『……お義母さん?大丈夫?』

気付けばいつからか誠人がスクールから帰ってくると義母は泣いてばかりいた。

誠人が8才の時に実母は急死し11才の時に父親は12才年下の女性と再婚した。

誠人は義母を母親と言うよりも姉に近い感覚で義母になついたが次第に多忙すぎる父親と若い妻の溝は深まっていった。

誠人は悲嘆に暮れる義母を気遣い義母もそれに応えようと努めたがその微妙なバランスは誠人が13才を迎えたあと突如として崩れ去った。



『…誠人……誠人…』

そう言って義母は今日も誠人の名前を呼んだ。

しかし伸ばされた細くて白い手はなまめかしく誠人の身体を撫でた。

『…お義母さん…?』

その手つきに誠人は戸惑い義母に問いかけた。

『私には…貴方だけ……』

そう言って誠人の肩に腕を回すと強く抱き締めた。

そして涙が溢れる瞳を誠人に向けると誠人の唇に自分の唇を重ねた。

誠人はされるがまま口の中にねっとりとした舌をさしこまれビクッと身体を震わせた。

そんな誠人の反応までも楽しむかのようにその舌は誠人を饕り翻弄していった。

その瞳はガラス玉のように何者も映してはいなかった。
「結構前に持ってきてたからもう帰っちゃったんじゃないかしら?昔は屋上から見る景色が好きで私の仕事が終わるまで屋上で1人遊んでたんだけど。速川くん明日が退院だから会ってきないって言っといたのに…ほんとごめんね。」

美佐子はすまなそうにそう言った。

「あ、いえ…」

誠人はそれだけ言うとノートを受け取った。

『あんなひどいことしておいて会いに来てくれるはずない…。』

誠人は麻琴に会えると期待していた自分を自嘲した。

そして誠人はノートを開かずにそのまま膝の上に置いた。

明日にはアメリカに帰る―

『大丈夫…前の生活に戻るだけだ…』

誠人はそう思いながらも自分の胸に闇が広がって行くのがわかった。

「あら、お母様。こんにちは。じゃ私は行くわね。何かあったら呼んでちょうだい。」

そう言って美佐子は部屋を出ていった。

「誠人さん。やっと明日アメリカに帰れるわね。アメリカにいる間とても心配だったんだから。」

そう言ってにっこりと笑った笑顔は誠人が母と呼ぶには若すぎた。

それを見ながら誠人は胸の闇が深く黒く染まって行くのを感じていた。