[ Never give up ] side L
練習室の使い古された重い扉は、更に重みを増して俺にのし掛かる。
「(るぅちゃん!)」
ドアを開けた瞬間、勢いにまかせて飛びついてきたタオを全身で受けて、体勢を維持するために自然と足が退く。
「(れ?るぅちゃん、どうしたの?暗いよ、変だよ、どこか悪いの?)」
普段はぶっ飛ばしたり、無理矢理引っ張り離す俺の異変に気づき、容赦なく問い詰めるタオ。
そういや、先生は3ヶ月前に来た中国人の世話役を俺に頼んだために俺はここに来たわけだが。
つい最近にこの事務所に来た外国人はタオだけだ。
_______ってことは………、
「(お前のせいでミーちゃんと会えなくなったのか。)」
自分のことを棚に上げてタオに八つ当たりする。
「(僕、何も悪くないし!まず、ミーちゃんってだれ?彼女?)」
「(タオ、ルハン。いつまでもドアのところで話してないで、入ってこいよ。)」
途中でウーファンが会話を遮る。
「(タオ、ちょっと来て?なんか、腰が痛いからマッサージしてくれる?)」
「(うん!任せて!)」
イーシンが巧くタオを誘って助け船を出してくれた。
イーシンに話ながらマッサージし始めるタオを見てから、ウーファンの隣に荷物を置いてその場に座り込む。
「ミーちゃんって、ミンソクのことか?」
ウーファンの突然の言葉に驚いてばっと顔を上げると、ウーファンは無表情でふたりを見たまま話を続けた。
「少し前に噂で聞いた。"ルハンのお気に入りは大好物の包子(パオズ)みたいな子"って。」
ほんとに包子のようにふっくら膨らんでて、ぷにぷにとやわらかいほっぺのミンソクが脳裏に浮かぶ。
「その子と何があったんだ?」
真っ直ぐに俺を見るその目には心配の色が見えた。
「……俺さ、ミーちゃんを傷つけちゃったんだ。」
俯いて目を閉じる。
浮かぶのは、あの日の君の泣き顔。
「嫉妬として傷つけたまま、中途半端に謝って置いてきちゃった。」
先程の驚いた君の顔。
「好きなのに、、。」
気持ちとは裏腹に、君を傷つけることばかり。
自分がこんな子どもじみたことするなんて。
「(るぅちゃん!)」
不意にタオが呼ぶから、思わず顔を上げると思ったよりも近くにタオの顔があって吃驚した。
「(なんかわかんないけど、好きならその人に好きって言わないと伝わらないよ!)」
明るいトーンには似合わない真面目な顔して俺を見据えるタオ。
あ、わかった。
こいつ、セフンに似てんだ。
セフンのときにも過ったこと。
このふたりはストレートに物事を伝える。
その言葉はすんなりと心に入り、刻まれる。
ふにゃふにゃな話し方のタオと、毒舌な話し方のセフンがもつ不思議な才能。
真っ直ぐに相手に伝えることに羨ましく思う。
「ルハンはこのまま終わらせるのか?」
挑発的な言い方。
だけど、穏やかな優しい声。
ウーファンの癖だ。
背中を押してくれる一言を別の言葉で言ってくれるんだ。
「まさか、会える口実つくって会いに行くよ。」
まだ、好きって伝えてない。
このまま終わるなんてこと、したくない。