「 僕の父さん、僕の息子 」
エッセイ タダノマサヲのムネノウチ
父さんが ハーモニカを窓から投げた
僕が上手く吹けなくて
「父さん もういいよ！」 と言ったら
怒って ハーモニカを窓から棄てた
僕は悲しくて悲しくて 膝の上で
拳を握り締めながら 涙をこぼした
僕が父さんの 本当の子供だったら
そんな事 しないのにと
小学校一年の 僕は思った
息子が小学校一年の夏
房総の海へ 車で二人釣りに出かけた
朝から二人で アジ一匹
漁港から少し離れた岸壁から覗く海は 透明
僕は深さと障害物を確認した後
ライフジャケットを付けた息子を 海に放り投げた
足が底に付かない水の中が初めての息子は
その恐ろしさでパニックになりながらも
海の中から真顔で「 おい！！早く助けに来いよ 」
僕は腹を抱えて 大笑い
頃合いを見計らって 海に飛び込み
もがく息子を 背中に乗せる
岸へ上がれる場所は 約十メートル
僕の首につかまりながら 彼は
「おとうさん、魚が釣れないのに足つっちゃた！！」
正真正銘 紛れもなく彼は僕の息子だ
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