『君は、地面から続く虹を見たことがあるかい!?』
僕の村に来たのは、怪しい旅人だった。
どこかで見たような三角のトンガリ帽子を被った男だ。
『ワタシはそれを探しているんだ。』
白いものの混じった顎の無精髭をなでながら、彼は笑った。
虹の生まれた場所には、必ず妖精がいるんだと、まるで無垢な少年のような眼をして語る。
その妖精を見つけることができた人間は、幸せになれるんだ、とか。
幼い僕にでも、明らかに夢物語だと分かるような話を、彼は嬉しそうに遠くを見ながら話していた。
『おじさん、どうしてそんな話を信じているの。』
と、当然の疑問をぶつけてみた。
彼は心底驚いたと言わんばかりに目を丸くして、
『少年。じゃあ君はそんなの嘘だと思うかい。』
と、逆に質問をしてきたのだ。
『え、だってそんなのいかにも嘘っぽいじゃないか。』
この身なりの怪しい男は、頭の中まで怪しいのかと思った。
『どうしてさ。』
『だって、地面から続いている虹なんて、あるわけないもん。』
『そうか、少年はそう思うんだな。なぁ、夢とは何かな、少年。おじさんはな、その答えがそこにあるんじゃないかって思っているんだよ。』
最早、理解しがたさを通り越して呆れた。
『難しくて、よく分からないよ。』
吐き捨てるようにそう言い残し、僕は走って家に帰った。
翌日、何だかやっぱり気になって、あの男のいた村の外れに行ってみた。
一本杉の下の切り株に、一枚の紙切れだけを残して、彼はいなくなっていた。
変なヤツだったな~という感想がその時の僕の気持ちだった。
しかし、僕は男の台詞をしばらく忘れることができなかった。
紙切れに残された『夢は寝ている間だけ見られるものなのか。』の文章とともに、頭の片隅にこびりついた。
それから10年が経って、すっかりその事も思い出さなくなった頃、僕は村から少し離れた町である噂を耳にした。
“世界の果てには、地面から続いている虹があって、それはどうやら違う世界とこの世界を続く橋になっている”と。
長く埃を被っていた僕のシナプスが、その時に記憶を刺激した。
ニューロンがつながり、去る日のフラッシュバックが訪れた。
まだあの旅人は、虹を探しているのかと。