww
不純な動機に応えるべく作られた作品もありますが
『かいじゅうたちのいるところ』に関して言えばそうじゃない。
子供に真摯に向き合った作品ですね。
子供が大人社会や現実に憤りを感じ、現実逃避するんだけど
そこで自分を見つめ直して現実に帰ってくる、といった内容でして
あ、これはあくまでも大人になった僕の見方であって
子供達にとってはもちょっと違う見方もあるだろうな。
まあとにかく、子供目線で描かれた、やんちゃでおバカかな作品であります。
大人はいかんよなあ深読みするからw
でもそれもまた、絵本の楽しみのひとつですからね。
もう子供に戻れない大人の楽しみとして許して頂きたいところw
さてさて、世界目線だとかれこれ40年以上読み継がれてきている傑作絵本。
これをマルコビッチの穴などユニークな視点で映画作りをしている
スパイク・ジョーンズ監督が映画化してしまいました。
まずこの暴挙に拍手www
児童文学ならまだしも、絵本ですよ絵本。
わずか数十ページの絵本を映像化する。
元々脳内補完する部分の多い作品、しかも世界中にファンがいる作品を映像化する。
これは生半可な仕事じゃないと思います。
とにかく受け手に委ねられる部分が大きいもんですから
下手するとカスのような作品が出てくる可能性がある。
しかし監督はこれに手を出してきた。
その覚悟や半端じゃないでしょう。
そしてそれは見事にフィルムに定着しておりました。
見事にスパイク・ジョーンズ版『かいじゅうたちのいるところ』として完成していました。
まず最初に驚いた事。
主人公マックスの家庭環境。
絵本ではそんな部分一言も触れられていません。
マックスのいたずらに怒ったおかあさんが一言「この、かいぶつ!」と叫んで
晩飯抜きで部屋に閉じ込めちゃうだけの存在。
しかしジョーンズ版『かいじゅうたちのいるところ』(もうこう書く事にする)では
マックスは母子家庭の子で、お姉ちゃんがいるという設定。
姉の会話、そしてマックスが部屋で地球儀を眺めるシーンで
お父さんとも月に何回か会ってる様子が伺えます。
絵本ではいたずら目的で大暴れするマックスですが
ジョーンズ版では母さんの新しい恋人が家に来てるのがちょっと気に入らないらしく
そこにすねて大暴れ、てな感じで家庭環境は40年前ではなく
今を生きるマックス、って感じでしたね。
21世紀になると、マックスが無邪気でやんちゃないたずらっ子であることを許さなかった模様w
ちょっとナイーブで、ちょっと切れやすい、中二病初期のお子様のようですwww
絵本はいたずら後部屋に閉じ込められて現実逃避の旅が始まる訳ですが
ジョーンズ版は家を飛び出して、走って走って走るうちに船にたどり着きまして
大航海のスタートです。
絵本だったらページふためくりもすればかいじゅうたちのいるところですが
劇場のスクリーンにはほんとに大航海の様子が描かれていて笑う。
偉い目にあっとるなあwww
長い航海の間食料はどうしたんだろう?
なんて野暮な突っ込みはなしでお願いします。
これはファンタジーですからwww
大航海の末、たどり着いた無人島。
ここがジョーンズ版『かいじゅうたちのいるところ』のメインステージ。
いよいよかいじゅうの登場です。
予告編で、かいじゅうの再現度の高さ、素晴らしさは感じておりましたが
本編で改めてその完成度の高さに驚く。
かいじゅうたちは着ぐるみ+CGで作られていました。
かいじゅうたちが暴れ回るシーンはワイヤーアクションなんかも用いられてまして
そりゃもうおおごとでしたよw
いやほんと、センダックの原画の魅力を余すところ無く映像化してあって驚いたなあ。
ちょっと憂いのあるかいじゅうたちの表情に
セサミストリートで有名なジム・ヘンソンが手掛けた
80年代のパペット映画『ダーククリスタル』っぽいな、なんてこと思ったんだけど
後でパンフレット見たらかいじゅう製作はジム・ヘンソン・クリーチャー・ショップだった。
納得w
しかしスーツアクトで撮影した後に表情や仕草などきぐるみでは難しい
細かい演技の部分をCGで差し替えるなんてどんだけ予算と労力かけてるんだよ。
ジョーンズ監督の作品に賭ける並々ならぬ熱意を感じて恐れ入る。
さて、絵本ではただのモンスターの群れとしてしか描かれていなかったかいじゅう達。
しかし、それでは物語が成り立ちませんわな。
原作の持つ雰囲気を壊さずに、話を膨らませる作業。
ジョーンズ監督はこの作品をどう読み込んで、どう思ったのか。
絵本では、マックスは王様となってやりたい放題の挙げ句虚しくなって帰路につきます。
見方を変えるとマックスがお母さんとなり怒る側の気持ちを少し理解して反省する話。
とも取れるな。
ただ単にかいじゅうが大暴れするのを楽しませる方向で楽しむのもありかも。
さてさて、ジョーンズ監督はどう読み解きましたかねえ…
その答えは、これまた今時といったらいいのでしょうか。
群れとしてのかいじゅう一匹、いや一人一人に細かな性格付けがなされまして
そのかいじゅう模様、いや人間模様をマックスがどう受け止め
どう応えるか、という物語に。
優しさ、切なさ、怒り、猜疑心、妬み、嫌悪感、恐怖、孤独、etc
人が持つ感情ひとつひとつを分かりやすい形でかいじゅうに投影し演じさせます。
その感情ひとつひとつは、大人子供関係なく現代に生きる我々が毎日出くわすものですね。
マックスはそれから逃げるようにこのかいじゅうたちの島に来たはず。
なのにかいじゅうたちはマックスをこの複雑な心の問題を
解決してくれるんじゃないかと期待した。
逃げ出したはずのマックス。
だから本心は逃げ出したいと思ってるはずだが相手はかいじゅうです。
下手をすると自分が食われるかもしれないから、
かいじゅう達の王様となり一生懸命頑張ります。
その頑張り、最初はうまくいくかに見えた。
しかし、結局のところマックスひとりではどうすることもできません。
心の問題は根深く、一朝一夕の思いつきでどうこう出来るものではありませんでした。
かいじゅうたちもそのことは分かっていて
マックスは結局家に帰る事になります。
大人子供関係なく、と書きましたが本作は子供が常々感じるであろう理不尽な感情を
子供の視点で描いたものではないかと思います。
露骨に感情を表すかいじゅうたち。
子供達にはおとながかいじゅうに見えてるのかも知れない。
これを親子連れで鑑賞するのはなかなか酷な話ではなかろうか。
そんなことを思いつつ、じっとスクリーンを見つめておりました。
子供の絵本は時として残酷です。
子供にハンパなウソは通じないから、こういうストレートな表現になることも多い。
こういうの意外に少なくないんですな。
そしてそういう作品はまず一部の良識のある(と思っている)親の批判から始まり、
それに反するかの用な子供達の反響、識者の擁護、そしてえらそうな賞の受賞すると
手のひらを返すように親達は物事の本質抜きで
子供にいいからと作品を薦めるようになるというw
『かいじゅうたちのいるところ』もこういう経緯を辿った絵本のひとつと言えそうですが
ジョーンズ監督はこの辺の流れの皮肉も込めて
かいじゅうたちとマックスたちのやりとり考えたとしたら天才すぎるなあ。
この部分は僕が深読みしすぎのような気がしますけどwww
とにかく子供の本は非常に深いです。
同様にこの映画も非常に深い、かもしれない。
しかし、絵本という限られた空間での出来事ならまだしも
映画館という多くの人が集う場所でこの内容は…
酷だわなー
もちろん、かいじゅう踊りやどろだんご戦争等子供らしい無邪気さ溢れる映像もあるんです。
しかしながら子供らしい無邪気さは残酷さと表裏一体。
大人一人での鑑賞ならばそれを遠い日の思い出として捉えることもできるけど
親子連れとなると、心中複雑ではなかろうかと。
だってさ、となりで嫌そうに泥団子戦争を観てるんですよ、娘が。
そしてそのやりとりで映画館全体が気まずい雰囲気になってるという事実w
そういえば、子供向き映画であれば一回や二回よその子の笑い声ウゼー
な場面に出くわしそうなもんですが
この作品ではそんなシーン一度もなかったなあ。
子供も真剣に観ざるを得ない凄みがあったとも言えそうですが
映画を娯楽と捉えると、本作をファミリーで楽しめる作品として捉えてみると
けっこう辛い作品かもしれません。
マックスは男の子だし、こっちも男の子なんであの心情は理解出来ますが
10歳の女の子に男子の暴力的なストレス発散法は耐えられんそうな。
なんかなあ、誘ってすまんかったよ。
これはあれですな、ETVのしゃべり場とか観る心持ちで望んだ方がいいかもしれません。
なもんで小さな子供と観る場合も子供の感情とガチンコ勝負ですんで
親もそれなりの覚悟でよろしくwww
しかしかいじゅうが放つ泥団子はもはや迫撃砲の砲撃。
マックスにあれ当たったら死ぬなw
困惑気味で観ていた娘も、最後の、かいじゅう達との別れのシーンでは泣いておった。
子供の感情揺さぶりまくりですから、その点でこの映画は成功と言ってもいいのかもしれません。
絵本って不思議なもので、子供の時の印象と大人になってからの印象が違うものが多い。
この辺を楽しむのも絵本の楽しみのひとつであります。
この映画もそう言う楽しみ方がてきるってことだろうな。
娘が大人になって観てくれるかは分からんけど。
娘が涙した別れのシーン。
マックスを見送るかいじゅう達の立ち位置、距離感は絶妙すぎでした。
人の感情の距離感を見事に表してたなあ。
いろいろ深いなあジョーンズ版はw
最後、マックスは無事家に帰り着きます。
ドアを開けるとお母さんが待っていて何も言わずにマックスを抱きしめます。
そのまま一言の台詞も無く、マックスが母親に見守られながら
ケーキかなんか食べてるシーンでエンドロール。
今時の母子家庭の子は賢いです。
親の心情ってやつ、ちゃんと分かってるんです。
生きる辛さも分かってます。
だけど、やっぱりこどもだから、分かっていても反抗したくなるんだよな。
マックスは、かいじゅうたちとのふれあいで、少し大人になりました。
今はお母さんを愛おしいと思い、そして子供心に支えたいと思ったかもしれません。
心配疲れからかうたた寝する母を見守るマックスの表情を見てるとそんな気がしました。
いやいや、それにしてもこの子役天才すぐるなあ。
なにより可愛い。
子供店長の吹き替えには最後まで馴染めませんでしたが
マックスを演じたマックス・レコーズの体当たりの演技はほんとにすごかった。
素晴らしすぎてこの先心配になります。
だってハリウッドで成功した子役はもれなくその後
自身のキャリアに悩まされる事になりますから。
苦しいであろう青春時代を経ていい役者になるか、
どこかのタイミングですぱっと違う道を選べるような強い子に育ちますように。
最後に、ミュージックビデオを数多く手掛けたジョーンズ監督らしく
作中の音楽の使い方は最高の一言でした。
抜群にうまい。
かいじゅうの迫真の演技の裏方としていい仕事しておりました。
久々にサントラ欲しいと思った。
以上、かいじゅうたちのいるところを観た感想でした。
やんちゃなガキが主人公の絵本を感動大作にしちゃってジョーンズ監督バカじゃね?
と小馬鹿にしてさっさと済ます予定の感想文でしたが
実際に観て、ジョーンズ監督ののめり込みっぷりに感服するあまり
ゲームレビュー以上の長文になってしまったよ。
分かりやすいファミリー映画にすることだって出来ただろうに。
しかしその妥協無きオリジナルへの愛情はみんなに届くと思いたい。
ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございます。
日頃から絵本のように簡潔に物事の本質を伝えたいなと思ってるんですが
未熟もの故話が長くなりまして。
映画レビューもあんましやんないしなあ。
まあ、また機会がありましたら、というか
今年はティム・バートンの不思議の国のアリスなんか控えてるから
絵本好きとしては子供巻き込んで観るしかないですからw