◼️その2:リアルロボムーブで追うメガゾーン23

1984年この年の夏。アニメ情報誌に、とある二つの「リアルロボ」物の新作が発表されます。どちらも僅かな文章とラフ画数点でしたが、当時のアニメファンに大きな衝撃を与えました。

片や、あの「機動戦士ガンダム」の続編。
片や、あの「超時空要塞マクロス」スタッフによる新作。

そう…「ガンダム」vs「マクロス」という、言わば「リアルロボ頂上対決」が、1985年ついに実現する事になったからです。

何しろ、あの頑固な親ですらメッセージ性を認めたガンダムと、友人たちの陽キャ化を遅らせたマクロスが、両方同時に帰ってくる!

エヴァンゲリオン風に言えば「僕は僕(陰キャ)で良いんだ」という、大いなる免罪符をもらったも同然。これはもう「オタク補完計画」と言っても過言ではありません。

思えば「ヤマト」も「ガンダム」も、子供だけの物だった「テレビ漫画」を世間に認めさせ、大人のホビーとして「漫画」「アニメ」「特撮」「小説」等の「市民権」を得ようとした事が「ブーム」という形になりました。

諸先輩方にとっての「ヤマト」「ガンダム」のように、自分達の世代では「リアルロボ」が「ブーム」に進化して、自分たちの思いを代換してくれるかもしれない…つまりは「ブーム」の持つ「価値基準の逆転」現象に期待していた訳です。

そうしたら「陽キャ」転換を強制する「世間の常識」をも覆してくれるかもしれない。何より「世間の常識」という圧力に負けていなくなってしまう「同じ趣味を持つ友達」が帰ってくるかもしれない。

少なくとも当時の一中学生は、本気でそう信じていたのです。そしてそれは幸か不幸か、全く思いもしない形で深く静かに進行中でした…まあそれは本筋に関係無いお話なので置いておくとして。

とにかく、後に「機動戦士Zガンダム」「メガゾーン23」と呼ばれる事になるこの2作品は、共に「リアルロボ」ブームを呼び起こすべく発表された、1985年の期待作だったのです。


●「バルキリー・ショック」

そもそも「機動戦士ガンダム」は、初公開にあたるTV版の段階で子供向け番組「スーパーロボ」の玩具的特徴「ハイビジ・合体/変形」を色濃く残していました。

それを劇場版公開の段階で、模型的特徴「ロービジ・増設/分離/可変」アプローチに変換する事で「リアルロボ」にイメージを上塗りした経緯があります。

※…なお、シルエットが変わってしまうものを「変形」、基本シルエットが変わらないものを「可変」と称しています。ご了承下さい。


TV版ガンダムで登場した強化マシン「Gアーマー」は…

劇場版ガンダムでは支援戦闘機「コア・ブースター」に取って変わられました。


「MSV」シリーズを経て誕生した「リアルロボ」では、「スーパーロボ」では当たり前だった「合体/変形」という玩具・模型化の制約が無くなり、実写映画やTVでは到達し得ない舞台とドラマ性を得、当時のアニメスタッフは創りたいものが創れる状況が整った訳なのですが…。

後発の「マクロス」は、「スーパーロボ」の特徴たる「原色色分け・合体/変形」更には「敵は宇宙人」という特徴を残したまま、見事に「リアルロボ」を成立させてしまいました。


タカトクトイスの完全変形玩具「VF-1S バルキリー」。「ファイター(飛行形態)」「バトロイド(人型ロボ)」「ガォーク(中間形態)」へとスムーズに三段変形するその登場は、当時 衝撃的な物でした。

以降、玩具メーカーは「マクロス」の実績を振りかざし、「リアルロボ」物にすら「合体/変形」という枷を強要するようになります。

これがアニメ・玩具業界で言うところの「バルキリー・ショック」です。

1985年に実現する事になった「ガンダム」vs「マクロス」という「リアルロボ頂上対決」の焦点は、まさに「バルキリーショックにどう対応するのか?」この一点に絞られていたのです。


●「リアルロボに望むもの」

それでもガンダムを擁するアニメ会社「サンライズ」は、ガンダム以外の作品においても「リアルロボ」第一人者という立場から、一部を除き辛うじてリアリティを維持するべく「増設/分離/可変」に踏み止まっていました。

当時のアニメファンとしても、物語と設定の「重厚さ」と「ミリタリー感」を押さえた「リアルロボの矜恃」を保って欲しいという極めて「保守的」なもので、「合体/変形」なぞ望んでいなかったのです。

実際この年秋頃から「機動戦士Zガンダム」に登場する新MS群が徐々に公開され始めるのですが、自ら放棄した「合体/変形」路線を取り入れなかったその姿勢にホッとした事を覚えています。

ですがこの思いは物語後半に登場する主役メカ「Zガンダム」の登場により脆くも崩れ去ります。あろう事か、バルキリーと同じ「飛行機」に「変形」させてしまったのですから。

「機動戦士Zガンダム」の主役メカ「Zガンダム」。ウェイブライダー(飛行形態)からモビルスーツ(人型ロボ)に二段変形します。

当時のスタッフは真っ向勝負のつもりだったかもしれませんが、正直「同じ土俵」に立ってしまった段階で、自分達の中では「ガンダムがマクロスに屈した」感は否めませんでした。

それに対し「メガゾーン23」に関しては、当然ながらバルキリーショック並の「革新的」な「合体/変形」ものを望んでいました。

シレッとこの時点まで、当時のアニメ誌の煽り文のまま「マクロススタッフ」と書いてきましたが、実はこの言葉には大きな語弊があります。

「マクロス」最大の功労者の一人で「バルキリーショック」を産み出した張本人のメカデザイナー「河森 正治&スタジオぬえ」が、本作品には未参加だったからです。

「…え?それって大問題じゃねーの?」

奇特にもここまで読んで頂けた方はそう思われたかもしれません。ですが、この事はそれほど大きな弊害とはなりませんでした。

なぜなら、この「バルキリー・ショック」を真正面から受け止めて見せた唯一のメカデザイン集団が、本作に参加していたからです…その名を「アートミック」と言います。


●「アートミック」

「超時空要塞マクロス」の一年後、つまりこの年の一年前。「バルキリーショック」の熱も冷めやらぬ中で、とある「リアルロボ」作品が放映されています。

「機甲創世記モスピーダ」と呼ばれるこの作品では、「バルキリーショック」で誰もが比較されるのを躊躇して手を出さなかった「航空戦闘機」をあえてモチーフとし、バルキリーが「軽戦闘機」ならこっちは「重戦闘機」と、見事にカテゴリーを住み分けて活躍させて見せました。

「機甲創世記モスピーダ」に登場する重戦闘機「レギオス」。こちらも負けじと三段変形します。


しかもこの重戦闘機「レギオス」はただの「サブメカ」に過ぎません。本作の「主役メカ」は、何とあのナウなヤングにバカウケ(死語)な「バイク」を「パワードスーツ」に変形させた「ライドアーマー」だったのです!

これがどれだけスゴい事か。それをお伝えするには「合体/変形の面白さと難しさ」を再確認しておく必要があります。


●「合体/変形の面白さと難しさ」

そもそも「合体/変形」の面白さはどこから来るものなのでしょうか?

二種類以上の形状・用途の異なる物へ物理的ギミックを持って「変身」する事。それが「合体/変形」の定義です。

この定義を成立させるためには、各形態を破綻させないために解決する「からくり」が必要となります。これが「ギミック」。その変化が「劇的」なほど好奇心を刺激する効果があります。

そしてこの「ギミック」は「シンプル」である程に「強度」「コスト安」そして「まとまりの良さ」という効果を発揮します。

ですが、あまりに「シンプル」過ぎると「からくり」ですら無くなってしまう。そこに感動は無く、これではただの「可変」になってしまいます。

「劇的」「シンプル」は相反するため、両立すると「美しさ」「感動」に繋がります。故に合体/変形「ギミック」には「コロンブスの卵的アイデア」が必要不可欠なのです。

変化に対する疑問が「コロンブスの卵」的な「ギミック」一つで「劇的」に解決する快感。「知的好奇心を満足させられるか?」がその醍醐味・面白さとなる訳です。

そして、変身前後各々の「カッコ良さ」が要求される事は言うまでもありません。これが玩具・模型等の「立体物」として手元に置き、「からくり」を手づくないで実証したいという欲求・購買欲に繋がるからです。

では「合体/変形」の難しさとはどこから来るものなのか?

それはどの形態でも破綻無く、ある程度の強度をもって「合体/変形」させる事。
そのためには「ギミック」を極力大型化して強度を保ちつつ収納する「スペース」をどう確保するかが肝となります。

この視点で見た場合、人が乗る「コックピット」は単なるデッドスペース。破状の無い「変形/合体」時に必要不可欠な「まとまりの良さ」と相矛盾する、ただの「悪要素」でしかありません。

「悪要素」たる「コックピット」を相対的に小さくするには、「図体がでかいほど良い」のは自明の理。体積比率でみれば最小の箱形移動空間「車」ですらちと辛い。最低でも「軽戦闘機」位の体積が必要です。

奇しくも同じ1985年に発表される事になる「トランスフォーマー」が良い参考例となります。

彼らは「機械生命体」で自らの意思を持って活動します。つまり「最初から人が乗る事を想定していません」。実際に発売された玩具では「コクピット」スペースに手足や頭を収納する事で、様々な現実世界の機械を違和感無く「合体/変形」させています。

かように「コクピット」スペースさえ考慮しなければ、バイクどころか銃やカセットテープですら人型に変形可能な事を「トランスフォーマー」は証明しているのです。

実車モデルのトランスフォーマー

話を「モスピーダ」の「ライドアーマー」に戻しますが、そもそも元ネタの「バイク」自体その体積比はほぼ人と同じで大変小さい物。いくらバイク大好きおバカな中学生でも「合体/変形」のモチーフとしては有り得ないと思い込んでいました。

実際「テレビ漫画」の時代にまで逆上っても、人とは全く関係の無いサポートロボに「何ちゃって変形」させた「電人ザボーガー」くらいしか存在していませんでしたし。

テレビ漫画時代の変形バイクロボ「電人ザボーガー」

これを「乗せられないなら着せれば良いじゃね?見た目ロボだし」とあっさり「パワードスーツ」にしてしまう、キレッキレな「コロンブスの卵」的発想転換。

そしてバルキリー並に出来の良い玩具・模型を発売する事で「ギミック」を見事「証明」して見せた「アートミック」は、一躍新進気鋭のメカデザイナーへと名乗りを上げる事になります。


「機甲創世記モスピーダ」の主役メカ「ライドアーマー」

そこに、元々はモスピーダの後番組として企画されていたメガゾーン23が発表されたのです。