「まだ…4時か。」

麻琴は覚醒したてのボーっとした頭で呟いた。

一度休んだ身体は少し楽になったが心は重さが増すだけだった。

誠人はどうしてるだろうか。
なぜあんなことになっちゃったんだろうか。
誠人に嫌われてしまったんだろうか。
なんで優しくしてくれたんだろうか。

麻琴の頭の中ではこれらの問いが無限にループしていた。

でも―

誠人があの時更衣室で麻琴を抱いたのには、麻琴の言葉が原因だったはずだ。

―アメリカ育ちならさ、恋愛事とかも手慣れてるんじゃないの?―

麻琴は自分が言ってしまった言葉の重さに打ちのめされていた。

『誰でもそんなこと言われたら怒るだろ…』

あの射るような瞳を思い出しながら同時に優しくキスしてくれたあの唇の感触を思い出して麻琴は自分を抱き締めた。

いつまでも心のモヤモヤは晴れてくれそうにない。

『謝りに……行こう。』

謝ったからと言って誠人は許してくれるかどうかわからないが今の麻琴にはそれしかできることがないように思えた。

「……よし。」

決意を胸に麻琴は疲れの残る身体を起こし身支度を済ますと家のドアを開けた。
「…うぅん…ん…あれ?斉藤さん?」

「気付かれましたか?今お宅にお送りしてるとこでございます。」

小刻な車の揺れに目を覚ました麻琴は状況が掴めずにキョロキョロと見回した。

「俺…なんで…?いっ!?」

「無理をなさらないで横になってて下さい。学校で倒れられたと坊っちゃんから聞きました。」

斉藤はそう言って状況を説明してくれたが麻琴は腰の鈍痛とだるさから素直に言うことを聞き入れた。

「学校の方は坊っちゃんが先生に川本様の早退の許可を頂いたとのことですので安心してくださいませ。」

「それで俺わざわざ斉藤さんに送ってもらってるんですか…ほんとすいません。」

車のシートに頬をつけたまま麻琴は申し訳なさそうに言った。

「大した仕事もないですから気になさらないで下さい。」

斉藤は笑顔を向けると運転を続けた。

麻琴は車の揺れに身を任せたまま頭の中は混乱していた。

誠人は冷たく麻琴を突き放したはずなのになぜここまで気を使ってくれるのか。


『もう…いらない。』


それは深く麻琴の心に突き刺さりズキズキと麻琴の心を痛ませたが誠人の言動の矛盾に麻琴の思考は迷路へと入り込んでしまった。
「…速川…んっ!」

誠人が自身のものを引き抜くと麻琴の中から誠人が放った白濁が溢れだした。

麻琴は絶頂を迎えた達成感と中から誠人のものがなくなった不安から誠人を見つめた。

誠人の瞳には漆黒の中にやっと色が戻ったように優しい光が宿っていたが麻琴が誠人の顔に手を伸ばすとその色は再び失せてしまった。

「速川………?」

伸ばされた麻琴の手を掴むと誠人は目をそらして手を押し戻した。

「お前みたいなやつはアメリカにいなかったから好奇心でただ構ってただけだ。もう…いらない。」

麻琴は大きな目を更に見開いて絶句した。

喉がカラカラに渇いて痛い。

麻琴は誠人の険しい顔が近づいてきたが視界には靄がかかってよくわからなかった。

それが自身の涙だと麻琴は気付かなかったが瞳を閉じると誠人の唇がそっと重なった。

『じゃあなんでこんなに優しくキスするんだよ……』

麻琴の問いは喉の奥に引っかかったまま悲哀と疲弊によって瞼を開けることは叶わなかった。

「……麻琴……」

唇を離した誠人はポツリと呟いた。

もう触れてはいけないんだ―

その決意を胸に秘め眠ってしまった麻琴の身体をそっと抱き締めた。