日本人MMAファイターが国際戦で勝てない理由を検証してみる。 | 銀玉戦士のアトリエ

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さてさて、どうやらここ二ヶ月間、日本人MMAファイターがUFC、ONE、ベラトール、PFLと、海外メジャー興行でずっと勝ち星のない状態が続いているそうです。

それだけでなく、先月行われたRIZINでも日本人選手が外国人選手に勝てないという状況だったみたいです。

頼みのエースである堀口恭司も先月のベラトール興行でパトリック・ミックスに判定負けを喫したようで、ニッポンジンMMAファンの嘆きと哀しみの声がTwitter界隈では溢れているそうです。

で、ここに来て間が悪いというか、昨日UFCで行われる予定だった平良達郎のUFCデビュー戦が相手の体調不良で二週間後に延期となって、Twitterのイキリキッズ達が朝早起きしたにも関わらず徒労に終わってしまってキレ散らかしているようで、そういうのもフラストレーションに拍車が掛かっているんでしょう。

そんな事よりも、メインイベントのマルロン・ヴェラVSロブ・フォントが年間最高試合レベルのベストファイトだったので、格闘技好きの人だったら是非観て欲しいんですけどね。

 

それはさておき、過去を振り返ってみますと、2010年の青木VSメレンデス、アンデウソンVS岡見勇信などなど、日本人MMAファイターが海外プロモーションのタイトルマッチの舞台やトップファイターとの試合で外国人選手の壁に跳ね返されているシーンはこれまでも何度も見てきました。思えば当時は「日本最弱」なんてゴング格闘技の煽り文句もあったようですが、それでも当時の青木真也はライト級でトップ5の実力に入っている選手でしたし、岡見もUFCミドル級ではランキング3位に入っていたトップ選手でした。

 

それが今となっては、UFCと契約している日本人選手は4人のみ、ランキングに名を連ねている選手は一人も居ません。むしろ青木メレンデスの頃よりも状況は厳しくなっているのでは、という話ではありますが、やっぱり10年以上前と今とを比較しますと世界各国のMMAのレベルは底上げされていますし、当時はMMA未開の地だったヨーロッパやアフリカ、中米、東南アジアから今では強い選手がドンドン出てきて、全体の選手層も分厚くなっています。

日本人MMAファイターも10年前と比較したらレベルは上がっていると思いますが、それ以上に世界中ありとあらゆる地域のMMAファイターの進化が凄まじいので、その中で埋もれてしまっている、というのが、現在のジャパニーズMMAの立ち位置なんだと思います。

 

「日本最弱」の状況は10年以上前から今日までずっと続いていて、でも何だかここ2、3年でニッポンジンMMAファイター「だけ」を応援する声がやたらデカくなってきていて、でも世界の壁に阻まれて負けてしまう日本人MMAファイターの試合を観たニッポンジンファンの嘆きの声が聴こえてきて、こっちの立場からしてみたら「何を今更❓」と彼らとワタクシとの認識の違いを感じてしまうのです。

で、特に自分がTwitterやっていた末期の頃に特徴的だったのは、ニッポンジンMMAファンによる村社会意識というか「ボクのダイスキなニッポンジンせんちゅがまけちゃったよぉ~😫😭‼️」みたいなノリで自分の好きな選手には非常に甘いというか、日本人選手が国際戦で負けた時にファン同士で傷の舐め合いみたいなものが行われていて、プロ野球やサッカー等のメジャースポーツのファンの間では当たり前のように行われている、負けた選手やチームへの(健全な)叱咤激励の批判だったり、敗北した試合に対する詳しい検証というものが、MMA  P   LA  NETさんみたいなメディアですらマトモに行われていないというのが今の現状です。

 

大体、日本人選手に対しては「〇〇選手」と選手付けで敬称を付けるのに、外国人選手に対しては呼び捨てする、そのくせ、自分の嫌いな選手に対しては口汚く罵る、格ヲタ村のああいう風潮が自分は昔から大嫌いでした。

 

では、ニッポンジンMMAファイターは何で国際戦で勝てないんだろう🤔❓という事で、ワタクシが無能なMMAメディアに代わってこの二ヶ月間で日本人MMAファイターが海外プロモーションで敗北した試合の動画をいくつかチェックすると、色々な事が解ってきました。

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

このスクショはインスタのストーリーズにアップしたものですが、3月に開催された「ONE X」で行われたアドリアーノ・モラエスVS若松佑弥、グスタポ・バラルドVS猿田洋祐の試合をレビューしたものです。他にも日本人MMAファイターが海外で敗北を喫した試合を何試合か論じているのですが、代表例としてこの2試合を上げてみました。

 

そこから、日本人MMAファイターが海外選手に負けた試合を見て個人的に思った事を簡潔にまとめました。

 

 

さて、今回はこの列挙した理由を一つ一つ噛み砕いていきましょう。

 

 

1️⃣決定力不足。

 

これはひとえに黄色人種であるアジア人と、欧米選手との骨格や身体能力の違い、フィジカルの違い、出力やパワーの違いです。

UFC JAPANでの岡見勇信VSティム・ボッシュ、先月のRIZINのスパイク・カーライルVS武田光司なんかが代表的な試合と言えますが、それまで優位に丁寧に試合を進めていても一発の打撃、ワンミスでのギロチンチョークによって全てひっくり返されてしまうわけです。

国内レベルだったらフィニッシュ出来ていても、レベルの高い外国人選手との試合になるとリーチの差などもあって容易にフィニッシュ出来なくなるケースというのも多くなってくるわけで、ベラトールでの堀口恭司VSパトリック・ミックスも、バンタム級という階級にフィットさせたトップレベルの外国人選手との体格差、フィジカル差が響いた試合でもありました。

その懸念は堀口がベラトール王者に戴冠したダリオン・コールドウェル戦から一部では既に指摘されていて、やはり堀口は世界で戦うにはフライ級が適正なんじゃないかとは思うのですが、フライ級に階級を落とすと同時にパワーも落ちるわけで、RIZIN時代でのフィニッシュでの決定力が失われてしまうという可能性も否定出来ないので、難しいところではあります。

 

 

2️⃣スタンド打撃や際の攻防で主導権を奪えない。

 

MMAでは必ずスタンドの攻防から試合が始まります。グラップラーにしてもまずはスタンドの状態からテイクダウンを奪う事が必要になってくるわけで、まずはスタンドの打撃の攻防、クリンチで組んだ時の攻防での主導権争いに勝たなくてはいけません。

モラエスVS若松の場合だと、モラエスのフットワークの捉え所が見つからず、かといって距離を近くして打撃を打ち込むと柔術が得意なモラエスに組まれる懸念があってか、若松は動きが固くプレッシャーを掛ける事も出来ず打撃の手数も極端に少なかったですが、まずは手数を出してしっかりと打撃を当てていかないと試合そのものが作れません。

3Rに若松はモラエスをケージに押し付け、タックルでテイクダウンを奪いますが、そこから先の展開が作れず、モラエスにエスケープされてしまいます。

もし、1、2Rに若松が得意のスタンド打撃の攻防で優位に立ち、相手にダメージを与えていたならば、3Rにテイクダウンを奪った後のグラウンドの展開も作れていたと思います。

当然モラエスも下からサブミッションを狙っていきますが、それまでの打撃戦でのダメージの蓄積如何では、若松としてもサブミッションエスケープが容易となり、外した後に上からパウンドを打ち込んで更にダメージを与えるという展開を作る事が出来たのかもしれません。

 

しかしただタックルを決めるだけでは相手にダメージは与えられません。得意分野である打撃も満足に打てず、苦し紛れのタックル狙いに固執する若松に対し、モラエスはカウンターのギロチンチョークをセットしてフィニッシュ。「まぁ、そうなるよね」と言いたくなるような敗北シーンでした。はっきり言ってイエローカード云々の議論以前の話だと思います。

 

スタンド打撃で主導権を握れないのは、単に立ち技の力量やスキルが劣っていたり、相手の組みのプレッシャーにビビって満足に思うような打撃を出せなかったりと理由は様々ではありますが、一流のMMAストライカーはたとえ相手に組まれてグラウンドで漬けられても、次のラウンドで臆する事なく「倒せる」打撃を打ててこそ、だと思っています。

 

それと、日本ではムエタイルールよりも、首相撲や肘の攻撃が規制されたK-1ルールのほうが主流で人気があるからなのか、首相撲からの肘膝といったクリンチ打撃の練習が疎かになって、ストライカー系の選手でもそこに苦手意識があるように見受けられます。

ストライカーでもグラップラーでも、自分の優位な展開に引きずり出す分岐点となる至近距離でのクリンチ際での攻防において優位に立ち、肘膝やクリンチ打撃でしっかりとダメージを与えておく事はMMAにおいてかなり重要な事だと思いますが、そこの局面で不利に立たされるといくらストライカーと言えどもロングレンジからのポイント打撃だけでは相手を削り切れなくなってくるわけです。

 

クリンチの状態は、スタンドの攻防でありながらも「打」と「組」と「投」そして「極」も可能な複合的な技術を繰り出す事が可能なポジションだけに、MMAでは様々な可能性を秘めています。

それだけに、攻防で優位に立つためにはもっと掘り下げていきたい要素ではありますね。

 

 

3️⃣局面局面を打開し、試合を作っていく引き出しや閃きに乏しい。

 

UFCのグンナー・ネルソンVS佐藤天の試合が特に顕著でしたが、ダウンに相当するようなダメージも無いのにいつの間にかテイクダウンを奪われて、そこから試合を盛り返す打開策も見出せずにズルズルと相手のペースにハマって判定で負けてしまう、こういう味わいの無い試合も、UFCの日本人選手の試合でこれまで何度も見てきた光景です。

最終的にフィニッシュで試合が終わりましたが、RIZINのグスタポVS矢地もそんな試合で、グスタポの右ストレートを何度も被弾した事で打撃戦で後手後手に回っていった矢地が、最終的にグラウンドでトップを取られてフィニッシュされたという内容でした。

 

それを念頭に入れた上で昨日のUFCの試合を観てみると、トップファイターのシーソーゲームの主導権争いの緻密さに驚くわけです。

ダレン・エルキンスVSトリスタン・コネリーの試合では、1Rにエルキンスがテイクダウンを奪ってトップキープに成功しますが、下になったコネリーもガードポジションから肘を打ったりして食い下がってダメージを与え、これにより2Rのスタンドの攻防で優位に立ち、前傾姿勢のエルキンスにカーフキックを効かせるなどして反撃に転じます。

エルキンスのタックルも読まれ、コネリーペースの試合になるかと思いきや、3R中盤でエルキンスが思い切って打ち合いに挑み左右のフックを効かせ、そこからタックルでTDに成功しバックでのRNCのサブミッションアテンプトに成功した事が、逆転の勝利へと繋がりました。

 

メインイベントのマルロン・ヴェラVSロブ・フォントは、年間最高試合レベルの激闘となりましたが、手数と有効打で押し切るフォントのボクシングを何とか凌いでいったヴェラが、3Rに飛び込み前手アッパーと飛び膝蹴り、4Rにサイドキックという、これまで出してこなかった意表を突いた攻撃でダウンを奪い、序盤ラウンドの劣勢を「閃き」のある攻撃で打開して勝利を獲得しました。

ただそこにも、変則攻撃一発狙いというだけではなく、ラウンド全体を通してヴェラがフォントの攻撃の合間を縫ってオーソ構えの重い左ストレートをカウンターで打ち込んだり、サウスポーに構えて左ミドルやローで足止めしたり、フォントのパンチをブロッキングとフットワークで致命打を防ぐディフェンスで凌いだりといった細かい「伏線」があってこその勝利でした。

 

MMAはコンタクトスポーツの中では最も制限の少ない競技です。だからこそ、様々な局面において幅広いスキルを用いて劣勢を打開する事が可能となります。

そのためにはあらゆる分野の格闘技術の修得は勿論の事、諦めない気持ちだったり、試合経験だったり、そして刻々と流れる変化に対応していく判断力や柔軟性や独創性(セコンドや練習環境も含む)が求められていきます。

 

どうも日本のMMA界隈では特に、グラップラーの選手が一つのラウンドで長時間トップコントロールに成功すれば、その後のラウンドも同じ事をやっていれば安牌、という妙な信奉があるようですが、削り切ってダメージを与えなければ特にフィジカルで劣る日本人選手の場合は一発逆転される危険性があるわけですし、試合の中で絶対というものは無いわけです。

セルジオ・ペティスVS堀口恭司がその典型的な試合だったという事は言うまでもありません。

選手の真の強さが問われるのは、自分のペースに沿った安定した試合運びでの試合よりも、競り合いの攻防の局面を突破する「神の一手」です。

 

 

以上の理由から最後の項目で「サッカーに例えるなら0-2で負けるような試合が多い」と形容したわけですが、要は得点を入れられず守りに入っても点を入れられてしまう、というのが、今のジャパニーズMMAの国際戦における現状です。

 

 

 

4️⃣日本人MMAファイターは、アレクサンダー・ヴォルカノフスキーの試合を参考にせよ。

 

そこで日本人選手がお手本にしたい選手が、現UFCフェザー級王者、アレクサンダー・ヴォルカノフスキーです。

 

 

 

 

 

ヴォルカノフスキーはUFCデビュー戦から現在まで11連勝中の王者ですが、UFCでの試合でフィニッシュした試合は4試合で、残りの7試合は判定勝利によるものです。

UFCのチャンピオンにしてはフィニッシュ率が低いようにも見受けられますし、身長は168cmとフェザー級の選手にしては小柄であり、他のUFCトップ選手と比較して、飛び抜けて優れたスタンド能力やグラウンド能力を持っているわけではありません。

 

ただしこの選手の本当の強さというものは「打投極を連携させたレベルチェンジの技術と試合運びの巧さ」にあります。

ヴォルカノフスキーの試合を見ていると、打撃やコンボを打ち終わった後に身体が居着く事なく即座にシングルレッグ等の組みの動作に移行できるので、打→投、または投→極への切り替えが、まるでコンビネーションブローのように連動性があるのです。

前述の項目で日本人MMAファイターの弱点として挙げた「スタンド打撃やクリンチ際の攻防での主導権争い」「ピンチの局面を打開する引き出しや閃き」といった要所要所の攻防の中で、常に「当たり」を引いて試合を自分のペースに優位に進めていくのが、ヴォルカノフスキーの強さの秘訣なのです。これはMMAファイターとしてのトータルスキルの高さも当然の事ながら、セコンド陣も含め相当のMMA IQの高さが無ければ実行できないでしょう。

相手選手からすれば、ヴォルガノフスキーの打撃とタックルの両方に常に警戒しなければならず、トリッキーなレベルチェンジの仕掛けと戦術の巧みさを持って相手を撹乱させて、自分のペースに持ち込んでいくのが、彼の必勝パターンです。

 

ヴォルカノフスキーはラグビーで培った無尽蔵のスタミナを持っていますし、ブライアン・オルテガ戦に代表されるような、チョークであわや極め掛けられても気合いと技術でそれを外し、反撃に転じて試合を逆転させるハートの強さがあるのも、王者としての強さの秘訣ではありますが、そもそもスタミナやメンタルといった部分に関しては、人種の優劣は関係が無いはずです。

 

なので(そう簡単には真似できないにしろ)日本人MMAファイターもお手本にしようと思えばいつかはなれる、というスタイルを持った選手が、現UFCフェザー級王者、アレクサンダー・ヴォルカノフスキーなのです。

 

 

5️⃣まとめ。

 

よく「UFCは日本人選手を冷遇している」なんて声が聞こえてくるのですが、UFCという高い頂の中で実力を証明し、且つ「国籍関係なく観客を熱狂の渦に巻き込んでくれる」選手が出てくれば、国籍がどうとかは関係なくリスペクトしてくれるはずなのです。

その証拠に、偉大なるレジェンド、桜庭和志は、観客を熱狂させ魅了させる試合で総合格闘技の歴史を塗り替えていった功績が評価され、UFCのホール・オブ・ヘイムに選出されて、今も世界中のMMAファンにリスペクトされる存在となっています。

 

畑違いではありますがボクシングの井上尚弥VSノニト・ドネアなんかは、ラスベガスの大会場で行われていても現地の観客を熱狂させる、そんな素晴らしい試合でありました。

 

そういう試合をUFCの大舞台、大一番のタイトルマッチでやってのける日本人選手が、いつの日か現れて欲しいものですね。