「この子の顔、右がミケで左がキジですね」

なるほど、確かに左右で色が違う、しかも真ん中に条が入っている
真ん中で分かれて違う顔って……
あしゅら男爵かっ!?(古いね)

あしゅらキャットって!?
にゃによ!左右アンバランスの模様と言えば、月子がそうだった

「月子」は私たちが勝手に付けた名前、あっきと けいたの母親である
月子は野良猫根性の染み付いた烈女だった。
エサを置くと食べるくせに、私たちには全く馴染まなかった

でも、良い母親だった。どうやって食糧を得ていたものか――あっきもけいたも飢えた感じがなかった。
引き離す気になれず、子離れ親離れを待つ内に、月子の野良教育はチビ達にすっかり染み込んだ。
だから あき・けいは未だに人間を警戒する「家庭内野良」である
やがて月子は次の妊娠をして子離れが始まり、私たちはチビ達を保護(捕獲)した
その後も月子はエサを求めて裏庭に現れたが、もはやチビ達に関心を示さなかった。
チビ達も甘える様子がなく、月子が食べる皿に手を伸ばしてエサを掻き寄せたりしていた。
あんなに仲睦まじかったのに――猫の情愛ってどうなっているのだろうと思った。
やがて、月子のお腹はペシャンコになった。
妻は、次に月子が仔猫を連れてきたら、丸ごと保護しようと考えていた。
雌猫は妊娠を繰り返して寿命を縮める、去勢してのんびり長生きさせるのが幸せなんだ――妻はそう信じていた
「きっと2匹いるよ」妻は月子の伸びた乳首を数えて予想した。
仔猫は早い内なら里親が見つかるだろう。
私も何となく、月子があき・けいと3匹丸くなって、我が家で寛ぐ姿をイメージした。
そんなある夜、月子が病気になって現れた。鼻水を垂らし、エサが飲み込めない
「このままなら、死ぬね……」
私たちは洗濯ネットに月子を追い込んだ。
あの烈女が、信じられないほど呆気なく捕まった。
そして車で夜間病院へ向かう。
私が月子の背中を撫でたのは、この時が最初で最後だった。
病院で何本も注射液を流し込み、家に戻ってからも月子はうずくまって動かなかった。
夜は更けていく――私たちは何処かで母親を待っているであろう仔猫が気になった。
そして、12時にガラス戸を開けた。
月子は心細けに闇の中に消えていった――
仔猫はついに現れなかった
やがて月子も我が家から遠ざかった。
生きてはいるらしい。妻は何度か近所で月子を見かけていた。
私も一度だけ見た。裏庭の塀の上に突然現れた。でもそれ以上は近づいて来なかった。
時が経ち――おめぐが現れた
猫風邪で痩せこけ、鳴く元気もなかった……

その姿は、保護を求めてきたとしか思えない――妻が言う
きっとこのコは月子の子供だよ
病気が重くてどうしようもなくて、私たちのところに連れて来たのよ
そして保護されるのを隠れて見ていたのよ
(巨人の星の)明子さんみたいにかい?
私は笑って聞いていたが、妻は真面目に信じている
猫好きな私たちは猫好き故に多少の無理を重ねてきた
まして妻には喘息の持病がある。仔猫の毛で息が出来ないこともあった
「あの人たちなら大丈夫」
月子はきっと思っている。私たちを信じている
――これは猫好き故に妻が夢見た猫童話である

人間を頼ることを覚えた おめぐ――今は私の膝の上で和んでいる
本当に月子の子(あき・けいの妹)なら……
月子童話は完結する