自身の情けなさを知り自己嫌悪と虚しさに襲われた場面よりの続き…
ちょっと前まではろくでもないことでしか出入りしたことのない場所にトボトボと歩いてゆく…
今朝も日誌を取りに入室した職員室の前に着いた…
ガラガラと引き戸を開け一直線に赤鬼ババァの机を目指す…
『んっ…どうしたんよ?…日誌は持って行ったじゃろ…
それにもう授業始まるよ…』…
『せ…先生…話しがあるんじゃ…』…
『話し!?…そぅ…言うとうみ…』…
『学級委員のことなんじゃけど…俺にゃ…
俺にゃそんな資格ないけん辞めさせて下さい…』…
『ふ~ん…資格ねぇ…
よし…とにかく今日学活の時間あるしその時に話し聞くわ…
それまでは今まで通りしとき…ええな』…
有無を言わさぬ先生の態度に圧倒されそのまま職員室から退散し教室に向かった…
ちょうど一時限目が学活の時間だった…
赤鬼ババァがいつものように教室に入って来て挨拶を済ませ話しはじめる…
『今日はみんなに訊きたいことがあるんよ…
実は今朝…学級委員長が辞めたいって先生とこ来たんよねぇ…
理由は資格がないからって言うてるんやけど…
みんなの意見を訊かせて欲しいんよねぇ…』…
『……………………』…
教室は静まりかえっている…
『みんなも選挙に参加して選んだんやから…
意見あるはずよねぇ…
なんか意見ないの?…』…
『……………………』…
『そぅ…意見いう意見はないんやねぇ…
じゃあ委員長に辞めたい理由をみんなの前で話して貰うからそれからにしょうか?…
委員長前出て話して…』…
『ま…前!?…は…はぁ』…
ここまで来たらあとは野となれ山となれ的な開き直った気持ちで前に出て話しはじめた…
『今回…委員長に立候補したんは…
どうしてもなりたかったワケやないんや…
だいたい俺みたいなんは委員長の資格ないんじゃし…
ホンマに真面目になりたい人なんぼでもおるんやし…
そやから辞めたほうがええ思うたんや…
ゴメンな…みんな…』…
『……………………』…
『ふ~ん…という理由らしいけど副委員長はいっしょに委員やっててどう思ったん?…
その場でええから意見言うてみて…』…
『は…はぃ…ワタシも最初は大丈夫なんかなぁて思てました…
けど…いっしょにやってて思うたより真面目にやってくれるし…
それに言うこと聞いてくれん男子にちゃんと注意してくれて助かってました…』…
『そぅ…じゃあみんなで選んだんやからもう一度投票しょうか?…
このままで良かったら〇…
選び直すなら×…
投票用紙に書いて下さい…解ったね…』…
皆に投票用紙が配られ書けた者から先生の用意した投票箱に入れてゆく…
『先生が読み上げるから…副委員長…黒板に書いていってね…』…
開票が進む…
まるで針のムシロに座ってるような心境だ…
『これがみんなの意見なんやね…
先生はこの結果を尊重するから…
ええね…みんな…』…
投票結果はこのままでいいの〇の票だけだった…
《ア…アイツらも…》…
『委員長…改めてみんなに挨拶してな…
もぅ逃げたらアカンよ』…
《に…逃げたら…逃げたらアカン…》…
そう逃げたらダメなんだと心で噛み締めて教壇に立ち改めて挨拶した…
『みんな…すんませんでした…
これからは…
これからは本物の委員長として頑張ります…
もう一度チャンスをくれてホンマありがとう…』…
一度死んで生まれ変わったような気分だった…
みんなの気持ちが涙が出るほど嬉しかった…
それと同時に期待に対するプレッシャーをヒシヒシと感じてもいた…
心地良いプレッシャーを…
次の日は土曜日で半日授業のため生徒たちは喜び勇んで下校してゆく…
いつものように日誌を職員室に届ける途中ある教室から大勢の人の気配を感じた…
例の彼女がいる教室だった…
ふと気になり立ち止まると聞き覚えのある声がする…
『今から…さんの…送る会をはじめたいと思います…』…
幼なじみの開催を告げる声に大きな拍手が起こる…
《そうかぁ…あの子転校するんやったなぁ…》…
結局なんの接点もなくサヨナラすることになった…
《サッサとかえってチャルメラ食いながらキィハンターでも見よ…》…
家までなにも考えずただひたすら走って帰った…
なにも考えず…
その晩オフクロが階下から呼ぶ声が聞こえ階段を下りると玄関に幼なじみが待っていた…
『どうしたんや?…』…
『う…うん…今日ね放課後にあの子のお別れ会やったんよ…』…
『ふ~ん…そうかぁ…』…
『ほんでね…明日…昼の二時半に駅に見送りに行くんやけど…
ケンちゃんもいっしょに行かへん?…』…
『み…見送り!?…』…
『ムリならええんやよ…
行くんやったら家の前で二時にね…じゃあおやすみ…』…
幼なじみが帰ったあともしばらく玄関に残ってボンヤリしていた…
どうすればいいか心の整理がつかぬままいつの間にやら眠りに落ち朝を迎えた…
なにもする気が起こらず朝からずっと部屋でゴロゴロしている…
気がつくと二時をとっくに過ぎていた…
二階の窓から玄関前を見下ろしたが幼なじみの姿はもうない…
胸に何かがつかえてモヤモヤする…
時間だけがジリジリと過ぎてゆく…
《…逃げたら…逃げ出したら…アカンよ…か…》…
《そうや…逃げ出したらアカンのや…》…
家を飛び出し走り出す…
駅にはもう間に合わない…
《…河原の…ハァハァ…土手やったら…ハァハァ…間に合うかも…》…
ただひたすら走る…
土手を駆け上っていると汽笛が聞こえてきた…
《ハァハァ…あきらめんぞ…ハァハァ…》…
土手を上りきると目の前を列車がけたたましい汽笛と共に通り過ぎてゆく…
まるで明日に向かって疾駆し嘶く鋼鉄の馬のように…
列車が遠ざかり豆粒ほどになって最後は消えて無くなるまで手を振り続けた…
帰り道転がる石を蹴りながら心の底でつぶやいた…
あきらめたらアカン…
もう絶対に逃げへん…
明日に向かって前へ!前へ!…
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