[ I want to meet you ] side L
俺は練習が終わってすぐにミンソクと居た練習室に駆け込んだ。
「ミーちゃん!!」
部屋には数人が残っていて、そこにミンソクの姿は見あたらなかった。
「ミンソギヒョンならもう帰りましたよ、ヒョン。」
俺の背後に壁に寄り掛かりながら俺を睨むセフンが居た。
セフンに向き合い、生意気なその目を睨み返す。
「なんで、」
「ヒョンのせいでしょ。」
セフンは俺の言葉を遮って続ける。
「あの日、突然キレてミンソギヒョンを傷つけたのはヒョンでしょ。どうしてあんなことをしたんです?」
真相を探るような目付きで俺を見下ろす。
「お前こそ、なんでミンソクにキスなんかしてたんだ?お前が言ってた見とれる人ってミンソクのことなのか?」
そのときの光景を思い出して、無意識に拳を握り締める。
セフンは眉間に皺を寄せて首を傾げた。
「ヒョンは勘違いしてます。僕はミンソギヒョンとキスなんかしてませんよ。絶対あり得ません。」
真っ直ぐに俺を見据えて答えるのは嘘を言っていないときのセフンの癖だ。
だから、俺は余計に戸惑った。
「あの日はミンソギヒョンが泣きそうな顔してたんで覗いて見ただけですよ。」
「じゃあ、なんで、頭に手をのせたんだよ?」
「慰めようとしたんですよ。そしたらヒョンが突然キレて来たんですよ。」
何も言えずに、握った拳から力が抜けていった。
最低だ。
ぜんぶ、俺の勘違いで、ミンソクを傷つけてしまっていたなんて………。
「ルハニヒョン。」
黙りこんだ俺を、先程のきつい言い方から一変して切ない声が呼ぶ。
「ヒョンが移動になったことを先生から聞いたあと、泣いてましたよ、ミンソギヒョン。」
「え?」
ミーちゃんが、、泣いてた?
どうして、、?
「どうして、ヒョンから言ってあげなかったんですか。『ごめん』だけじゃ何も伝わりませんよ。」
他人に言われて初めて気づかされた。
どうして、俺は、こうも不器用なんだろう。
謝らなきゃ。
会って、謝って、ちゃんと俺の気持ち、伝えないと。
「ヒョン?!」
走り出した俺をすぐさまセフンが追い掛けて腕を捕まれてしまう。
「離せ!」
「どこに行く気ですか!」
「ミーちゃんとこだよ!今言わなきゃ、」
「会うって言ったってどこに居るのかわかんないのにどうやって会うつもりですか?家だってどこか知らないでしょ?」
そう言われてピタリと振り払おうとする抵抗の手を止めた。
思いだけが先走り、肝心なことが抜けていた。そして、更に気づかされた。
俺は彼のことをなにも知らないってこと。
電話も、住所も、誕生日も、血液型も、彼のことに関して何も知らない。
「僕もヒョンの連絡先も、どこに住んでるのかも知らないんで何も手伝えません。けど、明日の練習後にルハニヒョンがこっちに来てください。」
「……は?」
「今週末のテストの練習を残ってやるんです。 ヒョンの代役でジョンインが来てくれたんで、はじめる前にミンソギヒョンにちゃんと言ってください。」
セフンにこうまで言われるほど、彼のことになると乱してしまう。
「会いたいんでしょ?」
会いたい。
ものすごく、会いたい。
会って、ちゃんと伝えたい。
言うって決めたんだ。
だから、来たんだ。
「悪いな、セフン。明日、必ず行くから。」
セフンはほっとした顔で微笑み、掴んでいた手を離した。