
スティーブ・フォバートのレコードが終わった。ボクはジャケットの中にレコードをしまいこむと窓際に立て掛けてあるジャムのセッティング・サンズをターン・テーブルにのせた。このLPももう何度も聴いている。何かと分別つけようとするけど、パンクもモッズもロックン・ロールさ。ストレートな音の塊がボクの心臓の高鳴りと共鳴する。
最近いつもイライラしている。自分で自分が良くわからない。自分の心に訳のわからない怒りや恐怖や不安が広がっていく。押し潰されないように必死になっている。言葉に出来る理由なんてどうでもいいんだ、そう思いながらもずっとわかりやすい答えを求めている。じっとしているのが辛い。全てをメチャクチャにしたい。自分さえ壊してしまいたい。
ボクは立ち上がると部屋の奥に有る押入れを開け紙製の手提げ袋を出してきた。そう多くも無い荷物には大き過ぎるサイズだ。別に一緒に暮らしてるわけじぁ無いから大したものはない。Tシャツ数枚にGパンが1本、数枚の下着にさっき使ったタオルと雨で濡れた服もつっこんだ。何本かのカセットテープと灰皿とライターも投げ込んだ。何となく彼女が見て見ぬ振りをしているのがわかった。僕は僕で目が合ったらと思うと怖くてずっと背中を向けていた。きっと彼女の事が怖いんじぁなくて自分の事が怖かったんだ。
背筋を伸ばして部屋を見回した。こんな風に部屋を見るのは始めてかも知れない。「あっ!」声を出しそうなくらい突然気が付いた。ボクはこの部屋で何を見ていたんだ。カーテンもクッションもテーブルの上の雑誌でさえも彼女の趣味じぁなかった。全部ボクの好みのものだった。何から何までこの部屋は僕の好みで彩られている。思わず振り向いてしまった。彼女と目が合った。胸をぎゅっと締め付けられた様で息苦しくなった。笑顔で「びっくりした?」って抱きしめたい衝動に駆られた。そうすれば、またいつもの時間が戻ってくる。でも目をそらしたボクの口から出てきた言葉は「じぁ」だった。ボクはうつむいた彼女の横を通り靴を履いた。もう振り返らずにこのまま出て行こうとドアノブに手をかけた。
「ちょっと待って」彼女はそう言うとミニ・コンポのところへ行き、カセット・テープを取り出すと「まだ、片側にしか入ってないけど」と言いながらボクの前に差し出した。彼女の声がうわずり手が震えているのがわかった。「うん」と言って、受け取ろうとしたボクの声も手も震えていた。急いでGパンの後ろの右ポケットに無理やりねじ込もうとしたけど入らなかった。左手に持っている手提げ袋にやっと気がついて、その中にそっと投げ込んだ。袋の中に入っていたXTCとスクイーズをダビングしたテープに当たってカチャンと小さな音をたてた。そしてボクはドアを開け外へ出た。
The Jam タイトル: Setting Sons
XTC タイトル: English Settlement
Squeeze タイトル: Cool for Cats
Steve Forbert タイトル: Jackrabbit Slim