「私が影響を受けたアルバム🎶」
8枚目は【 軋轢 】です。
音楽はその時代を現すアイコンであり、また一個人にとっては人生のワンシーンを映し出す座標にもなり得るものだが、同時代で共有できる音、所謂「ヒット曲」とは別に人それぞれが持つ極々パーソナルな「超個人的音楽史」というものも存在している。
ヒットしていようがいまいが、またリアルタイムであろうとなかろうと、そんなことは関係無くその時々で自分の琴線に触れた音楽。
このフリクションの1st.アルバムは80年代後期に学生さんだった僕にとって、まさにそんな時期の「超個人的ヘビロテ盤」。
所謂「東京ロッカーズ」のオムニバスでフリクションの存在と音は知っていたが、そこで気になったとしても早々とオリジナルアルバムまではたどり着けず、「せなかのコード」と「Cool Fool」といった二曲のライブ音源が、僕にとってのフリクションの全てだった。
それから暫く経って無茶苦茶音楽クレイジーな後輩が現れ、この1st.のアナログ盤を持っていると聞き矢も盾もたまらず言った。
「それ、貸してください」
やっと出会えたこのアルバムの現物ジャケットを手にして、表の背泳ぎしている様なレック氏と裏ジャケのケーブルの写真を見て思わず呟いた。
「せなかのコードだ…」
当然ながらカセットテープにダビングしながらアルバムに針を落とすと、ヘヴィで独特なベースラインとエレキギターの金属成分だけを絞りだした様なギター、乾いた音ながら確実に人の呼吸を感じるドラム、そして一切の馴れ合いを拒否し、アンサンブルからでさえも距離を取って叩きつける、ザリついた言葉。
もう一曲目から、グッときた。
基本的にトリオバンドは大好きで、クリームやJL&C等も聴き狂いながらコピーしたりもしていたけど、このバンドはトリオ形態をとってはいるがそのいずれとも違った。
何人で演奏しようと、どこを切ってもレックさんなんだと思った。
絵面的にトリオのフリクションは堪らなくカッコいいが、音はどの楽器からもレックさんが聴こえる。
もちろん今の二人フリクションに至るまでのメンバーは皆それぞれ素晴らしいアーティストに違いないが、フリクションの看板を揚げた音楽は全てレックさんそのもの。
最後までまったくブレずにコンセプトを貫く絵画や映画みたいで、これは絶対に真似出来ない危険なものだと痛感した。
その後も【Replicant Walk】や【Zone Tripper】等、その時代毎のリズムや言葉を発するフリクションを楽しめるが、やはりどこを切ってもレックさんだ。
「腕から生えたニクロム線が焼けた匂い」と言うか、「自動稼動している人気の無い夜の工場で動く人影」と言うか、有機物と無機物が歪に融合されている場面が浮かぶフリクションの音楽は、常にスリリングでサイバーパンクなイメージ。
フリクション以外でも、オプティカル8やIMAバンド等を聴いて来たが、レックさんが参加した作品には確実にその匂いと痕跡が聴こえる。
強くないと出せない言葉と音だからこそ、憧れるし追い続けてしまう。
フリクションはそういう存在です。
蛇足ですがどうしても「Cool Fool」が演りたくて、前述した後輩(ギタリスト)と、やはり後輩だったドラマーのクハラカズユキに頼んでちょっとだけレックさん役に挑戦した事があります。
コピーしてみた結果、レックさんはさらに遠い存在になりました。