「なぜ昨日麻琴を1人にした?」

圭介のその台詞に誠人は気にかかり圭介を見た。

「麻琴は昨日お前に会いに行ったんだ。でも彼女がいたからって駅でずっと泣いてたんだ!!それでその後にあいつがっ!」

圭介はその時の状況を思い出し誠人を責めるように言った。

「それで川本は…」

はっと誠人はこわばった顔をして声を絞りだすように圭介に言った。

「偶然俺がいたから捕まえて警察に突き出した。俺は…お前に麻琴を頼んだはずだぞっ!!!」

虎太郎は誠人が麻琴と一緒に下校しているのは知っていたが圭介の激しい剣幕に口を出せず誠人を心配そうに見つめるしかできなかった。

「そうか……」

それだけ言うと誠人は圭介から目をそらしうなだれた。

「ほんとに麻琴が嫌いになったのか?」

圭介は誠人のその言動からそうではないとわかっていたが確認を取らずにはいられなかった。

しかし誠人から帰ってきた答えは圭介を混乱させるだけだった。

「俺は………川本と一緒にはいられない。」

誠人は立ち上がってそれだけ言うと圭介に背を向け校舎へと歩き出した。

その漆黒の瞳には闇が広がり光は一筋も入ることはなかった。
「速川……ちょっといいか?」

昼休み圭介は恐い顔をして教室に入ってくると誠人に声をかけた。

麻琴は昨日風に当たりすぎだと強引に圭介に学校を休みにさせられた。

「何?誠人はあんたなんかとしゃべる暇ないんだけど?」

席を立とうとする誠人を遮るように虎太郎は立ち上がって圭介に言った。

「虎…お前はここにいろ。」

「でもっ!!」

「いいから。」

圭介が何のために誠人を呼び出すのかそれは虎太郎から見ても明らかだった。

虎太郎は一旦黙って見送ったが距離を置いて2人のあとを追った。


2人は人気のない体育館の裏へとやってくると立ち止まった。

次の瞬間―

圭介は振り向きざまに誠人を殴った。

「誠人っっ!!」

虎太郎は鈍い音と共に地面に転がった誠人へと駆け寄ると誠人の肩を持った。

「いきなり何すんだよっ!!」

虎太郎はその青い目を力一杯開いて圭介に叫んだ。

「麻琴が嫌いになったのか?」

虎太郎の言うことには目もくれず圭介は誠人をまっすぐに見据えて問いかけた。

誠人はうつむいたまま黙って口元に滲む鮮血を拭った。
「圭ちゃっ…俺、どんなに傷付いても速川じゃなきゃ嫌なんだ…ごめっ…ごめん!…ごめんね!…っく…うぅっ…」

溢れ出す気持ちと共に涙は次々と麻琴の目から伝い落ち枕を濡らすしかなかった。

「麻琴…」

「俺、もっともっと我慢するからっ!」

必死に強がる麻琴に圭介はたまらなくなって麻琴を抱き寄せた。

「バカッ!俺はお前の保護者なんだからなっ!!おやじさんが亡くなってから1番我慢したのお前なんだからもう我慢しなくていいんだ。」

圭介は子どもを諭すように言った。

いつも心配で守ってやりたい麻琴の内にある1つの想い。

その強さに圭介は驚いていたがそれと同時に誠人に対する憤りが胸を焼いた。

『どうして麻琴を傷付けたりしたんだ、速川…』

疑問ばかりが空回りを続けた。

「圭ちゃん……俺オトコノコなのにこんなにメソメソしちゃってごめん。」

麻琴は圭介の手がいつもの温もりに戻ったのを感じ取ると力を抜いて圭介にもたれた。

圭介は黙ったまま受け止めていたが麻琴を泣かせてしまった原因が自分も関係していることに自分をきつく戒めた。