Prospect Fighter 〜ボウ・ニッケル〜 | 銀玉戦士のアトリエ

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🇺🇸ボウ・ニッケル🇺🇸(UFCミドル級)

生年月日  1996年1月14日(26歳)

プロMMA戦績  3勝0敗

 

 

以前アップした記事「Dana White’s Contender Series 感想」https://ameblo.jp/fanroad-gindama/entry-12758111296.html?frm=theme でも触れましたが、期待のゴールデンルーキー、ボウ・ニッケルが、先月行われた「Dana White’s Contender Series(以下DWCS)」に出場し、1R 52秒での一本勝ちを決めて、UFCとの正式契約を結びました。

 

前々回のDWCSに出場した時のニッケルは1R秒殺一本勝ちで圧勝、試合内容だけを見れば契約確実かと思われましたが、彼はまだプロでは2戦しか戦っていないという事で契約が見送られ、経験を積ませるために9月27日開催のコンテンダーシリーズに再び参戦させるという経緯がありました。

最注目選手という事で、恐らくはプロモーションも兼ねての再出場となったニッケル。今シーズンのDWCSのトリを飾る重要な試合で、ニッケルは驚愕のパフォーマンスを見せ付けてまたもや1R 秒殺一本勝利を決め、晴れてUFC行きの切符を掴む事が出来ました。

 

 

改めて紹介しておきましょう。

 

ボウ・ニッケルは、全米大学体育協会の中でも最も権威の高いNCAAデビジョン1の全米レスリング選手権を3年連続で優勝し、オールアメリカンに4度選出された生粋のアメリカンレスリングエリートです。

レスリング出身の北米MMAファイターといえば、ジョン・ジョーンズ、ダニエル・コーミエ、カマル・ウスマンなど、数々のUFC王者達を生み出していますが、ニッケルはその中でも飛び抜けて評価が高く、大学レスリング時代では後に東京オリンピック金メダリストとなったデイビット・テイラーと同門で、良きライバル関係を築き上げてきたほどの実力を持っています。

 

 

💽ボウ・ニッケル レスリングハイライト動画🔜https://youtu.be/S4WofWc8Y1c 

 

 

上がニッケルのレスリング時代のハイライト動画です。豪快なリフトでのテイクダウンは勿論の事、特筆すべきなのはグラウンドの攻防になった時の相手の動きに合わせてポジションを変化させるボディコントロールと、タックルを切ってからバックポジションへ回る際の素早い身のこなし、そしてフロントチョークやダースチョーク、膝十字といったMMAでも使用されるサブミッションをレスリングの試合でも固め技として使っている事です。

 

2019年に大学を卒業すると、東京オリンピックへの出場を目標に掲げたニッケル。と同時に、MMAマネジメント契約を結び、名門ジム、アメリカン・トップチームに移籍してプロMMAの練習をスタートさせます。

2021年に後の東京オリンピックレスリング金メダリストとなったデイビッド・テイラーに敗れ、オリンピック選手への夢を閉ざされたニッケルは、MMAへの本格的な転向を発表し、同年9月にアマチュアMMAデビュー。デビュー戦を肩固めで一本勝ち、2戦目は左ストレート一発でKO勝ちしています。

そして、2022年6月に、ホルヘ・マスヴィタルがプロモーターを務める「iKON FC」でニッケルはプロデビュー戦を行い、秒殺KO勝利を飾っています。

 

💽ボウ・ニッケル  MMAデビュー戦試合動画🔜https://youtu.be/Om0yAd8gM-s

 

打撃に関しても非凡な才能を感じます。ダウンを奪った後の起き上がりざまのコンビネーションも的確ですし、脳にゴツンと衝撃を与える位の固そうな拳をソリッドに打ち込めますし、やはりレスリング出身という事もあり体幹も強いので、打撃フォームにブレがないです。

 

このKOシーンがUFCファイトパスのSNSアカウントで大々的に宣伝されると、ニッケルは8月にUFCとの正式契約が掛かったリアリティショー番組、DWCSに出場。試合はニッケルがいきなりテイクダウンを奪うと、立ち上がろうとする相手をフロントでがぶってチョークを決めようとしますが、そこからバックに回りリアネイキドチョークで一本勝ちを納めました。

 

この勝ち方ならUFCとの契約確実かと思われましたが、上述の通りプロMMA経験が2試合しかないニッケルに経験を積ませるという意味で、契約は見送りに。

改めて9月27日にDWCSへの再出陣が決まったニッケル。相手は北米フィーダーショー団体Cage Furyミドル級王者で、プロ7勝1敗、アマチュアでも8戦こなしておりキャリア豊富なドノヴァン・ビアードです。

 

プロでも(フィーダーショー団体では)それなりの実力者であるビアードを相手に、プロMMA経験が浅いニッケルは苦戦するのではという懸念も試合前にはありましたが、いざ試合が始まると開始30秒で左のオーバーハンドを当ててそのままテイクダウンしたニッケルが、そのままグラウンドに移行しマウントポジションを取った後、三角締めをセットして52秒一本勝ちという圧巻の勝利で、UFC行きの切符を手に入れる事が出来ました。

 

💽ボウ・ニッケルVSドノヴァン・ビアード 試合動画🔜https://youtu.be/Fv89CwP143c

 

見ての通り、ニッケルが一方的にドミネイトした試合ではありましたが、スロー映像で見てみると短い試合時間の中でも細かいテクニックが凝縮された内容となっています。ここで解説していきましょう。

 

 

 

1️⃣オーバーハンドレフト→ニータップ

 

低い重心から放たれるオーバーハンドパンチはMMAにおいてはタックルのフェイントとしてもよく用いられており、レスリングが得意なニッケルにとっては効果的な攻撃と言えます。

ニッケルが左のオーバーハンドを当てたシーンでも、この攻撃でダウンを奪ったかのように見えますが、実は左でオーバーハンドを当てると同時に右手で相手の膝裏を抱えるニータップでバランスを崩し、殴った左手でそのまま相手をプッシュするような形でテイクダウンを奪っています。

 

 

ニータップは元UFC王者のジョルジュ・サンピエールやフランク・エドガー、デメトリアス・ジョンソンらが得意とする技ですが、ニッケルの場合だとオーバーハンドレフト単体でもダウンを奪える程の強烈な打撃を当てつつ、ニータップでTDに移行するのだから、相手はマトモに対処できません。

 

 

2️⃣フロントギロチン→マウントポジションへの移行

 

 

TDを奪われたビアードは、立ち上がろうとしますが、ニッケルは相手の頭をがぶるような形で抱えて組み伏せます。

いわゆるフロントギロチンですが、ニッケルはそこからすかさずマウントポジションの形に持ち込みました。

 

3️⃣三角締めのセット→フィニッシュ

 

 

マウントポジションを取る事に成功したニッケル。下になったビアードはグラウンドから逃れようと身体をロールさせますが、ニッケルはその動きを察知すると、上下のポジションを入れ替えると同時に自分の足を相手の首と左肩にロックする三角締めの形を作ります。

 

 

そして相手から見ると横のポジションを取り、左手で相手の膝裏を抱えて脱出できない体勢を作り上げてタップさせています。

 

 

恐らくですが、ニッケルはビアードにロールさせるためにマウントポジションの押さえ込みをあえて緩めて、三角締めをセットする「罠」を仕掛けたのだと思っています。

そしてフィニッシュ直前に左手で相手の膝裏を抱えて固定していますが、これはレスリング時代にも相手を押さえ込む時によく使っているのがダイジェスト映像でも見られています。ニッケルはMMAプロデビュー前にもグラップリングの試合に何度か出場していますし、ある意味柔術とレスリングの融合とも言える三角締めでのフィニッシュでした。

 

 

 

このように、短い試合時間の中でも打→投→極を連動させた試合作りをこなしていて、その洗練ぶりはとてもプロMMA3戦目の選手とは思えません。

プロデビュー前からダスティン・ポイエー、堀口恭司ら世界のトップファイター達が所属するアメリカン・トップチームで質の高い練習を積んできたというのも大きいでしょう。

その身体能力とMMAの才能はヘンリー・セフード、ベン・アスクレン、ホルヘ・マスヴィタルらUFCトップファイター達から既に高い評価を受けています。

 

これまでのカレッジレスリング出身のMMAファイターだと、レスリングを引退して1からMMAの練習を始める、というパターンが多かったですが、近年はレスリングや柔術をバリバリやっていた頃から並行してMMAの練習をやっている、という選手がプロMMAに転向して大きく活躍している傾向にあります。現在UFCで活躍しているカムザット・チマエフやアーマン・ツァルキアンがその代表的な選手です。

 

物心ついた時から最先端MMAの映像に親しみ、バックボーンである高い組み技の能力をキープさせながらも、同時にMMAを咀嚼して試合の中で実践する能力にも秀でている。

ボウ・ニッケルはまさに新時代のMMAサラブレッドです。

プロMMA経験がまだ浅い事や、長期戦になった時の試合運びや引き出しが今後は問われてくるとは思いますが、既にそれを想定した練習は行っているでしょうし、実戦の中でそこは明らかになってくるでしょう。

 

そのニッケルのUFCデビュー戦が、12月10日開催のUFC282に決定しました。

相手は現在2連敗中のジェイミー・ピケット。UFCデビュー戦の相手としては丁度いいと言えますが、リリースを免れるために目の色を変えてこの試合に臨むであろうピケット相手にニッケルがどんな試合をやってのけるのか楽しみです。

 

 

既に「イスラエル・アデサンヤやカムザット・チマエフと試合をする準備は出来ている」と明言したニッケル。

彼ならば5年後、いや2年後にはUFCミドル級王者になっているかもしれません。

高い実力と甘いマスクで早くもUFCファンから注目の的となっている次世代のスーパースターが、UFCという世界最高峰の舞台で数々の伝説を築き上げる日も、そう遠くはないはずです。