小学生の頃、よく列車の写真を撮りに行った。
当時は、「撮り鉄」などという言葉は勿論なく、ブルートレインブームが来る前で、世間の子ども達はスーパーカーに夢中だった。だから、鉄道沿線や駅には、カメラを持った子どもは殆どいなくて、私たちは自由に撮影させてもらった。
近所の特急が停車する比較的大きな駅に行き、まず駅長さんに挨拶して撮影の許可を貰い、堂々とホームで撮影をさせてもらった。列車停車中は、線路に下りての撮影も許可してくれた。また、親切にも駅長室に招き入れ、駅の業務や鉄道の仕組みについて、駅長さんが自ら説明してくれた。
言っておくが、学校の社会科見学で行ったわけではない。子供同士で、休みの日に駅に遊びに行っただけであった。それなのに、当時の国鉄職員は嫌な顔一つせず、親切にも丁寧に説明したり案内したりしてくれたのだった。まさに古き良き時代である。
機関車の連結・開放シーンを撮っていると、作業員のおじさんに声をかけられた。
「僕達、こんなの撮ってどうするんだい?」
「いいカメラ持ってるなぁ。」
「おじさんたちを、かっこよく撮ってくれよ。」
おじさん達は、みな気さくな人達だった。
近所の駅で撮影をしていると、親しくなった駅長さんから、古い時刻表を貰ったり、ポスターを貰ったりした。お茶を入れてくれたりする駅員さんもいた。
その後、スーパーカーブームは去り、ブルートレインブームがやってくると、事態は急変した。今まで普通に撮影できたホームでさえ撮影禁止になったり、警備員が出るほどの事態になった。今までの、本当の鉄道好きな人だけが撮影に来ていた時代から、ブームに乗った俄かファンが、撮影マナーを無視して土足で踏み込んできた為であった。
その頃から、鉄道好きな人達が「鉄道マニア」と呼ばれるようになった。どうも、世間の人達は余り快く思っていないらしいと感じ始めた。私は、何となく撮影に行くのが気が引けて、あまり撮影には行かなくなった。
ブームとは俄かファンを増やし、結果として古くからいるファンを追い出すことがある様だ。
幸か不幸か、そんなブームは数年で去って行き、ブルートレインは閑古鳥が鳴くようになった。そして、人知れず少しずつ廃止されていき、気付けば殆どなくなってしまった。
近年、また鉄道ブームになっている。しかし、以前の様な子ども達が中心のブームではなく、当時子どもだった人たちが親の世代になり、その人達中心のブームである。
それで、私の様な「いにしえのファン」は、またちょっと肩身が狭い状況になっている。でも、ブームはやがて去るだろう。また、本当に好きな人しか興味を示さなくなってしまうかもしれない。それは、鉄道にとって幸せな事なのだろうか?皆から脚光を浴びている方が幸せなのではないか?
ファンが増えると迷惑行為をするファンも増えて、鉄道としては困る。でも、ファンが減ると、営業収入自体が減るので、それも困る。
マナーの良いファンが増えるという、鉄道にとっても、我々にとっても素晴らしい時代が来る事は無いのだろうか。
それは、我々一人ひとりの心がけにかかっている。