UFC ジョゼ・アルドVSロブ・フォント「リアルレジェンド」 | 銀玉戦士のアトリエ

銀玉戦士のアトリエ

一応UFC、MMA、海外キックを語るブログ。ゆるーく家庭菜園や食べ物エントリーもあります。

Instagram ID:notoriousginchang

🏟UFCバンタム級ワンマッチ(2021年12月 UFC FIGHT NIGHT)🏟

⚪️🇧🇷ジョゼ・アルドVSロブ・フォント🇺🇸⚫️(5R判定勝利)

 

 

ジョゼ・アルドがUFCデビューしたのは今からちょうど10年前、前身のWEC時代から絶対王者として君臨していたアルドは、2011年にUFCに新設されたフェザー級王座決定戦をマーク・ホーミニックと争い、判定3-0でUFC世界フェザー級初代王者となった。

 

そこからのアルドはUFCフェザー級絶対王者として幾度も防衛に成功する。

当時のアルドに自分が勝手に思い描いていたイメージは「クールで武骨なヒットマン」だった。

キレのあるリードジャブとローキックで堅実に試合を組み立て、卓越した技術と腰の重さで相手にテイクダウンを絶対に許さず、相手の一瞬の隙を見逃さずに一気に仕留めに掛かる。

この圧倒的な強さを持ってUFCフェザー級王座を通算7度に渡って防衛し、10年間に渡る無敗記録を継続させる。

口よりも実力で証明する職人気質のファイターだったが、英語があまり堪能ではないせいかセルフプロデュースが苦手なタイプであり、どこか近寄りがたいピリピリした空気を醸し出している事もあってか、当時は決して人気のある王者とは言い難かった。

 

強過ぎるが故の、誰にも理解し難い孤独感を漂わせていたのが、フェザー級王者時代のジョゼ・アルドだった。

 

そんなアルドの絶対政権は、僅か13秒という短い時間で崩れ去る。

2015年12月、当時フェザー級暫定王者だったコナー・マクレガーとの王座統一戦。

マクレガーの誘いのステップに大きく踏み出してパンチを放っていったアルドは、魔性の左の一撃を喰らって一瞬で意識が飛び、そのままマットに崩れ落ちた。

 

 

 

 

勝者となったマクレガーはこの試合を皮切りに世界的スーパースターへの階段を駆け上がってゆく。

一方、敗者となり4年に渡って防衛し続けたUFCフェザー級王座から陥落したアルドは地獄を彷徨う事となる。

彼のTwitterのリプ欄には心ないファンからの「13 second」という書き込みが連なり、マクレガーのフェザー級王座返上により再び暫定王者から正規王者へと返り咲くも、タイトルマッチの舞台でマックス・ホロウェイを相手に2度に渡って圧倒されての敗北を喫してしまう。

自分がフェザー級王者時代には手に入れられなかった富と名声を次々と掴み取ってゆくマクレガー。一方、自身の衰えを痛感し栄光を再び掴み取れず、もがき苦しむアルド。

この時期のアルドは、ボクシングへの転向や引退も考えていたようだ。

 

 

だがアルドはここから再び這い上がってゆく。

背水の陣で挑んだ2018年7月に行われたジェレミー・スティーブンス戦、1R終盤に渾身の左ボディブローを効かせたアルドは、そのままパウンドで追撃。

実に2年ぶりとなる勝利を勝ち取った瞬間、大観衆のスタジアムはアルドの復活劇に大いに沸いた。

 

この試合で復活を遂げたアルドは、2019年にバンタム級に階級を落とし、新天地で更なる羽ばたきを見せる。

フェザー級時代においても減量で苦しんでいたというアルドが、バンタム級で体重を落としてパフォーマンスを発揮できるのかという懸念も当初はあったが、彼は見事に階級にアジャストさせ、2020年にはバンタム級タイトルマッチをピョートル・ヤンと争った。

 

絶対王者時代と比較すると、瞬発力や反応といった部分において多少の衰えはあるが、何が何でも勝利を掴み取るというガムシャラさと、時にはベテランならではの老獪な試合運びをする姿に、かつてアルドを馬鹿にしていた者も掌を返すかのように彼を称賛する風潮へと心境が変化していく。

 

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

バンタム級で2連勝を果たし、再びのタイトル挑戦を目指すアルドの今回の相手は、バンタム級4位、ロブ・フォント。

ボクシングをベースとしたストライカーで、前回の試合では元UFCバンタム級王者コディ・ガーブラントにフルマークの判定勝利を納め、過去には現ベラトールバンタム級王者セルジオ・ペティスを卓越したリードジャブで完封してみせた強豪だ。

 

1R、初回から構えを頻繁にスイッチし、蹴りのフェイントから左右のパンチを繰り出してゆくフォント。

基本オーソドックス構えで、左ジャブを主体に堅実に攻撃を組み立てていった前回のガーブラント戦とは対照的な、意表を突いた立ち上がりで、スロースターター傾向にあるアルドを撹乱する作戦だ。

パンチが鼻面を捉えられながらも、アップライトに構え相手の様子を伺うアルドだが、フォントはスイッチ打撃からいきなりレベルチェンジでタックルを仕掛け、テイクダウンに成功する。

直ぐ様立ち上がり、身体の柔らかさと絶妙なボディバランスでフォントのバッククラッチを外し、スタンドに戻るアルド。

フォントの素早い仕掛けに少し戸惑うアルドだが、ダッキングとブロッキング、バックステップで落ち着いて相手の攻撃を徐々に見切っていき、強烈な左ボディを効かせて、1ラウンド終盤にはワンツーでフォントをぐらつかせ、続くアッパーを避け切れず倒れるフォントに追撃のパウンドを入れてラウンドを終える。

 

手数ではフォントだが、要所要所できちんと効かせる攻撃を当てているのはアルドのほうだ。

フォントのローキックをしっかりとカットしながらも、そのローにワンツーのカウンターを合わせて追い込み、逆に相手が踏み込んだタイミングで強烈なカーフキックを効かせ、ボディで消耗させてフォントを追い込んでゆく。

3R、打撃戦でアルド優勢になってきたところへフォントがタックルを仕掛けてゆくが、これをディフェンスしたアルドが今度は逆にトップを取り、サイドポジションからパスガード、トップコントロールと、相手がやりたかった事をグラウンドの攻防の中で行使してゆく。

並の選手ならばアルドのような大ベテランを相手に、こういう試合運びをされてしまうとそれだけでも心が折れてしまうものだが、バンタム級ランキング4位のフォントも下のポジションからのエルボーでアルドの右目を負傷させ、立ち上がってスタンドに戻り、ややグラウンドの攻め疲れで足が止まったアルドにジャブやワンツー、アッパーをヒットさせてゆく。

 

4R、インターバルでやや体力が回復したアルドは打ち合いの流れの中からカウンターのワンツーを効かせ、組み膝でダウンを奪ってそのままグラウンドの攻防に雪崩れ込む。

3R同様に、グラウンドでのトップコントロールに成功したアルド。しかしながらアルドの負傷した右目を狙うフォントの肘が厄介で、安定した試合運びのようにも見えるが一つ気を抜いてしまえばいつ逆転されてもおかしくないような試合展開だ。

 

最終5R、右目を負傷し視界がぼやけるアルドに対し、フォントは最後の気力を振り絞り猛攻を仕掛ける。

ワンツー、ジャブ、左フックがアルドの顔面を捉え、ケージにアルドを強引に押し付けて右のエルボーやアッパーをヒットさせる。

粘るフォントにアルドも勝利への執念を見せて猛攻を耐え凌ぎ、右ストレートから渾身の左ボディを効かせてフォントが崩れ、そのままバックコントロールからボディトライアングルで足をクラッチさせ、リアネイキドチョークを仕掛ける場面を見せる。

フォントの奇襲スタイルにも落ち着いて対処し、要所で効かせる攻撃をヒットさせて確実にダメージを与え、グラウンドではトップコントロールでポイントを取るという、ベテランならではの盤石な試合運びでタフな5Rマッチを制したジョゼ・アルドが、判定で勝ち名乗りを上げた。

UFC APEXの会場からは、激闘を繰り広げた両者を祝福する歓声が上がっていた。

 

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

「ずっとUFCで戦ってゆく」と宣言しているアルド。

フェザー級王座陥落後の運営からの冷遇ぶりを観てきた者からすれば、彼のこの献身的な言葉には感服させられる。

恐らく、マクレガー戦の敗北とそこからの復活を経て、彼なりにプロモーター側の事情というのも理解出来るようになっていったのだろうし、一度栄光を掴んだ選手が負けが込んでしまうと居づらくなってくるUFCの競争社会の中で、王座から陥落して6年を経過してもなおひたむきに頑張り、トップファイターとして活躍し続けているアルドの姿は、全てのMMAファイターにとっての励みとなり、目指すべきシンボルとなっている。

 

そして、フェザー級絶対王者時代の、クールで武骨なヒットマンという近寄りがたいイメージから一転、オクタゴンの内外で喜怒哀楽の表情を見せ、人間味溢れる姿を見せるようになったジョゼ・アルドは、あの頃よりもファンを魅了する生きるレジェンドとして、今も走り続けている。