ウンスの診療事件簿 8【猫編⑧】 | 壺中之天地 ~ シンイの世界にて

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韓国ドラマ【信義】の二次小説を書いています

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《2024年1月22日   改定》


その時である。


 ミャアァァァ

 

開けた窓から、ふらりと一匹の茶トラ猫が挨拶するように顔を見せた。

 

「ホランイ!」

 

「まあかわいい!どこの猫ちゃん?」

 

「穀倉にはネズミがでるので、猫を世話しているんです。とっても可愛いんです。

一晩中咳が出て止まらない時は、ずっと一緒にいてくれて」

 

「そうなの」

 

「触ったら… あの子にも伝染ってしまいますか?」

 

「大丈夫よ」

 

「よかった!ホランイ、おいで…」

 

アニが近づくと、ホランイはしっぽをゆらゆらと揺らした。

するとその後ろから、もう一匹、別の猫が現れた。毛並みのいい真っ白な猫だ。

全く人に警戒する様子も無く、堂々としている。

首輪をしているところを見ると、誰かの飼い猫なのだろう。

 

「あら!もう一匹いたのね!この子の名前はなんていうの?」

 

「知らない子です…穀倉で飼ってる子じゃありません。

ホランイの友達かしら」

 

「色白の美人さんね、あなたどこの子なの?」

 

ウンスが話しかけると、白猫は一声にゃあああと鳴いて擦り寄ってきた。

そしてぴょんとウンスの膝に飛び乗り、彼女の手をペロペロと舐め始める。

 

「慣れてるわね…両班の誰かについてきたのかしら…アニ?どうしたの??!」

 

アニの様子がおかしい。

 

「うっ…ぐっ…!」

 

布で口を押さえ、蹲っている。

 

「大丈夫?!」

 

「ゔ……ぐーっじゅゅゅん!!」

 

突然アニが派手なくしゃみを一つした。

その途端、驚いた白猫はぴょんと跳ね上がり、そのまま逃げ出す。

 

「ゲホッ!!ゲホッゲホッ…」

 

にゃああああ。

 

「アニ…あなたもしかして…」

 

ウンスがホランイとアニを見比べた。

 


 



 

「・・・そういう訳で、アニは労咳ではなかったんです」


そのままチェ尚宮のところ向かったウンスは、全てを報告した。


「…まことか?猫が原因でそのようなことがあるとは」


猫アレルギー。

 

この時代、猫は貴重な存在で、何処にでもいる動物ではない。

ここにきて初めて触れたのだろう。

 

可愛がっていた猫が原因だと知ったアニはショックを受けてはいたが、労咳でなかったことには心底ほっとしたらしい。

涙を流していた。

 

思いもしなかった報告に、チェ尚宮も驚きを隠せない様子だったが、流石にすぐに信じてくれた。

 

「ええ。時々ですが、そういう体質の人がいるんです。

 でもそうと分かった以上、アニは前の穀倉には戻らない方がいいと思います。

喘息の治療を少し続けて、症状が落ち着いたら別の役目に変えてあげてください」


「分かった。そちらの方は任せてくれ。

 だがウンス…そなた…」

 

チェ尚宮は僅か咎めるような表情を浮かべ、ウンスを見つめた。

 

「……勝手なことしてごめんなさい…怒ってますよね…」

 

ウンスが頭を下げると、チェ尚宮は短くため息を吐いた。

 

「そなたがそう言う質なのは分かっているし、どうせ止めても聞かぬのではないかと思っておったが…

典医寺の方は問題ないのか?

大方、何も言っておらぬのだろう?」


チェ尚宮が心配しているのは、きっと侍医のことだろう。

この件が広がり、後から知った時、典医寺の長がどう思うか。

好意的に捉えてくれるとは限らない。


「はい、そうでした……今から報告してきます〜!」

 

はたと我に返れば、初日から暴走してしまったことに気づくウンス。

慌てて駆け出して行った。

 

「あの娘が帰ってきて、また此処も賑やかになりそうだが、頼もしい反面、危うくて仕方ないな…。

私も護ってやらねば…。

それにしても、今日はやけにあちこちで猫絡みの話を聞くが…はて、彼奴の方はどうなったのだろう」

 

ウンスの後ろ姿を見送りながら、チェ尚宮は呟いた。