結局、通路側の男は、知り合いだったのかどうかは最後まで分からなかった。
きっと知り合いではないのだろう。
そう思い込みたい気分が半分くらいあったのは事実だが、
後ろめたい気持ちが幻影を作り出しているような気さえした。
新幹線は新しい土地へ行くのにはとても手軽だ。
ほんの数時間で、私たちのことを誰も知らない所に来ることができる。
普段はありえないタメ口でのおしゃべりも、
手を繋いで歩いても、誰にも迷惑をかけない。
かりそめの世界であっても、その時の私には周りのすべてがキラキラと輝いてるように見えた。
外はとても暑くて、正直歩くのはキツかったけど、
まだそんなことを言えるような間柄でもないような気がして、我慢して歩いた。
元々相手に合わせて我慢するのは得意な方なのだ。
場所が変わっただけで、特別何かをするわけではなく、
ひたすら夜を待っているような、そんな時間だった。
彼は早く夜が来て欲しいんだろうな、とは思っていた。
彼の夜の楽しみと、私の夜の恐怖は紙一重で、
どちらもそこに触れてはいけないような、妙な緊張感が漂っていた。