次の日の早朝、僕は家を出た。
両親には置き手紙をしてきた。
別にあの村が嫌いじゃない。何かに困っているわけでもない。
だけど、僕は知ってしまった。
外の世界のことを。
僕は思い出してしまった。
まだ見ぬ夢のことを。
買い物で、いくらか他の町に出掛けたことはあるけれど、村に帰らないことはなかった。
旅行ぐらいしたことはあるけれど、家に帰らないことはなかった。
意気揚々と飛び出したものの、当てはない。
振り返ると、もう村は小さくなり始めていた。
『引き返すなら今だぞ。』
もう一人の僕がそう言ってくる。
途端に自分が今何を求めて歩いているのか、分からなくなりそうになった。
目を閉じる。
今でも思い出せる、あの旅人の声。
大丈夫だ。
再び目を開け、一歩ずつ前へ進む。
『どこへ行くんだ。』
どこからか急に声がして、体が固くなった。
辺りを見回しても、誰もいない。
不安が幻聴を呼んだのかと、耳をすました。
『こっちだよ。』
笑いの混じった声が聞こえた。
ふと上を見上げると、木の幹に腰かけた男の子がいた。
同い年ぐらいだろうか、緑色のマフラーをして、黄色い目だった。村の子ではない。
『君は。』
『俺っちかい。俺っちは、ドワーフのリッドだ。お前っちは。』
『ぼ、僕はリーフ村のリトス。今旅をしているんだ。さっき始まったばかりだけれど。』
『ああ、お前がカインっちとこの倅か。ジンターっちのおっさんが言ってたよ。○○に会った人間がいるってな。』
最後がよく聞き取れなかったけれど、どうやら僕のことを知っているらしい。ジンターという人は知らないけれど、カインは僕の父だ。
『そういう君は、この辺の人じゃなさそうだけど、一体どうしてそんなことを知ってるんだい。』
『おいおい、何を言ってるんだ。俺っちはこの山に住んでるんだぜ。リトスっちも、俺っちのこと知ってるはずだぜ。』