一度でも「焦らなくて大丈夫」って言われてたら全然違ったんだ。残高不足のICOCAを引き金にどんどん大きな風になっていった。イライラでも悲しいでも辛いでもない変な嫌な気持ち。こういうときあなたは助けてって思うのかな。

 消し忘れた水色。共有カレンダーはなんにも知らないで「今日も素敵な一日になりそうです」って言ってた。31日あるうち4分の3は赤色で埋まってる。この人に友達が多いのか私が少なすぎるのか。興味ないっすねw って下手くそに笑って内心しょんぼりしちゃって。気が動転してドキドキしながら淹れたコーヒーがまあまずいまずい。バカな生き方してる。


 人間不信ってたまに言われる。自分でもそうだと思う。でもそれで良いとも思ってる。人間を信じてよかったことに比べて、信じなくてよかったことの方が圧倒的に多かった。

 人間のパワーって果てしなくって怖い。人を殺すし救う。他人とあんまり関わりたくない理由ってそれだ。傷つけたくないし傷つけられたくない。きっと責任を取れない。重要な人物になりたくない。

 他人に好きなアニメを勧められない。人生に影響を与えたくないから。好きな音楽だってそうだ。教えてきたのはこの人に裏切られてもいいって人だけ。本当だよ。彩葉ちゃん友達いなすぎて一人あたりの感情がバグってる。

 仲良くなるとか信頼するっていいことだけじゃない。自分の重さを相手に与えるようになること忘れちゃいけないんだ。「大人しいけど正義感が強いです」って言った先生、私のこと苦手だったんだろうな。理科室の裏に二人で埋めたメダカの死骸が透明できらきら。


 抱きしめられたいって思う気持ちが今まで分からなかった。誰かに抱きしめられて何か一つでも解決するのかなって思っていた。ソフトクリームを地面にベチャ! って落っことしたみたいに下手っぴなハグだった。静電気起きたとこ離さず掴み続けるみたいに心臓がビリビリして怖くって温かい。初めて嫌な思い出を一瞬忘れた。安心して手汗が急激にあふれて震えてた。ぼろぼろ泣いてる私の目元を優しくぬぐった指先は透明のマニキュアの匂い。頼んだメロンフロートは溶けてもうぐっちゃぐちゃだった。ぎゅっと握った彼女の華奢な手が壊れてしまいそうで握りなおす。

 部屋を出るときいつもより長く忘れ物チェックした。全然分かんないけどたぶんもう一回抱きしめてほしかったんだ。人間のこと信じそうで怖い。前を歩く彼女のポニーテールがふんわり揺れて催眠術みたい。


 「あ、杏奈ちゃんジュースこぼしてる」って胸で唱える。私たちテレパシーで繋がってるから。ね、ってだめだちょっと恥ずかしくなってきて。最後に舐めた氷と一緒に魔法も解けていく。

 最近はちょっと本当に限界なんだ。バカデカい精算機の音に目を伏せて駅まで。ちゃんと言葉にしなきゃ。ほらまたICOCA残高不足。