「ちょっと…邪魔。」

心の中で自分を殴打していた麻琴は虎太郎が隣まで来ているのに気付かなかった。

「虎っ!!」

「誠人、古文の教科書貸して。」

誠人は諌めるように虎太郎に言ったが虎太郎は机の上に置いてあった教科書の山から古文の教科書を探し当てるとフンっと鼻を鳴らして教室を出ていった。

「すまん……。」

「ううん!速川が気にすることないよ!」

麻琴は言ったが虎太郎のことで誠人が謝るのが少し気になった。



チクッ。



「……?」

突然襲った胸の痛みに麻琴は自分の胸を押さえた。

「川本…?胸が痛むのか?」

「…え?あ、違うよ!痒かっただけ。」

気遣う誠人に麻琴は痒くもない胸をボリボリ掻いた。

「そっか。じゃ今日も古賀が部活だったら一緒に帰らないか?」

「えっ!?あ、でも…。」

誠人の申し出に麻琴はたった今虎太郎が出ていったドアを見た。

「虎太郎は車だから。」

麻琴の動作の意味に気付いた誠人は麻琴に言った。

「いいの?」

麻琴はまだ迷うように誠人に尋ねた。

「もちろんだ。」

麻琴の迷いを振り払うかのように誠人は言った。



こうして2人は一緒に下校するようになった。
「あ、おはよっ!マコちゃ…」

「マコちゃんって言うなっていつも言ってんだろっ!!」

翌朝、いつものやり取りを早々に済ませて麻琴は目的の人物の所へと急いだ。

「速川っ!!おはよ!」

「おはよう。毎朝こうなのか?」

麻琴へのため息が満ち溢れた教室を見渡して誠人は苦笑した。

「あ、うん…まぁ。」

麻琴は曖昧に笑って誤魔化した。

「今日は古賀と来たのか?」

「うんっ!それで…その……昨日圭ちゃんにね…あのコト……話した?」

小さな声で尋ねたが自分で言いながら昨日のあのコトを思い出した麻琴は口ごもって消え入りそうな声になってしまった。

誠人の細くて長い指―

『この指が俺のズボンと下着を……って俺、何てこと考えてんだ!?』

頬杖をつく誠人の手を見て麻琴はカーっと顔を赤らめた。

「心配しなくても古賀には言ってないぞ。」

急に顔を赤らめた麻琴を察して誠人はコソッと話した。

「そ、そ、そ、そっか!」

麻琴は赤くなった顔を隠すようにうつむき、早口で言った。

そして麻琴は自分がいやらしい目で誠人を見てしまったことを恥じ、心の中で自分自身を圭介並のパンチ力で殴打した。
「川本はこのこと…」

「いや、麻琴は知らない。変に怖がらせたくないんだ。」

圭介は誠人の話の先を折って否定した。

「そうだったのか…わかった。」

そういって2人の密談は終わりを迎え別れた。


圭介が家に入ると麻琴はさっそく誠人の家で包んでもらった夕食を悠弥達に出しているところだった。

「圭ちゃん……ごめんね。」

部屋に入ってきた圭介を認めると麻琴はそろそろと近寄り上目がちに謝った。

「ほんと、餌で釣られて連れて行かれたのかと思った。」

圭介はいたずらっぽく言って麻琴の顔を覗き込んだ。

「人が真剣に謝ってんのに!!…わぷっ!?」

麻琴が頬を膨らませてしまう前に圭介は麻琴をそのたくましい胸板に抱き寄せた。

「もう心配させんなよ。」

「うん…。」

麻琴はそのまま圭介の胸に頭をもたれた。

「速川にもちゃんとお礼言っとけよ。すんっごい世話になったんだろ?」

そう言って圭介は麻琴の頭をぐしぐしと撫でた。

「えっ!?…そうだよっ!!速川の家すごかったんだから!」

誠人が圭介にどこまで話したのか麻琴は気になったが気を紛らわせるように圭介に誠人の家のことを話しまくった。