前回はメンフクロウのキキ&ララのお話しをさせていただきました。
直近に撮影した動画では、割合素直に言うことを聞いてくれているので、いわゆるベタ馴れ状態に見えるかもしれません。流石、孵化前の卵から人間が手がけたスペシャルインプリント個体と呼ばれるもの。これならば家庭用ペットに最適!と。思われてしまうかもしれません。
今回は、当研究所で一番重症だった、ワシミミズクのイーゴリィ君のお話です。
直近に撮影した動画では、割合素直に言うことを聞いてくれているので、いわゆるベタ馴れ状態に見えるかもしれません。流石、孵化前の卵から人間が手がけたスペシャルインプリント個体と呼ばれるもの。これならば家庭用ペットに最適!と。思われてしまうかもしれません。
もしそれらの考えをお持ちになられたのならば、それは半分当たって半分は間違いです。
確かにイーゴリィ君は私にとても馴れてくれました。しかし、イーゴリィ君「に」もっと馴れたのは、私です。即ち、順応が必要なのは、ワシミミズクよりも飼い主なのです。
大人になると独立して岩山や荒れ地に一羽だけで生活してゆくワシミミズクは、根本的にメンフクロウとは異なります。即ち、群れ(家族の集団)を必要とはしません。兄弟や友達(対等に近い同族の個体)も、普通は必要とはしません。野生下で同性の同族個体と遭遇したときには、どちらかがその縄張りから出てゆくか、戦って片方が命を落とす必要があるからです。野生下で同性の同族が無遠慮に近づいてきたときには、殺して良いのです。食料を分かち合うのはつがいになる相手と雛鳥にだけで、加えて言えば、同じ巣の兄弟同士でも、容赦なく餌を奪い合います。
朝巣立ったのに、狩りが不調ならば昼過ぎには戻ってきて、両親にたらふく食べさせてもらって下の兄弟の世話を手伝うメンフクロウとは野生の次元が違うのです。
察しの良い方ならばもうお気づきでしょうが、ワシミミズク飼育に於いて、この習性が何より大きな障壁となります。
彼らが持つ社会性は、雛鳥であれば母鳥から餌をもらうこと。母鳥の世話を受け入れること。同じ巣の兄弟とは巣立ちまでは殺し合いをしないこと。この程度です。
成鳥になった(精神的に巣立った)ワシミミズクは、親兄弟といえども受け入れません。即ち、生まれた瞬間から人間以外に世話をされていないスペシャルインプリント個体とて、巣立てば親(人間)は用無しです。
だから、精神的な巣立ちを体験させては絶対にいけないのです。
※1年以上前の写真です。こんなにボロボロだったのかと驚きました。
1年以上に渡って、イーゴリィ君はとても頑張りました。同時に、私も頑張りました。受傷経験のせいで半分以上巣立ったような精神状態でしたが、飛べないのでまだ雛鳥だと親に徹して1年が過ぎた頃、そういえば自分はまだ赤ちゃんだったね!と納得したのか、ピヨピヨ鳴く頻度がいきなり増え、べったりとアヒル寝(雛鳥の眠り方)を繰り返し、動画の撮影に至れた次第になります。
この刷り込みが効いただけ、スペシャルインプリント個体なるもので良かった、と。安心材料はこの一点のみでした。が、それ以外の安全装置がついていない状態であったのもまた事実でした。
これからは如何にして雛鳥の精神状態を継続させるかが飼育の鍵になります。今でこそ親子の絆めいた錯覚を感じてくれていますが、少しでも飼育の手を抜けば、おそらく彼は、あっという間に精神的に巣立ってしまうことでしょう。
イーゴリィ君に関して言えば、一年かけて関係を構築できたのは、我が家では私一人です。相変わらず私以外の人間は侵入者か敵とみなします。家内などはよく襲われるので、未だにアクリルの盾を欲しがっているぐらいです。
ワシミミズクが家庭的なペットには向いていない、というのはこの点に尽きます。
普通、飼育者には格段の事情が無い限り、家族が居ます。今居なくても、将来増える場合もあります。血縁が居なくても、往来して交流する相手が居れば、その相手までを含んだ人間関係が、飼育される動物に関与しうる人間となります。
特に家庭向きのペット、と限定した時、それは子供相手に怪我をさせる可能性が殆どなかったり、家族のメンバー相手であれば特別の警戒心なく接触できる性質のものが期待され、飼育者ただ一人にはベタ馴れなのに、他の人員には襲撃すら行う動物は、大抵の場合忌避されることでしょう。
「飼育者の資質」は、ワシミミズク飼育に於いては容赦なく要求されます。普通それは高度な飼育技術であったり、動物に関する厳粛な姿勢を問うものですが、そこに加えて求められる「資質」には、うるさく不規則な動作をする幼い子供が居なかったり、不意に動物に干渉する家族や不定期に頻回で出入りする特定人物が居なかったり、果ては、広い飼育スペースを独占させられることまでも含まれてしまいます。こうなってくると、飼育者の問題ではなくなります。
その上「個体の資質」も大きな問題になります。
ここまでのお話しは、無学習の本能に組み込まれたワシミミズク生来の性質です。
動物はある程度までならば環境に順応し、学習をするものです。
ならばワシミミズクはどこまでならば学習できるのか?この問いについて、イスラエルのブリーダーが実験を行いました。
メンフクロウの多世代・多家族の巨大コミュニティに、孵化直後のベンガルワシミミズクを複数回放り込んだところ、半分近くのベンガルワシミミズクが餌を分け合い、下の世代の雛鳥(もちろんメンフクロウ)を世話し、大人になっても本格的に巣立たず、同世代のメンフクロウと身を寄せ合って、ずっとコミュニティの中に居た、という話しでした。同化しきれなかった個体達も、特に諍いは起こさず、餌を貰い・譲って普通に育ち、ベンガルワシミミズクにしてはかなり遅れてある日巣立っていったきりになった、と。因みに野生下ではベンガルはメンフクロウを襲って食べるのですが、どちらもメンフクロウを襲うことはなく、巣立った後もメンフクロウは襲っていないようだった、とのことです。
雛鳥の刷り込み要素があるので、それを学習と定義するのは少し問題があるのでしょうが、後天的に獲得する性質としては快適な方向に流される傾向が強く、周囲と同じように振る舞う方が楽だったのでそうしたのではなかろうか、と推察されています。(性差の比較はしていなかったので、少しもったいない感じもします)
ワシミミズクの本能に対極の存在にすら順応同化できるのは、ペット用としては大きなポテンシャルとなります。
奇跡を起こしたような関係を飼育者と結べるのは、上の実験の場合、メンフクロウに完全同化できるタイプの個体なのかもしれないと考えます。
これら事情をご承知の上で、それでも敢えて欲しいとワシミミズクを迎える場合、綿毛の雛鳥を求める方法と大きく育った若鳥を求める2つの方法があります。
最悪でも、と考えれば。イスラエルの実験によれば、どんなに順応性低く資質に欠ける個体でも、最低限育ててくれた種族は食害しないようになるようなので、雛鳥から始めること。ある意味でこれが一番まっとうで安全な方法なのでしょう。(うちの家内が襲われるのは、イーゴリィを傷つけた人間と同性だからです。理由ははっきりしているので、もうどうしようもありません)しかし雛鳥相手では見極めようにも、何もかもがくじ引きのようなものになりますから、運を天に委ねきることになります。
より良い資質の個体をある程度の確実性をもって求めたいのであれば、キャストを販売しているフクロウカフェ等に出向いてみるのも一つの手段です。
店員(知っている人)への反応とお客さん(初対面の人)への反応の比較(接触が苦痛すぎて、置物化してしまっていないか確認)
大型種(本来は敵)への反応と、超小型種(本来は餌)への反応の比較(無反応はストレス性の抑制行動なので不可、極端に本能的すぎても学習が効いていない可能性があるので不可。)
初めての時と、二回目以降の反応の比較(記憶力の確認)
餌やりのときにピヨピヨ鳴いているかどうか、アヒル寝の有無(精神的な巣立ちをしてしまっていないか確認)
このあたりを丹念に観察して、満足できる個体が居れば、その個体の商談に入るのもベストな選択かと思われます。(キャスト販売を掲げて別個体を勧める店舗は論外。)
余程悪辣な店舗以外、キャストになっている個体は、より順応性が高いものを選んでいるはずなので、その点だけはフクロウカフェが有用なのではないでしょうか。(イーゴリィ君は、まずキャストは務まりません。フリーズして剥製状態になるか、怒り狂いすぎてどうにかなるか、どちらかだと感じます)のびのびキャストを務めている個体が居れば、家庭向きのワシミミズクになり得る可能性があるかもしれません。
外見的に訳有(指が足りないとか翼が足りないとか受傷個体とか、先天性後天性を問わずに)でなければ、概ね個体の内面的な資質が価格に比例します。そういう意味では、殆どの場合、高額になるほど価格は妥当(相当優秀)で、バーゲン要員は安くても割高(飼育困難な性格)になるのでないでしょうか。
環境が許すのであれば(誰も不幸にならないのであれば)、ワシミミズクの持つ野性味や精悍なビジュアル、そして何よりも飼育者とのオンリーワン的な関係は、素晴らしい魅力でもあるのかもしれません。
ただ、その魅力という言葉は、ワシミミズク飼育を希望する人が彼らの特性を熟知して、本人がワシミミズク飼育に順応できる場合に限る、と。これは真剣に考えます。
飼育者が個体に適した環境を用意できず、自らの環境に慣れてほしいと一方的に考えるのならば、悲劇しか起こりません。それは自分のワシミミズクを失う、というだけでなく、大型の不器用で無骨な鳥を人間が追い込んで、不幸のまま死なせた事実だけがいつまでも残る、償いようのない悲劇です。
愛することと、幸せにできることは、相手が動物である場合、必ずしも同等にはなりません。こと、ワシミミズクに限れば、誰であれ惹きつけられ愛さずにいられない外観を持っていることが不幸の源であるやもしれないのです。
フクロウを飼育したいという動機だけでワシミミズクに手を出すのは、絶対にしてはならないと、繰り返しになりますが申し上げます。
ワシミミズク「も」好きで、飼育するフクロウを大切にしたいのであれば、せめてメンフクロウまでにするべきだ、とも。
不幸なワシミミズクがこれ以上増えない為に、そればかりを願います。
文責:水棲疾病基盤研究所
P.S





