「麻琴…もういいから。」

「でも俺…もういらないって…うっ…く…言われちゃった…ひっく…」

それを聞いた瞬間圭介の手が止まった。

そしてそのまま手を向こう側につくと麻琴が泣きじゃくる目元にそっとキスを落とした。

「圭ちゃ……」

麻琴は驚いて振り返ったが圭介のその真剣な瞳に声がでなくなった。

「もう誰にも渡さない。」

誠人は麻琴の憧れだと知っていた。
それが恋愛に発展するだろうと麻琴自身よりも圭介はわかっていた。
誠人といる時の麻琴、誠人のことを話す麻琴、誠人を見つめる麻琴…。

その笑顔を大切にしたかった。

誠人も麻琴を大切に思っていたはずだった。

だから…

麻琴と誠人がどんどん仲良くなるのを見守っていくと決めた。

しかし麻琴が傷付いてしまった事実に圭介は自分を抑えきれなくなってしまった。

「俺がお前を守る。」

静かにその決心は部屋に響いた。

「ずっと俺の傍にいろ。」

そう言って圭介は麻琴に優しくキスをした。

麻琴は呆然とそのキスを受け入れたが再び涙を溢れさせた。
「ぅ…ん……圭ちゃ…あっ!…ど、どうしたの?」

麻琴は目を覚ますと腫れた目を隠すようにそっぽを向いた。

「『どうしたの?』じゃねぇよ!!お前が電車で寝込けてたから連れて帰ってきてやったんだよ!」

圭介は呆れ顔で言った。

「あっ!そういえば俺なんか変なやつに…」

「夢でも見たんだろ。」

急に不安な表情を向けた麻琴にすかさず圭介は嘘をついた。

「あんな遅くの電車にお前が乗ってるからびっくりしたぜ。速川とも一緒じゃないし…」

麻琴は部屋の目覚まし時計を見た。

時刻はあと少しで午前0時だった。

「うん……心配させちゃってごめんね。」

麻琴はまた誠人の事が頭をよぎりそっぽを向きながら圭介に謝った。

「何かあったのか…?」

圭介は麻琴の頭をそっと優しく撫でながら聞いてみた。

麻琴は優しいその手の温もりに静かに涙を流した。

「俺、速川を怒らせちゃった…それで謝りに行ったけど速川の彼女がいて……うっ…ひっく…」

うっすらと麻琴は状況を説明し始めたが嗚咽を漏らした。

「そ、それでっ…俺…ひっ…くっ…速川の事…」

好き。

その麻琴の気持ちを悟るように圭介はその手に力を少し込めた。
「ご協力ありがとうございました。」

そう言って恐面の駅員は圭介に頭を下げた。

圭介は軽く挨拶を返しただけで麻琴が眠るソファに腰を下ろした。

『佐藤昭夫 32歳 無職 独身か…もうこれでしばらくは大丈夫だな。でも麻琴は速川と一緒に帰ってるんじゃなかったのか…?』

速川とのことを己の胸に閉まったままだった麻琴はソファですやすやと眠っていたが圭介が揺り起こそうとした瞬間圭介は麻琴の目が腫れていることに気付いた。

「はや…かわ…」

寝言は小さかったが麻琴の目尻から涙が伝った。

『何があったんだ?なんで麻琴を1人にした…速川?』

圭介は麻琴の涙を拭ってやりながら沸々と誠人に対する怒りのような感情が湧いてきた。

圭介は無言で立ち上がり麻琴に自分の上着を掛けると背負って駅の事務所を後にした。




「あ、圭くんおかえり。って兄貴!?」

「おう、遅くなって悪いな。」

悠弥は圭介の背中で眠る麻琴に驚いたが圭介は麻琴の目が腫れているのを見られないように足早に麻琴の部屋に向かった。

麻琴をベットに寝かせると圭介は端に腰かけて麻琴の腫れた目にそっと触れた。