「○○○専用の鰺の干物 by 中山マコト」 | 「地球探検隊」中村隊長の公式ブログ【ビタミンT】

「○○○専用の鰺の干物 by 中山マコト」

最近、このブログでも紹介した 友人の中山マコトさん が書いた、

この下田の話はあちこちで反響があったが、
またグッとくる物語が届いたのでシェアしたい。

下田と言う、伊豆半島突端の小さな街・・・
地元を愛し、地元のために、人生を賭ける人がいる。
こんな生き方、素敵だ!

中山マコトさんのウラマガ(3)より抜粋

★下田の女性バーテンダに本気の地元愛を見た。

2012年2月21日
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★○○○専用の鰺の干物。

下田三部作!

いよいよ、〆はある女性バーテンダの物語です。

ある日、伊豆は下田の老舗ホテルに泊まった僕は、深夜近く、
ホテルのバーにいました。


その店にはおそらく、
40代前半かな?と言う感じの女性バーテンダーがいました。

地元で、昼間は店をやりながら、夜はそのバーで働いています。


僕は彼女と馬鹿話をしながら、下田の魅力について語っていました。

彼女・・・昼間は、小さな土産物屋をやっていて、

夕方以降はお子さんに店を代わって貰い、このホテルのバーに出ています。


そのバーは、ホテル内に併設されたカラオケBOXにもお酒を届けたり、
結構、忙しそうでした。

と、カラオケBOXから大量のお酒の注文が入り、
彼女はそれを用意し、僕に、
「ちょっと店を見ていてもらってよいですか?すぐに戻りますので・・・」
と言っていなくなりました。


僕はじっと彼女の帰りを待っていました。
程なく戻ってきた彼女は、僕にお代わりのバーボンの水割りを作りながら、
突然、こんな事を言いました。

「お客さん!お土産はどうされるんですか?」

土産物屋をやっている彼女からの質問です。


当然、
”自分の店で土産を買って欲しい!”
と言う提案だと思うじゃないですか?

僕は、
「やっぱり干物だよね~、下田と言えば・・・」と答えました。

続けて、
「最近は金目一匹1600円とか、肉厚の鰺の干物、一匹1000円とか、
結構ふざけた値段取る店、あるけどね?」

と多少の皮肉を込めて言いました。


彼女も、
「そうなんですよ!どんどん高い値段をつける店が出てくるので、
私達も困ってるんですよ!
買いやすいお値段じゃ無いと、お土産も買っていただけませんしね~」
と答えます。


これも僕にとっては、「うちのは安いよ!」と言うアピールに聞こえました。
すると彼女が突然こんな事を言いました。

「お客さん、鰺(あじ)の干物、お好きですか?」

僕は、彼女の店で土産を買ってあげる覚悟を決め、

「大好きですよ!どっかおいしい店あるの?」
と尋ねてみました。


もちろん、
「うちのは安くておいしいですよ!」
と言う言葉が飛び出すのを覚悟の上で・・・です。

でも彼女からの答えは、まったく違ったものでした。


彼女は続けます。
港のそばに干物を売っている専門店が数軒あります。
その中に、高齢のご夫婦がやっている干物屋さんがあるんです。

その店の鰺の干物が私は大好きです。

小さくて、薄くて、脂も乗ってない鰺の干物ですけど、
これが、ある食べ方をすると絶品なんです。


それは・・・お茶漬け。

カリッカリに焼いて、身をほぐして、お茶漬けにして食べる。
香ばしさと鰺の独特の食感で、最高なんですよ!
お茶漬けには脂ののった鰺は合わないんです。
ご飯に脂が浮いてしまうからです。でもこの鰺はそれがない。
お茶漬けをさっぱりと味わえる。まさに、お茶漬けのために干された鰺なんですよ!


ただ、沢山は作れないので、すぐに売り切れてしまいます。
朝の早い時間に行かないと無くなっちゃうんですよ!」

彼女の言葉が終わらないうちに、僕は、
「明日、タクシー予約して!」と言っていました。



彼女は更に続けます。

「そのご夫婦、かなりの高齢なので、いつまで続けられるか分かりません。
私達、地元のモノも心配してるんですよ。
跡取りもいらっしゃらないみたいですし・・・」

僕は彼女に名刺を渡し、彼女も自らの名刺の裏に
自分のケータイ電話番号を書いて渡してくれました。

僕はすぐにその番号を登録しました。


僕はその店の場所を彼女から訊いて、翌日、迎えに来てくれたタクシーで、
早朝、その店に行きました。
まさに女性バーテンダが教えてくれたとおり、小さな店で、
すでに在庫はかなり減っています。


僕は残っていたザルのすべてを下さい!とおばあさんに言い、
”400円のざる、5皿と700円のざる3皿を購入しました。
それぞれに小振りの鰺が、5匹程度乗っています。

値段によって確かに鰺のサイズが違います。
少なくとも駅の土産物売り場で売っている、ゴージャス系の干物とはまったく違います。


僕は自宅にメールを打ち、「今夜はお茶漬けにするから待っててね!」と伝えました。
その夜、中山家の食卓には鰺の干物が並びました。
カリッカリに焦げる寸前まで焼いた鰺の干物は、実に香ばしく、まさに、

”お茶漬けのために干された鰺”そのものでした。


娘達もおいしいおいしいと食べてくれました。
その事をブログに書いた僕に、数人の親友から連絡が入り、
「その鰺をわけてくれないか?」と言われ、翌日は何軒かに配り歩きました。

みんな素晴らしい素晴らしいと言ってくれ、僕も、

「また買いに行こうかな?」、あるいは、彼女に頼んで買っておくって貰おうか?
とも思いました。



さて、それから数ヶ月後・・・


僕のケータイに着信がありました。
ディスプレイには、”下田バーテンダ”と表示されています。

「すわ!あのご夫婦のどちらかが亡くなってしまったのか?」

僕は少しだけの嫌な予感を抱きながら電話に出ました。


ご無沙汰の挨拶を交わした後、彼女は静かに切り出しました。
その後、彼女が語った内容はまさに”下田愛”に満ちあふれたものでした。

「体力が続かないと言う事で、あのお店は廃業されることになりました。

しばらくの間、あの”お茶漬け専用の鰺の干物は食べられません。」


「それは残念ですね~。でも、さっきおっしゃった”しばらくの間・・”とは
どういう意味ですか?」

僕は尋ねました。


彼女の口から出た次の言葉に僕は正直、打ちのめされました。


彼女はこう言いました。

「跡は私が次ぎます。あのおじいさんに教わりながら、今、毎日修行中です。

ホテルもやめました。

あの鰺の干物を残すために、残りの人生を使ってみようと思います。

もし機会があったら、また下田にお見えになる事があったら、
ぜひお電話を下さい。



まだまだ失敗作ばかりですが、一緒にお茶漬けを味わいましょう!」

中山マコト