3人でカラオケに行く途中、チョロQの話になった。私が仕事中に考えたクジの話をすると、2人とも賛同してくれた。「凄いね完璧じゃない?手間が楽で売り上げも期待できそうだよそれ」2人はそう言ってくれたが、私には一つだけ疑念があった。社員の不正だ。だがこの件で不正をする人間を炙り出せるとも考えていた。不正とはこういうことだ。買取で高額品が来る。100円で買取って売り場に出さないで、250円で買ってしっかりしたお店やオークションで転売する。これをやられるとクジの当たりが無くなり売り上げに影響が出る。売れなくなったところで社員は損しないんだ。廃れればその分メインに力を入れれるし何よりもバレないのが問題だ。チョロQの知識さえあれば…。自分のメリットになると解ればうちの社員は覚える事だろう。


だが、同じ職場で働く社員を信じられなくなったら終わりだ。私は理不尽な事が許せない性格だと自覚している。以前からトレーディングカードで不正をする社員が居るのも知っている。買取金額をずらす不正だ。売れ筋の1枚1000円の在庫があったとする。それを在庫10枚の平均100円のカードに一時移動する。11枚で2000円になった所で500円で前のカードに戻す。これで売れ筋の原価は半額の500円だ。残りの10枚は1500円に上がった訳だが緩和されて1枚150円だ。これは既に全社員が当たり前のようにやっているが私は許せなかった。そして全ての社員を敵に回して上司に報告する事も出来ず見てみぬフリをしていた。本部のデータで゜簡単に解るものだから上司公認ともいえる不正だと思っていた。じゃなければ無能上司だ。


まぁ、そんな社員たちが働く職場な訳で、心配もしたくなる。まぁ、今は仕事を忘れストレス発散にカラオケに来ているんだ。私はそう思い、キックザカンクルーの【マルシェ】を歌った。うん、今日のテンションは上がってるんだ。最悪不正があったとしてもチョロQが売れなくなると言うだけの事だ。そんな感じに仕事の嫌な事を考えてしまうのだが、カラオケを歌っている間はその感情は掻き消えていた。ふとカラオケの画面を見るとラルクアンシエルのフラワーが始まろうとしていた。「あれ?俺こんな曲入れたっけ?」私がそう言うと、松田さんが「あぁ、これ私~ラルク大好きなの」と照れくさそうにこちらを見た。曲が始まり私は驚いていた。上手い。松田さんはライブとかにも行ってるのかな?そう思わせる、どうどうとした歌いっぷりだった。

休憩から仕事に戻った私は、仕事中もチョロQの事ばかり考えていた。誰でも簡単にそれでいて利益を出せる方法・・・。100円買取ならうちの会社の規模なら1日100台くらいは買い取りにくるだろう…。買い取ったものを私が居る店舗に集めてここで値付けするのも手間がかかりすぎる。誰でも簡単に・・・そうだ!クジにしよう。中古で買い取ったものを全て黒い袋に個別で入れ1個250円だ。これなら誰でも出来るし、何が出るか解らない絶版物が当たる可能性もあるクジなら話題性もある。盗難防止でお金もらってカウンター横で引かせれば完璧だ。


考えがまとまり安心した私は、その後はチョロQのことは考えず仕事に励んだ。その日は忙しかったが、バイトの2人が頑張ってくれたおかげで無事に終わった。「佐藤さん、松田さん、お疲れ様。2人が頑張ってくれて助かったよ」私がそう言うと、松田さんが「どうしてダダさんの日に頑張れるか今解った気がする。他の社員さんって絶対お礼言わないんだよね」とこちらを見て微笑んだ。それを聞いていた佐藤さんが「確かにそれはあるかも?内田さんとか、お疲れの一言すら無い時あるし」と続いた。


「よし、解った。今度会議のときに全員に言っておくよ。うちの会社の経営理念だからね。従業員が気持ちよく働ける環境って言うのも」私がそう言うと、「こんなブラック企業で経営理念に凄い事かいてるよね…ダダさん、この後のクローズ作業2時間、残業代付かないんでしょ」と松田さんが考え込みながら呟いた。「まぁ、金銭面は諦めてるよ。せめて楽しくやりたいでしょ。そうだ、2人とも2時間後カラオケ行かない?頑張ったらその分遊ばないとね」私がそう言うと「決定~。今日は歌いまくるぞ~!」と、2人とも乗り気だった。仕事の後のカラオケは自分の中ではルーティンに組み込まれていると言ってもいい。


「じゃあ、即行でクローズ終わらせるから、その後メールするよ」私がそう言うと、「ん、私たちもクローズ手伝うよ暇だし」と2人とも残業代無しで仕事をしてくれた。この辺りにも考えさせられるものがあるな。と思っていた。カラオケが無かったとしても、暇ならこの2人は手伝ってくれる。私が上司なら給料出さずにいられないところだが…そして無駄にお金出したくないから手伝わせない環境。これはどうするべきなのか。まぁ、私ごときが考えても無駄な話か…そう思いその考えを振り払った。



私には中古チョロQで利益を上げれるとは端から思っていなかった。自分がコレクターだからこそだ。集めてる人間は買いそびれたもの以外興味は無いんだ。買取で絶版物が運よく少量手に入ったところで、見分ける人間が自分以外居ないんだ。教えようとも覚えない。したがって手間がかからないように一律100円買取だ。だが6店舗で値段を付けれる人間も自分しかいないんだ。マニュアルに出来ようも無い。それほどチョロQは手間がかかる。


誰がありふれて出回ってるチョロQを250円で買うのだろう…。無駄な在庫ばかりが溜まり、売れ筋が無い状態しか思い浮かばなかった。その売れ筋さえも爆発的に売れようも無い。やれやれ、また解りきった無駄な手間が増えるのか。反論したのだがいつものごとくスルーされ、買い取り価格は100円と言う事に決まった。まぁ100円ならどんなチョロQでも子供に売れるか…。そう、100円買取はあきらめた際に、販売で売れそうな限界の価格で私が決めたんだ。


自店に帰るとバイトの女の子2人がちょうど出社してきていた。佐藤さんと松田さんだ。佐藤さんはあわてて更衣室のドアノブを掴むと、「ダダさんお疲れ様です。私達すぐ着替えるんで待っててください」とすぐに部屋に入り、続いて松田さんが入り、「覗いちゃだめですよ」とこちらを軽く睨みながら笑った。「ばっか、の、覗くわけ無いだろ!」と私が言うとドア越しに2人の笑い声が聞こえた。「ふむ、覗く価値はある言い方だな。よろしい入りたまえ」「ちょっと待って」と2人のやり取りが聞こえたが、私はドアに背を向け聞こえないフリをしていた。


「ダダさん、お待たせ~」着替えを終えた松田さんがドアを開けて出迎えてくれた。うちの職場は更衣室と休憩室を兼ねているので、女子が着替える際は部屋の外で待つのがきまりだ。2人とも仕事にはまだ早いので、私は先ほど本部で上司から聞いた件を話す事にした。「二人とも、次回のチラシで買取がさらに増えるぞ」私がそういうと、二人ともうんざりした様子で、「また大山部長の無理難題~?ダダさん大変すぎでしょ。他の社員に振ればいいのに。出社してるだけの内田さんみたいな社員も居るのに」佐藤さんはそう言うが、内田という社員は遠距離出社でルーティンでいっぱいいっぱいなのだ。


「悪口は良くないが、彼は駄目だ。時間とやる気が無い」私がそういうと2人とも大笑いして松田さんが言った。「時間はともかくやる気は問題でしょ~」それを聞いて私は素直に思った事を言う事にした。「内田が担当になった場合、ルーティン以外の負担は全てバイトに来るよ。私が担当すれば殆ど一人でこなすから、迷惑はかけないと思う。誰か担当一人に落とし込めればいいんだけど今回は物も悪い。社員はおかしな成果主義が当たり前になってるから内田も仕方ないんだよ」


「ところで買い取る物って何?」佐藤さんが多少気だるそうに聞いてきた。「チョロQだよ」私がそう言うと、「チョロQ~?売れ無そう…」と2人が声を揃えて言った。「あぁ、俺もそう思う。担当が言うんだから間違いない。いや、断言する売れないよ」それを聞いた松田さんは噴出していた。「コラ、担当!しっかりしろ~!ダダさんもやる気ないじゃん」それを聞いて俺はすぐに反論した。「いや、やる気出しても売れないんだって…。やる前に解るんだよやる気があるから」私は自分でも理解できない台詞を口走っていた。