未象の庭 ―森へ続く道― | 蝋画塾 Atelier Berankat のブログ

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第二次大戦中に開発された、「蝋画」という描画技法を紹介するブログです。

 

 

黒浜の大クヌギ

 

2017年10月、埼玉県蓮田市の東埼玉病院周辺に広がる森の樹木が、

市の道路拡張工事のため二百数十本伐り倒されました。

中でも、推定樹齢100年の黒浜の大クヌギは、

樹木を守ろうと活動していた人々の中心にあり、その象徴的存在でした。

 

残念なことにこの樹も伐られてしまいましたが、

「せめて木材として有効に生かしたい」という思いを引き継ぎ、

作品に使用する機会を頂きました。

 

朝日新聞デジタルに掲載された記事→

https://www.asahi.com/articles/ASKBV3J65KBVUTNB001.html

 

  

 

大クヌギが立っていた場所(現在)

宅地開発で分断された雑木林が点在するその場所は、

「雅楽谷(うたや)の森」と呼ばれていて、

伝承ではかつて収穫を祝う祭りの場がありました。

 

一帯は黒浜貝塚群のエリアとも重なり,縄文の遺跡をその懐に抱えています。

その一角にある日野手緑地を管理するボランティアに参加しながら、

周辺の雑木林に何度も足を運び、木々の葉を採取し、

冬の弱い陽射しでも写真を転写できる植物を探しました。

 

 

 

 

私の手元に、3冊の古いアルバムがあります。

そこには、まだ若い祖父母と一緒に

見知らぬ縁者達が写っています。

両親の遺影を探す時に押入れの奥で見つけました。

 

私がこの世に存在することに、

多大な影響を与えたであろう人達です。

このアルバムの写真を、生前母が育てた庭の植物の葉に焼き付け、

それを素材にして制作することを一昨年から始めました。

 

 

 

 

今回の展示では、このアルバムから子供の画像だけを抜き出し、

森の常緑樹の葉に焼き付けました。

大クヌギが芽を出した、昭和初期頃まで遡ることのできる写真です。

私達は彼らからこの環境を引き継ぎました。

 

 

ナンテンの葉

 

また、地元の多くの人たちの協力を得て、

この森で遊んだ記憶を持つ子供達の写真をお借りし、

その姿も葉に焼き付けました。

この環境を受け渡す次の世代の人達です。

 

 

シラカシの葉

 

日野手緑地に限らず、森や林の維持管理を行なっている人達は、

数十年先を見越しながら植物の配置を考え、木を植え、伐採します。

それは、世代を超えていくことが大前提の作業です。

 

 

 

 

展示に使用する大クヌギの輪切りの断面には、

幹が太いため一度では伐れず、

チェ―ンソーの刃が何度も入れられた不規則な跡に、

100年かけて刻み込まれた年輪が見え隠れしています。

 

二つの痕跡の交わりようもないほどの異質さは、

人が抱えている環境と開発のバランスの難しさを

静かに訴えているようにも見えます。

 

 

大クヌギのある風景

 

この写真の風景は、昨年10月に失われたものであると同時に、

地道な努力と正しい選択を、想像力を持って続けることができるなら、

100年後の地上のどこかに広がる風景なのかもしれません。

 

葉は展示の終った後、森の土に還します。

そのために、感光剤等の人工的な薬品は使わず、
太陽光照射による葉の色素の変化のみで像を結んでいます。

 

葉は微生物により分解され、

養分となり木々に還流していくでしょう。

それは植物の次世代を育むことに繋がります。

そんな自然現象の循環の一時を、会場で共有できたら幸いです。

 

 

シラカシの芽

 

 

 

 

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展覧会の詳細です。

この展覧会は「美術と街巡り・浦和」という美術イベントの

構成プログラムの一環です。

 

埼玉会館展

3月9日(金)~ 15日(木) 9:00〜17:00 埼玉会館第3展示室(地下2階)

▍出品作家

朝比奈建、安藤英次、一条美由紀、伊藤ちさと、岩垣有、岡崎詩をり、荻野哲哉、

織本亘、金原寿浩、熊谷美奈子、倉石文雄、五嶋稔、須惠朋子、高草木裕子、

高島芳幸、田中千鶴子、田中宏美、田中正弘、平丸陽子、古澤優子、細野稔人、

松丸真江、茂木威史、柳早苗、渡辺伸

▍アーティスト・トーク(聴講無料)

出品者が自作について語ります。
3月10日(土)、11日(日) 14:00 - 15:00(各日とも)

開催日 トーク作家
 3月10日(土) 朝比奈建、岩垣有、織本亘、金原寿浩、高島芳幸、田中宏美、
田中正弘、細野稔人、茂木威史、渡辺伸
 3月11日(日) 安藤英次、一条美由紀、伊藤ちさと、荻野哲哉、熊谷美奈子、
五嶋稔、須惠朋子、高草木裕子、田中千鶴子、古澤優子、柳早苗


 

 

 

 

 

 

旧中山道文化資源再生プロジェクト美術と街巡り・浦和

ホームペ-ジ → http://arttown.web.fc2.com/index.html#gaiyo