
Songs Of Mothertree
~彼の歌人は斯くも語りき~
第二楽章
「闘争」
「ファグ、本当にこっちなんだな?」
リオンに聞かれ、おれは自信なく答える。
地図を見る限りでは間違いないのだが、これだけ世界樹と離れると、方角を見失ってしまう。
そう、おれたちは道に迷っている。
シュチュッツガルト攻城戦に備え、おれたちは拠点を移動した。
おれたちは「傭兵団」に所属している。その旗を携えてこそいるが、
戦闘行為以外は誰もが別行動をしている。今はリオンと二人きりだ。
他の血盟員とも会ったことがないな、と思ったが、「傭兵」たちの集団と考えれば自然である。
攻城戦に参じる為に目指した場所は、シュチュッツガルトよりも少し北のドワーフ村だ。
その新たな拠点を目指し、略奪の荒野辺りを抜けた頃、道に迷ってしまったのだ。
今宵は野宿かと覚悟を決めた夕暮れ頃、おれたちは魔物狩りをするドワーフを見かけた。
これは好機、ドワーフ村までの道案内をさせるほかはない。
そのドワーフへと接近した。
ドワーフの少女は、少し変わった風貌をしている。
赤い髪をした頭上に「りんご」のような飾りを乗せている。
リオンは「何だあれは」と笑った。
りんごのドワーフは身の丈ほどのハンマーを身体いっぱいで操り、石のゴーレムを相手取る。
あの力強さはさすがのドワーフだ、と感心するも、どうやらそうではない。
自らが振り回したハンマーに、今度は自身が振り回され、尻餅をついた。
すると大慌てでハンマーを捨て、悲鳴を上げながら石のゴーレムと距離を取った。
おれとリオンは顔を見合わせ、互いに何度か頷くと、彼女の手助けをすることにした。
もちろんそれは「ドワーフ村までの案内」をさせる為でもある。
だが、おれたちが駆けつけるよりも先に、石のゴーレムは倒されることとなった。
それはつまり、りんごのドワーフが本気を出したともいえる。
「もおーっ!」と大きな喚き声を上げると、ドワーフは頭のヘアバンドから「りんご」を取り外す。
そして、それをコアとして瞬時に鉄のゴーレムを組み上げたのだ。
ゴーレムを組み立て、従わせる。それはドワーフ独自のスキルであった。
鉄のゴーレムは文字通りの鉄拳を繰り出し、石のゴーレムを粉砕する。
りんごのドワーフは倒したゴーレムの残骸をガラガラと漁り始めた。
その表情はあまりに落ち込み、どうやら何かの理由がありそうだ。
近寄り、声をかける。
幾らかの和やかな会話の後、おれたちは事情を聞いた。
すると、りんごのドワーフはまた肩を落とし、その話をおれたちに聞かせた。
「スターストーンを集める為にゴーレムを使っちゃったら、ちっとも集まらないよ!」
石のゴーレムより「スターストーン」なるものを集めているという。
それは彼女のゴーレムを動かす為のエネルギー源であるとのことだが、
一般のゴーレムにそんなものは使用されない。
ドワーフ村のゲートキーパーである「ウィーフィー」という「機械」を真似て作ったものらしい。
りんごのドワーフは戦闘こそからっきしだが、機械技術に関しては優れているようだ。
そして、彼女は最後にこう付け足した。
「それから、あたしの名前、りんごじゃないから!」
・ ・ ・ ・ ・ ・
りんごの案内によってドワーフ村まで到着したおれたちは、小さな丸い宿屋を借りた。
開戦までの数日はここに滞在することになる。
案内の謝礼にと、おれたちはスターストーンを少しでも集めてやることにした。
あの場所まで戻り、石のゴーレムと対峙する。
りんごが巨大なハンマーを持ち出した理由が分かった。
おれやリオンの剣ではまるで刃が立たない。これでは刃毀れをするばかりだ。
大事な戦争の前に剣を痛めてしまっては元も子もない。
弓矢を使ったり、盾で殴りつけたりと苦戦しているうちに、随分と遅くなってしまった。
スターストーンを20個ほど手に入れたところで、日暮れ近くにドワーフ村へと戻る。
りんごはそれを大いに喜び、反対に過剰なまでのもてなしをされた。
彼女はどうやらリオンに惹かれているようで、おれも彼を想うその横顔を見るのが好きだった。
まるで妹のようだと思ったし、おれも兄のように接した。
リーナはどうしているだろう、などと考えながら、りんごと共に過ごす時間を楽しんでいた。
それから滞在している間に、何度か時間を見つけては、スターストーンを集めに行った。
りんご曰く、あと「もう少しだけ」あればゴーレムが完成するという。
完成すれば半永久的に動くことができ、さらに内部には魔力を持つことができるらしい。
その説明はよく分からなかったが、彼女が頭に乗せる大切なりんご型のアイテムは、
スターストーンより抽出したエネルギーを蓄積するものだということだけは分かった。
おれたちは次の日に「もう少しだけ」の量を確保した。
普段よりも少し遅い時間に、りんごの居室を訪ねるが、彼女の姿は見当たらなかった。
他のドワーフたちも彼女の姿は見ていないという。
その聞き込みの最中、ゲートキーパーの機械が「会話をする」ことを知り、大いに驚いた。
もう一度、部屋を訪ねるが、やはり彼女の姿はない。
それに、施錠もせずに姿を消した彼女の部屋には、幾つもの鉄片が転がっている。
それは先日見た「鉄のゴーレム」の材料のような気がしてならなかった。
そのゾッとする悪寒のようなものは、おれも、リオンも同じように感じていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
シュチュッツガルト攻城戦が始まった。
リオンは一足先に転職を迎え、今ではスペクトラルダンサーだ。
出会った頃から彼は強い。おれの一歩も二歩も先を進んでいる。
おれたちは最前線の部隊ではなかったが、何度かの戦闘を行った。
少しずつ攻め上がり、最前線は城門のすぐそばだ。
おれが歌い、リオンが踊る。複雑に絡み合う魔力は凄まじい力を生み出した。
宿敵だと思っていたダークエルフと、これほどまでに息が合うものか。
おれはそれを面白く感じたし、何より互いに背中を預けることを心地よく思っていた。
後方で角笛が吹き鳴らされる。
何事かと思い、背後を振り向くと、おれたちは驚愕した。
おれたちの後方では、見上げるほど巨大なゴーレムが雄大に闊歩していたのだ。
「ファグ、あれは味方なんだよな?」
「おそらく。城へ攻め上がっている、あの巨大さなら鉄の城門とて……」
おれはそこまで話した時、そのゴーレムの胸の辺りで煌く何かを見つけた。
まさか、と思い、隣のリオンを呼ぶ。
戦闘中であるにも関わらず、おれもリオンも戦いの手を止め、それを凝視した。
「リオン、おれには見える。あそこに……」
「ああ、おれにも見えている」
巨大なゴーレムの胸、その中核となる部分に、赤く滾る「りんご」が煌いていた。
まさにおれたちがスターストーンのエネルギーを抽出した「コア」なのだ。
それをエネルギー源としてあの巨大なゴーレムが動かされている。
何故だ!
りんごのゴーレムはもっと小さく、もっと平和的であったはずだ。
何故、あの恐ろしいゴーレムに彼女の「りんご」が積まれているのか!
りんごの居室に無造作に散らばった鉄片たちを思いだした。
そして、それを見たときに感じた嫌な感覚が再び蘇ってくる。
リオンがおれの身体に触れ、「ファグ」と呼びかけた後で、質問をする。
「あの巨大ゴーレムを動かす為にスターストーンを集めていたと思うか?」
答えは単純だ。否である。
彼女のことは知らない。だが少しの時間であっても、それを共有し、過ごした。
おれは「そんなこと有り得るはずがない」と答え、リオンと共に結論を導き出す。
「ファグ、あの化け物ゴーレムを動かしているのは……?」
「違う。りんごじゃあない……そうか、ドワーフ村のゲートキーパーを思い出すんだ」
「スターストーンの魔力を持つウィーフィー……なるほど、こいつは自立機動している!」
ウィーフィーにマスターがいないのと同じだ。
あの巨大なゴーレムは、すでにりんごの手を離れ、ただ城を破壊する為に動いている!
おれとリオンは戦闘を中断した。
この戦い、その背後で何かが動いている。
ダンスオブシャドーの効果によって姿を隠したおれたちは、味方の本陣へと急いだ。
そこにりんごがいるはずだと感じたからだ。
城門の辺りでは、巨大ゴーレムが城壁を破壊し、幾人もの敵兵を踏み潰している。
おれはそれを見ることに耐えられなかった。
りんごの身も心配であるが、それ以上にゴーレムが心配だ。
彼女にとって、あの「りんご」は魂を込めたものであったに違いない。
それが今は巨大な殺戮兵器と化し、シュチュッツガルトの城を破壊している。
そんなこと、彼女に耐えられるはずがない。
止めなければ!
リオンと申し合わせ、りんごの捜索を彼に任せる。
おれは踵を返し、巨大ゴーレムへと向かった。すぐにあれを止めなければならない。
ソングオブウィンドを歌いながら、一気に最前線にまで駆け上がった。
正面からゴーレムを見上げると、やはりそこには「りんご」があった。
足を止めなければならない。どうする。どうすればいい!
敵兵に混ざり、その足を数発殴りつけてみるが、びくともしない。
やはりあの「コア」を破壊する他に手段はない!
おれは混戦の中、巨大ゴーレムが破壊した城壁を足掛かりに、城壁の上へとよじ登る。
これは随分と命懸けの行動だ。
ふと冷静になり、おれは何をしているのだろうと思うが、冷静さを取り戻すことをやめた。
今は守らなければならない。彼女を救わなければならない!
崩された城壁の上、その切っ先に立ち、巨大ゴーレムを正眼に捉える。
……この距離なら!
弓を構え、矢を番えると、ゴーレムの動きが静止する一瞬を狙う。
ゴーレムが腕を叩き下ろし、城壁はさらに崩れた。
おれが立つ足場もろともだ。
崩れ行く足場の中で、おれはソングオブハンターを口ずさむ。
そして、その一瞬を捉えた。
「いけ!止めてくれ……この殺戮を!」
放たれた矢は一文字に空中を走り、燃えるように赤い「りんご」へと突き刺さる。
すると青白いスターストーンの光が放出され、周囲に魔力が拡散していく。
足場を失ったおれは城壁の下へと転げ落ちながら、倒れ来るゴーレムの影から抜け出した。
間一髪だ。危うく下敷きとなるところだった。
命懸けの連続に、息を付く間もない。
おれは戦場の最中、その最前線で味方を裏切り、その最大の攻城兵器を破壊したのだ。
捕らえられたなら命はない。
逃げなければ、なんとしても逃げなければならない。
次の瞬間だった。
ズドンという衝撃とともに、おれは全身の感覚を失った。
敵兵のものか、味方からのものかも分からない。魔法による攻撃を受けたのだ。
そのまま地に伏せたおれの意識は次第に失われていく。
霞んだ視線の先で、巨大ゴーレムは小爆発を繰り返し、炎上を始めた。
ゴーレムの傍らには、おれが放った一条の矢によって貫かれた「りんご」が転がっていた。










































