村に戻ると、僕は机の引き出しを開けた。
そしてそこから、一枚の紙切れを出した。
あの旅人の置き手紙だ。
僕は旅支度を始めた。
いつの日かこんな時が来るかもしれないと、
何となく、予感していたからだ。
あの日に家に戻ってから、両親に旅人の話をした時に。
『ねぇ母さん。さっきね、変な人に会ったんだ。地面から続いている虹を見たことがあるかって聞いてきてさ、その人はそれを探しているんだって。』
『何を言ってるの。そんなもの、あるわけがナイじゃないの。いいから早く手を洗ってらっしゃいな。』
料理をする片手間に、あっさり言われた。
僕は少し落胆した。
あるわけないと思いながらも、どこかで期待していたんだ。
僕の住んでいるのは小さな村で、毎日同じ顔に会い、同じことの繰り返ししかない。
みんな親戚みたいなもので、いざこざもない。もちろん泥棒みたいな悪いヤツもいなくって、平和な代わりに、平凡だった。
いや、退屈だった。
心乱されるような辛いことはナイけれど、心躍るような楽しいこともなかった。
そんな中で、まるでお伽噺みたいな夢を聞かせてくれたあの旅人。
あんなに楽しそうな目をして何かを語る大人は、この村では見たことがなかった。
変な人だと思いながらも、
僕はとても興味を覚えた。
なのに、母さんはいとも簡単に否定した。
村からほとんど出たこともないのに、どうしてそんなにはっきり言い切れるのか、僕には納得がいかなかった。
その日の夜、僕は夢を見た。
あの人と同じ格好をして旅をする夢だった。