「…うぅっ…くっ…」

もう何本電車を見送っただろうか。

辺りは闇夜が包み人もまばらになってきた。

麻琴は行く当てもなく駅の構内の隅で泣き続けていた。

麻琴の小さな身体はすっかり夜風に冷えきってさらに小さく見えた。

泣き疲れた身体は涙を拭うことさえ気だるく目は腫れあがってしまっていた。

誰も麻琴がそこにいるとは気付かず人々は電車に飲み込まれては吐き出されを繰り返した。

『…家に帰ろう。』

麻琴は壁に手を突きながら立ち上がるとのろのろと電車の乗車口へ歩き出した。

麻琴はしばらく立っていたが無意識に胸を押さえた。

痛い―

それが胸なのか誠人に抱かれた痛みなのかもうわからなかったがそれはひどく麻琴を疲れさせた。

やっと電車がホームへと入ってくると麻琴は暖かい車内に入り力が抜けたように座った。

車両の乗車は麻琴しかおらず麻琴はすぐに上体だけ寝かせると目を瞑った。

しかし電車のドアが閉まる直前、誰かが急いで乗り込んできた。

麻琴は疲れた身体に従い見向きもしなかったがその乗客は麻琴の目の前にやって来ると静かにジャケットの中の青い小ビンを取り出し布に染み込ませた。
「俺……何やってんだよ。」

麻琴は顔を押さえてその場に蹲ったが麻琴の小さな手からはポタポタと涙がとめどなく流れ落ちた。

彼女がいるってわかってたはずだった。

なのに…

あの女は何なの?
俺じゃだめなの?
もう一緒にはいられないの?
楽しかったのは俺だけだったの?
俺を抱いたようにあの女も抱くの?
なんで何にも教えてくれないの?

怒濤のように吹き出てくる問いは麻琴の中でぐるぐる回るばかりだった。



―もう…いらない。―



その言葉が麻琴の心に深く突き刺さった。

「傍に……いさせてよ…うぅっ…」

その叶うことはないだろう想いは麻琴の胸にどんどん溢れてくるばかりでどんなに涙を流してもその想いは流れることはなく麻琴の心に溜まる一方だった。

しばらくして麻琴はよろよろと立ち上がると塀にもたれかかりながら歩き始めた。

あのままあそこにいても2人が交わる熱が麻琴のもとまで伝わってきそうで麻琴は急に怖くなった。

でもこのまま家には帰りたくなかった。

麻琴は足早にやってきた夜の中へ行く当てもなく歩き始めた。



――涙はまだ全然渇れそうにない。
「うぅぅ…来ちゃった…」

決心してきたはずなのに麻琴は頑丈な作りの玄関に阻まれるように麻琴は躊躇っていた。

『俺のバカッ!!男だろ!ピシッとしろ!』

自分に気合いを入れてインターホンを押そうとしたその時、麻琴の視界の隅に人影が入った気がして麻琴はそちらを見た。

誰もいない。

麻琴は垣根を背伸びして覗き見た。

そこからは庭に面する和室が見えた。

「??…あっ!?……っ!」

そこには誠人と見知らぬ女性がいた。

しかし女性は全裸で正座をしている誠人のものを口にくわえ込み舌で愛撫を繰り返していた。

誠人はまるで凍てついたような無表情で見下ろしている。

「あ…あぁ…っ。」

麻琴は人のそんな場面を見てしまったことよりも誠人が他の人とそんなことをしている事実に声を詰まらせた。

「彼女…?」

かすれた弱々しい声で麻琴は呟くと目をそらした。

その時に頬に何かが伝ったがそれが涙だと気付くまで少し時間がかかった。

麻琴は驚いて頬に手をやると初めて自分の気持ちに気付いてしまった。





『俺、速川のコト好きなんだ…。』