桜が咲く頃になると。[4] | ここから見に来て。[旧Quem tudo quer, tudo perde.]

ここから見に来て。[旧Quem tudo quer, tudo perde.]

ここは音楽のBlogでした。実際には節操無く何でも有りましたが、アメブロと相性が悪いようなので、他に書く事にしました。出来ればそちらを、よろしくお願いします。

               Sakura.-02


 

 

 もう外は暗くなっていた。雨は上がっていたけど、空を見上げても月も星もなかった。そう言えば、この街で星を見た事が今まで有ったんだろうか?思い出せないくらい、空を見上げた記憶が無かった。 街路灯に照らされたアスファルトはまだ乾ききってはいなく、アチコチで水溜りが光っていた。歩きながら傘をパタパタと振り手提げ袋の隅に突き刺した。
 アパートからバス停の有る大通りにでるまでの路地道を挟んでいくつものアパートが並んでいる。電灯のついたそれぞれの部屋には、それぞれの世界が存在する。そこで起こる出来事はその人達にとって、どこかの世界で起こるどんな重大事件よりも大切だったりするものなんだ。どれだけの人達が海の向こうの戦争を目の前にある愛よりも重要だって考える事が出来るんだろうか?全てが虚しく感じる時に、救いの手を伸ばしてくれた人を無視する事が本当の勇気なんだろうか。事実を確認出来るのは当事者だけだし、真実なんてそれを信じる人の数だけ存在する。ボクは自分すら信じる事が出来なくなっている。

 

  夕方のラッシュ時間は過ぎたようで車はスムーズに流れている。バスも時間通りに来るはずだ。ああっ、レコードのことを思い出して歩く足を止めた。あの部屋に戻る理由が有る、そう考えるとドキドキした。ポケットに手を突っ込んでくちゃくちゃになったタバコの箱と百円ライターを引きずり出して、今にも折れそうな1本を口に咥え火を点けた。振り向いて歩いてきた道筋を眺めながら煙をおおきく吸い込んだ。でも無理だと自分にもう一度言い聞かせた。おおきく煙を吐き出すとタバコを咥えながら歩き出した。横断歩道を水溜りに気をつけながら小走りに渡るとバス停の時刻表の向こうから走ってくるバスが小さく見えた。タバコを吸殻の沢山刺さった設置式の灰皿に突っ込むとバス停の時刻表の横に立ち運転手が気がつくように顔を走ってくるバスのほうに向けた。
 このバス停からバスに乗るのは今日が最後なんだと考えてるうちにバスはボクの目の前に止まり昇降口が開いた。バスに乗り込む時に足元の水溜りに目がいった。そこに浮かぶ桜の花びらは街路灯にほのかに光り、涙が出そうなほど美しかった。その時僕の頭の中で響いたのはどんな音楽でも無く、彼女の笑顔と笑い声だった。

 

                               fin