彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい。
それが私の願いだった。そして、彼女の運命を変えるため私は魔法少女の力を得た。
私はまどかを守る……ほどのことをしてきたわけではなかったけど、微力でもまどかの力にはなれたつもりだった。運命は未だ変えることはできないけれど、少しずつでも変化は生まれてくると信じていた。
……けど、それは思い込みなんだ。
まどかを守っているつもりだったのに私はまだ、まどかに守られていたのだ。まどかの横にいられないことが、怖くて、辛くて、痛い。
強くならなきゃダメなのに、私は昔と何も変わっていない。
雑居ビルの屋上で夜風を受ける。春が近いはずなのに、風はまだ冷たい。
「やぁ、今日は独りなんだね」
赤い瞳を爛々と輝かせる、白い小動物がどこからともなく現れた。
「あの女を連れてきたのはあなたね、インキューベーター」
存在を無視するように眼下に広がるネオン街を見下ろしながら呟いた。
「キュウべぇでいいよ、曉美ほむら」
ぱたぱたと風に靡く髪を押さえる。
「あれ? 今日は銃弾の無駄使いはしないの?」
「無駄使いではないわ、まどかにそれだけ近づきにくくなるもの。だから、あの女……如月クリスを使ったんでしょ」
「君たち二人じゃ、この町を守るのは大変だからね」
一人よ、と私は夜空に話しかける。
「どちらにせよ、魔女はやってくる。君が鹿目まどかに執着しているのは分かるけど、魔女を倒さなければ、この町の人々は魔女に食べられてしまうからね」
さも誰かを守ってあげたほうがいいと言いたげなセリフに心が苛立つも、この小動物には何を言っても無駄、価値観がまるで違うのだ。
「あの女は何者なの?」
そう言ってまともに答えるような奴じゃないのは分かっているけど、少しでもヒントになればいい。特に彼女の力の正体はいまだ判明してないのだ。今まで出会った魔法少女のように物理的な能力ではない。どちらかと言えば、私のように概念系の能力だろう。
――私はこの世界で、やりなおしたいの――
とても引っかかるセリフ。
「彼女は君だよ」
思わず、この世の中で一番嫌いな奴を見てしまう。
……私と同じ?
「そう、そして鹿目まどかとも一緒かな」
また、そうやって抽象的な表現ではぐらかすつもりね。
「どういう意味?」
「彼女はキミたち人間のいうところである、友達想いな娘なんだよ」
「最悪な性格だったけど」
「それは如月クリスじゃないさ、彼女の友達だよ、大切な」
相変わらず何を言っているか理解できない。そもそもこの悪魔は、私達人間と同じ立ち位置で話そうなどと思っていない。宇宙の安定の為には、何でも犠牲にするつもりなのだ。
「謎解きはうんざりよ」
「やれやれ、人間はいつも答えだけを急ぐね。少しばかり考えて欲しいよ、この宇宙のことも。そして、君が今までに一体何人の魔女を倒してきたかについても」
「何人……?」
いちいち数えてなかったけど、もう四度目だ、他の魔法少女達よりかなり多くの魔女と戦っているはず。時間にすれば魔法少女になって二ヶ月と十日だけど、その間は濃密な……
「っ!」
そうだ。この時間軸ではもう既に十日経ってるはずなのに、私はまだ一人の魔女としか会っていない?
「ようやく気づいたんだね。まぁ、ボクも魔法少女の姿をした使い魔を使役する魔女に会うのは初めてだったし、君たちが騙されるのも無理はないよ」
「まどかはどこ?」
盾から拳銃を取り出し、インキュベーターの頭部へ照準を向ける。コイツは分かっていたのだ、分かっていながら、私達の元へ引き込んだのだ。
「鹿目まどかは、ボクとキミのどちらを選ぶのかな?」
何事もなかったかのような調子でインキュベーターは語りかけてくる。
「まどかは正しい方を選ぶわ」
「そうだね。正しき方を選ぶ。キミをね。だからボクを選ぶことになってしまうんだよ」
「……」
「キミが鹿目まどかを大切に想えば想うほど、彼女はボクを選ぶ。だったら、後でも今でも一緒じゃないか?」
「……あなたたちがいかに優れた存在だろうが決して分からないことがある」
「ボクらは神ではないからね。万能とはいわないさ」
「神さまじゃないから、宇宙を救えないものね。思春期の少女を犠牲にしなければいけない方法しかとれない」
「その程度の犠牲で救えると言って欲しいね」
「……私はまどかを救う。誰かじゃない、私が彼女を救うわ」
「キミは神になるとでも言うのかい?」
「私は神様なんかじゃない。でも、きっと神さまは、きっと……」
「わけがわからないよ。どうして人間は存在しないものを信じられるのかい?」
「だから、そう言ったわ。あなたには分からないって」
「……」
「もう一度、聞くわ。まどかはどこ?」
引き金に指をかける。
「大きい結界だからね、探すのに苦労したよ。ここから東に三キロほどの場所、建設中のマンションに」
私は全てを聞く前に夜空に舞い上がった。。
「鹿目まどかをよろしくね。彼女は僕達の希望なんだから」