左手の階段から来るだろうと思ったから、まっすぐにある噴水のきらめきを眺めてた。残暑の大阪駅、心臓がパチパチ弾けるみたいに脈打ってて、あなたのこと大切に思ってるんだって改めて思った。

 いつの間にか大事なこといろいろ忘れちゃってた。「ゆっくりで大丈夫」って送ったメッセージを読み返してふっと顔を上げたらあなたが無邪気に駆けてきて、たまらなく温かい気持ちになったんだ。

 たくさん喋ってきたし何度か会う機会もあったけど、並んで歩くのは初めてだった。真横からあなたの声、解体工事のフェンスすらぴかぴか輝きはじめて。本当に月が綺麗なときってなんて言えばいいんだろう。まんまるに浮かぶ白い月を見つけて、あ、って言いかけてすぐにやめた。目を逸らして、いや別に逸らす必要もないんだけど、なんだろう本当にそういう意味じゃなくて、マジで月が綺麗なとき、ほんとうになんて言えばいいんだ。首筋の汗を長袖でぬぐう。あまり外に出ないから気温の感じが分かんない。というか私はなにも分かんないんだ。蝶々結びもパッシブとアクティブの違いもあなたの名字の書き方も。


 今まで出会った中で、あなたほど清らかな人間を知らない。夜風のような涼しい強さを持っている人。透明のお皿に蜂蜜がきらきら、向かいで同じケーキを食べるあなた。二人で不思議なガラスの窓の隙間から外を眺めてた。かけがえのない思い出になっちまう。私はこういうとき泣きそうになるからだめなんだ。丸い電球に照らされるアイスコーヒーの氷がつやつや。あなたの言葉って安心するんだよ。ガムシロップ積み上げる指先、なんかそれめっちゃわかるって嬉しくて笑っちゃって。


 あなたと会うまで、結構恥ずかしい人間だった。改札で別れた後、ゆっくり自分のこと見つめ直してた。

 今までどうして無理して頑張れたのかようやく知れた。立ち漕ぎで地元の海に架かる橋を越える。平然とした顔で胸の中は新しい気持ちでいっぱいで。浮かれた地球が引力忘れて自転車ごと私を月まで。

 一歳差は天国でようやく縮まるのでしょうか。アニメ脚本でカットされる胸の中の描写。最近は生き急ぐって感覚が分かるようになったんだ。周回遅れの感情に本気で悩んじゃって嬉しくって変だ。もう夜はほんのちょっとだけ涼しい。あなたのこと見つめる目が、いつまでも純な黒色でありますよーに。