「麻琴っ!…速川どうだった?」

朝、麻琴の背中を見つけるなり圭介は走り寄った。

「あ、圭ちゃん!おはよう。速川はまだ眠ってたよ!でも状態は落ち着いてるんだって。それがね、速川一時心臓が止まっちゃったんだって!俺、ほんとに顔向けできないとこだったよ~。よかったぁ!」

笑って送り出してくれた圭介に本当のことは言えなかった。

麻琴は笑顔で精一杯嘘をつく。

しかしその嘘がギュッと麻琴の胸を締め付けた。

「それで俺ね、今日もお見舞いに行こうと思ってんだ。」

散ってしまった心は会うことはできないと思いつつも誠人だけを求めていた。

「そっか。早くよくなるといいなっ!!」

圭介はいつもと同じ調子で麻琴の頭を撫でると笑った。

その笑顔に麻琴は目頭を熱くしたがぐっと堪えた。

『…大丈夫。我慢なら慣れてる。』

オトコノコなんだから―

「速川が目を覚ましたらよろしく言っといてくれよっ!」

麻琴はニコッと笑顔を返しただけで誠人を想った。

『速川…会いたいよ…』

想いは空回りし木枯らしに何度も吹き荒びながらも暖かい春を待つように確かな想いがそこに存在していた。
「こんなの持ってきやがってっ!!」

吐き捨てるようにそう言うと虎太郎は麻琴が買ってきた花束を掴んで取りあげた。

「お前なんか…いなきゃよかったんだっ!!!」

花束を一瞥すると麻琴を睨みつけその花束で麻琴を打ち付けた。

「お前なんかっ!…お前のせいでっ……お前のせいでっっ!!」

「…っ!」

虎太郎は花束を容赦なく麻琴に打ち付けたがそれを戒めでも受けるように麻琴は目を固く閉じて耐えた。

何度も乾いた音が周りに響いたがその中庭と言うには何もないそこへは誰も足を運ばなかった。

そして遂に麻琴は地面に倒れ込んだ。

『俺…やっぱり来ちゃダメだったのかな?こんなに速川に会いたいのに…好きなのに……』

「もうここに来るな!」

手をついて悲嘆にくれる麻琴の傍に茎だけになってしまった花束を投げつけると虎太郎はそう吐き捨てその場を後にした。

裸になり始めた木々たちは寒さから震えるように風に揺れていた。

寒さの中打ち付けられた部分からじりじりと焼かれるような熱を生み出し麻琴は暫く動けなかった。

そして麻琴の心は周りに散った色とりどりの花びらと共に散ってしまった。
「どのツラ下げてここまできたの?」

誠人の病室の前までくると意を決してドアを掴もうとした麻琴に不意に声がかけられた。

静かな口調だったがその鋭く睨まれた蒼眼は麻琴に激しく拒否を示していた。

「…あの…いやっ……その…」

「ちょっと来なよっ!!」

麻琴の躊躇するような態度に益々苛立ちを募らせた虎太郎は麻琴の腕を掴むと無理矢理病院の中庭に引っ張って行った。


「何しにきたの?」

汚れを払うかのように麻琴の腕を掴んでいた手を払うと虎太郎は腕を組んで麻琴に聞いた。

「どういうつもり?誠人がこうなったのはお前のせいなんだぞっ!?のこのこ見舞いに来たりして脳ミソ腐ってんのっ!?」

虎太郎は罵倒は激しさを増していったが麻琴は黙ってそれを聞くことしかできなかった。

「事故で一度誠人の心臓が止まっちゃったんだぞっ!それから誠人はずっと眠ってるんだっ!全部…全部お前せいなんだからなっ!!!」

虎太郎は誠人の病状を思い出すかのように顔を歪めて言った。

虎太郎の言葉が胸に深く深く刺さり麻琴は顔を背けた。

そして虎太郎は麻琴の一挙一動に怒りを募らせ麻琴に手を伸ばした。