「なんだ…彼女いたんだ……。」

麻琴は『女』という単語に恋人を当てはめ呆然とした。

『だから俺とはもう遊んだりできないんだ…。』

麻琴は体育服を握り締めてその場を去った。

麻琴は更衣室に来ると人もまばらになった中へ入った。

「マコちゃん遅れるよ!!」

そう言うとその生徒は最後だったのか慌てたように校庭へと駆け出していった。

麻琴は1人取り残された更衣室でのろのろと着替え始めた。

ズボンを脱いでズボンをロッカーに入れようとした。

カツン…。

小高い音がして何かがポケットから落ちた。

「あ、これ……。」

落ちたものの正体は初めて誠人と出会った時に麻琴の髪に絡まっていたボタンだった。

麻琴はそのボタンを掴み上げるとてのひらに乗せて思いを巡らせた。

初めて会った時の誠人は麻琴が思う男の像だった。

それで2人は学校で再会し麻琴は誠人のような男になりたくてずっと傍にいたかった。

それが今は傍にいられない―

その事実に麻琴は息苦しさを感じててのひらのボタンを握り締めた。

その時始業のチャイムがなった。

それと同時に更衣室のドアが開くと速川が急ぐ訳でもなく中へ入ってきた。
「じゃあね、圭ちゃん!」

「おう。腹いっぱいだからってコケんなよ!」

昼休み。

2人はいつものように別々のクラスに戻った。

『あ…虎太郎だ。』

麻琴と圭介のように誠人と虎太郎は昼休みには一緒に食事をとっていた。

ズキッ

2人の姿を見て麻琴は無意識に胸を押さえた。

2人は無言の内に教室を出ていく。

『どうしよう、行っちゃう!次、体育なのに…。でも何かわかるかもしれない。』

瞬時に麻琴は席に戻り、乱暴にカバンから体操服を取り出すと2人の後を追った。

2人は屋上への階段を上がっていく。

屋上からは最後まで昼休みを粘った生徒がちらほらと下りてきてすれ違った。

2人は屋上までは上がらず手前の踊り場で立ち止まると話を始めた。

「それであの女はどうしたの?」

「今も家にいる。それで…何も変わっていない。」

「誠人…いいの?」

「…あぁ。アメリカに戻ったと思えばいいんだ…。」

一つ下の踊り場で2人の話を聞いていた麻琴は頭の中で結びつくものは何も無かったが1つの仮定を思い描いた。

誠人にはアメリカにいた時から彼女がいてその彼女が今日本に来て誠人の傍にいる…。
「ただいま~。」

麻琴は気だるく玄関を開けると誰もいない空間につぶやいた。

母親は仕事で悠弥はサッカーの練習だし亜季はきっと友達と遊んでいるのだろう。

重いため息と共に重い足取りで自分の部屋へと向かった。

今日もだめだった…。

麻琴の願いはあれから途絶えていた。

誠人の義母から手紙が来た日。

あれから明らかに誠人の様子がおかしい。

どこか距離を置かれているようで一緒の下校を断わられて5日経った。

やはり誠人はアメリカで何かあったのではないか。

でもそれは無限に麻琴の頭の中をぐるぐる回って出口のない迷路のようだった…。

『俺…速川のこと何にも知らないんだ。』

チクッ。

麻琴は痛む胸を押さえた。

『もしかして俺が何かしたから一緒にいたくないのかな?』

この問いも麻琴にとっては出口のない迷路だった。

だがこの問いは確実な痛みとなって胸から全身へと広がっていく。

麻琴はこれらの迷路から逃れるように目を閉じた。

『俺、速川に嫌われたのかな…。』

瞼の裏の暗闇は麻琴を負の方向へと向かわせその大きな瞳から涙を溢れさせた。

しかし麻琴は暗闇から抜け出す術もわからず頬をただただ濡らした。