◼️その3:ガーランド・ショック

そんな折、アニメ誌や一部の映像ソフトカタログに、まだクリンナップすらされず、マーカーで乱雑に着彩されただけのイメージ画稿が公開されます。

たった数枚のこのイメージ画が、少なくとも1984年秋頃の東京の片隅で中二病を患う一中学生の周辺に与えた影響は、それはもう凄まじいモノでした。

以降、そのイメージ画稿その物を紹介してみます。何しろこの「ガーランド・ショック」は、そのまま本作の「ロボ物」としての魅力として見事に結実しているからです。


●一枚目「街中を疾走するガーランド・バイク(マニューバ・クラフト形態)」


第一印象は「…やりやがった!」。無論この一言に複数の称賛の意味が込められています。モスピーダに続く「バイク」主役メカ。それだけに留まらない位、このイメージ画稿に込められた熱量は大きいのです。では、順番にお話していきましょう。

まず、ガーランドのバイク形態その物のデザインです。これは当時連載中の漫画の中で、最も最先端と言われていた大友 克洋 原作「AKIRA」に登場する「金田バイク」が元ネタと思われます。その舞台が2020年開催予定の東京オリンピック会場周辺な事から、ある種予言を現実の物にした事でも最近話題となりました。

1980年当初は無かった「ビッグスクーター」が80年代中盤から登場。2010年代平成最後の現実世界では、金田バイクのような存在を「ツアラー」と呼ぶようになり、実際に道路を走る時代となっています。

「未来派フルカウル・アメリカン」とも言うべきスタイルの「金田バイク」は、暴走族というお山の大将たる主人公「金田」のヤンチャな「健康優良不良少年」ぶりを象徴し、偉そうにふんぞり返りながら、大出力で強引にパワードリフトして乗り回すという、バイクの新たな魅力・カッコ良さを産み出した「名バイブレイヤー」でした。

劇場版「AKIRA」で最も有名な「金田バイク」のパワースライドブレーキングシーン

そんなイケてる「金田バイク」でしたが、自分たち世代にとって唯一不満点がありました。それは、ふんぞり返って乗る「アメリカンスタイル」だった事。

当時の生き急いでいる若者に、ふんぞり返ってる余裕も暇もありゃしないんです。いつだって俺たちゃ前のめり。危険だろうが何だろうが、そこに何かを見出だしたら闇雲に突っ込む(間違った)「大和魂」こそ、俺たち男の勲章・特権・生き様な訳です。

当時、二輪の王者だった、「フレディ・スペンサー」や「ケニー・ロバーツ」が見せつけた「前傾姿勢」「ハングオン」。これこそが当時「命知らず」と俺たちが痺れたバイク搭乗スタイル。

 つまり、これが出来ない「アメリカンスタイル」は「バイクじゃ無い」んです。

そこに、このイメージ画です。主人公「省吾」が「前傾姿勢」のまま、「オフロード」ジャンプでガーランド・バイクを飛び越えさせている。

ついに、あの「金田バイク」が「前傾姿勢」で疾走し、「ハングオン」でカーブを削りながら曲がるシーンが見られる!

本能的にそう理解させるだけの説得力が、このイメージ画稿にはありました。というのも、ここまで「バイクで大事な体重移動」を、アニメ業界の人が「絵」として描いてくれたのを、今まで見た事が無かったからです。

あの「モスピーダ」ですら、イメージ画稿は定番のハングオンか停車中にポーズをとっているものばかり。アニメ内では止め絵スライドばかりでしたから。

省吾の「体重移動」は「バイク」の重み、ひいては、確かにそこにあるという「存在感」を如実に表してくれています。当時の憧れでもあり、現実として常に傍らにあった「バイク」が、ついにバイクに理解のあるアニメーターの手によって本格的に動き出す!

更に言えば、周辺を走っている車・バイクは全て「実在の物」。この時点で、入念なリサーチによって「現実世界でガーランド・バイクを描いて見せる!」という気概を見せつけてくれる、とても良い「絵」なのでした。
 

●二枚目「街中を疾走するガーランド・ロボ(マニューバ・スレイブ形態)」

今 冷静になって見直すと銀座のデパートの前にも見えます。比較しようにも当時の写真が無く、何であんなに「新宿」だと思ったのか、自分自身でもよく分かりません…


第一印象は「?!」…もはや言葉にすらなりません。「特攻の拓」の気分を初めて体感した、まさに笑うしかない「驚愕」の一言に尽きるこの「絵」。では、これも順番にお話していきましょう。

まず目につくのは、当然ながら主役メカ「ガーランド」。

私は先に書きました。「悪要素」たる「コックピット」を相対的に小さくするには、「図体がでかいほど良い」のは自明の理。体積比率でみれば、最小の箱形移動空間「車」ですらちと辛い。最低でも「軽戦闘機」位の体積が必要です、と。

「未来派フルカウル・アメリカン」とも言うべきスタイルの「金田バイク」をモチーフとして選んだのは、その体積を少しでも稼ぐ為という理屈は充分理解出来ます。

あえて、「バイク」時に脚部をはみ出させ、ドラッグレース仕様のようにジェット推進機×二を左右にくくりつけた形に見立てた事も。これはこれで力強く、バイクでの長距離移動時に後部左右に取り付ける荷物コンテナにも見えるので、デザイン的には充分許容範囲な処置です。

それでも、「体積比」は一般的なセダン「車」より遥かに小さい。元来「開放型コックピット」で人は剥き出し前提の「バイク」。それを「ロボ」時に「密閉型コックピット」にするには、そもそもの体積が圧倒的に足りません…つまり「物理的に不可能」なはずなんです!

そこにシレッと書かれているスタッフコメントがまた煽る。曰く、当時「密閉型コックピット」リアルロボ最小とされた「装甲騎兵ボトムズ」の「スコープドッグ」より小さいです、と。

「装甲騎兵ボトムズ」の主役AT「スコープドッグ」

そりゃそうだろうさ!?おかげで、「合体/変形」物としての「ギミック」だけでなく、「物理的に不可能」な事をどうしてるのか?という二重の意味で興味をそそられる結果になっちまったよ!

しかも、ご覧の通り異様に両形態共にまとまりが良く、抜群にカッコ良いのです。今年15周年を迎えたプリキュア風に言えば「ぶっちゃけ有り得ない!」事を平然とやってのけやがった。「ジョジョ」で言うところの「そこにシビれる憧れるぅっ!」

この「物理的に不可能」な事をどうしてるのか?という「興味」は、あの「バルキリー」にすら感じなかった「衝撃」でした。故に「革新的」な「合体/変形」という期待に「ガーランド」は見事応えてくれた形となります。

と同時に、出来の良い玩具・模型で「ギミック」を自らの手で「証明」したいという心の渇望を満たす為の、永い旅の始まりでもあったのです…。

さて、このイメージ画稿に衝撃を受けたのは、ガーランド本体だけではありません。そのまま暗めな背景に目をやると、心なしか見覚えのある風景が。

あれ?ここ確か「新宿丸井前」の道だ、あのよく行くアニメショップ・ペロへ通じる…

  「?!」

ここにきてまたもやこれです。一枚目で感じた、詳細なリサーチによって「現実世界でガーランド・バイクを描いて見せる!」というスタッフの気概を、今度は実在する「東京を舞台」として描くという形で示してくれていたのです。

現在の深夜アニメの主流「日常アニメ」の走りといえば、「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」そして「けいおん!」。これらの作品を製作した「京アニ」作品には、京アニメソッドとも言うべき「お約束」が幾つか存在します。

実はその「お約束」事の2つ「実在商品によるキャラクター付け」「聖地巡礼」に関しては、既に本作で提示されていたのです。


●三枚目「部屋に乱入するガーランド・ロボ(マニューバ・スレイブ形態)」


第一印象は「やっぱコレだよ!」。当時はただ感じたままでしたが、今 具体的な言葉に置き換えると「特撮的観点」での画面構成演出と言った処でしょうか。

1981年、ガンダム劇場化に際して発売された各種ムック本に端を発し、よりリアル志向を求めるユーザーの希望に応えて発展した「MSV」。これが「リアルロボ」ムーブの始まりです。

わずか数年で、多種の作品が誕生しましたが、これは良く言えば「リアルロボの様式美」、悪く言えば「パターン化」する速度をも早める事になります。

そもそも、「スーパーロボ」と「リアルロボ」の違いとは、その立ち位置「存在価値(アイデンティティ)」の違い。

「スーパーロボ」は、その敵に対して唯一対抗できるオンリーワンな主人公「専用機」。
それに対して、「リアルロボ」は、多彩な状況に応じて用意された選択肢の中の一つで、ある一定の資質があれば誰もが載れる「量産機」。

「リアルロボ」は「量産機」であるため、同じ舞台に大量に登場させる事が可能。故に「群像劇」を表現する事に長けています。これが「リアルロボ」物の持つ「スーパーロボ」には無かった、いわゆる「大人の魅力」という奴でした。

ですが「群像劇」故、「何が起きたか」を分かりやすく把握出来る映像にする為に、画作り的には自然と「ロング」「広角」「舞台は邪魔のない宇宙か砂漠や森の中」という単調・平面的な物が主となっていきます。

つまり、元々「巨大ロボ物」というジャンルが持っていた最大の魅力「巨大物の異形感」を「削いでしまう」悪いパターンを生み出してしまったのです。

この「異形感」を生み出すには、「ロボ」「人」「舞台」を同フレーム内に存在させて比較/比率させる奥行きのある画面構成「特撮的観点」に演出が必要不可欠。このイメージ画稿からは、そこから逃げないというスタッフの強い意思がヒシヒシと伝わってきます。

本作以降、「TV放送」されるのは従来の「リアルロボ」物でしたが、コストや手間をある程度かけられる「OVA」では特撮的観点の「スーパーロボ」物という住み分けが自然となされるようになりました。「破邪大星ダンガイオー」「戦え!イクサー1」「鋼の鬼」等がその代表作となります。


…となると「イメージ画稿」ではありませんが、同時発表されたこちらの「設定画」についても本項で紹介しておいた方が良いですね。

本作における最大の敵であり、黒幕でもある「B.D.(ビーディー)」。彼とその部下が駆るのが、主役メカ「ガーランド」のライバル量産機「ハーガン」です。


実はこの機体、「合体/変形」の基本構造その物はガーランドとほとんど変わりません。違う点と言えば、ガーランドは「腕&脚」が一体化しておりスタンドアローンで活動出来る点に対し、ハーガンは補助車両「トランスポーター」無しには「腕&脚」換装すら出来ない点。

一見欠点に見えますが、トランスポーターさえあれば修理&特殊装備への換装が瞬時に可能という、軍事兵器的利点を持っています。ミリタリー感覚溢れる量産機ならではの「リアルロボ」の魅力を、ハーガンは醸し出しています。

それに対しガーランドは、「EVEとコンタクトがとれる」というただ唯一の機能、オンリーワンたる専用機ならではの「スーパーロボ」の魅力を醸し出しています。ただし一度故障&破壊となると工場修理に回さない限り二度と立ち上がることが出来ません。後付けの特殊装備についても同様です。
 
同じ「合体/変形」ギミックを用いながら、単独変形可能なガーランド/武装選択式なハーガンと、陽と陰、長短相反する兄弟メカをライバル機として設定。「スーパーロボ」と「リアルロボ」を同時に存在させたという点でも、本作は特筆すべき魅力を兼ね備えていたのです。


ちなみに、アニメ業界にも、玩具業界にも「ガーランド・ショック」等という言葉は存在していないはず。ですが80年代当時の世相を体感してきた人達と話をすると、必ずと言って良い程に盛り上がる鉄板ネタの一つでした。

「知る人ぞ知る」といった類いですが、間違いなくガーランドは80年代当時のエポックメーキング的な存在の一つだったんだな、と嬉しく思ったものです。

ちなみに、そこから「人造人間キカイダー」に登場する「サイドマシン」や「第二次特撮ブーム」で使用されたバイク話に発展する所までがデフォとなります。

1970年の東京モーターショーで発表されたコンセプトマシンをそのまま使用するという、実機その物が伝説を持つトンデモマシン、それがサイドマシンです。写真はそれを中心とした「第二次特撮ブーム」バイク群

この「ガーランド・ショック」は、確実に一中学生の周辺の「世間の常識」を覆してくれました。何しろ「世間の常識」という圧力に負けていなくなるはずだった「同じ趣味を持つ友達」が、本作公開まで踏み留まってくれる事になったからです。