それまで、
たいへんだったねー、それで?
と機嫌よく相槌をうっていた私が急にだまりこんだのを、
彼は不思議そうに見つめた。
どうにかして彼につたえなければ。
そっと彼の耳に近づく。
隣、知ってるひとかもしれない。
最小限のことだけ伝える。
一度大きく目を見開いて、そっと通路側をうかがい、
そのまま座席に深く座り込んだ。
おもむろに新聞をひろげる。
雑誌を私に見せて、読むか、と眼だけできいてくる。
ふるふると首をよこに振り、ちょっと寝る、と答えた。
彼は新聞を読み、私は窓を見つめ続けた。
トンネルに入るたびに車外が暗くなり、
窓に彼と男性の姿が映し出される。
私は不安と驚きと猜疑心でいっぱいになりながら、
飽きずに二人の顔を交互に見続けていた。