side B
あれからチャニョルを見ると、心臓がバクバクとうるさくて、いつの間にかまともに見れなくなっていた。
同室だからチャニョルが寝るまで待ってから遅くに部屋に入って寝たり、カイを追い出してギョンスと寝たりした。
移動中や仕事中は他のメンバーに絡んでなるべく避けて、みんなの前では明るく努めた。
だけど、ときどきチャニョルと視線が合うだけで女じゃないのに下腹が熱くなって痛い。
「ベッキョン、この後時間ある?」
次の衣装に着替えてるとき、ギョンスがシャツを脱ぎながら誘う。
今日は雑誌の撮影のみでその後は明日の午後まで休みだ。
「俺はいいけど、お前は?カイはいいのかよ?」
「うん。今日はチャニョルとセフンの3人でルハニヒョンの録り貯めたサッカー観るんだって。」
あぁ、だから朝からはしゃいでたわけだ。
ギョンスもその事を思い出したのか、ふふと笑っていた。
「ギョンスは一緒に観ないのか?」
「うん、ちょっと気になることがあって。その事でベッキョンに話があるんだ。」
え?話?気になることって?
…………まさか、ギョンス、
「まさか、この前のカイのプリンを食べた犯人捜しか?まだ、やってたのかよ。もう、わかったよ!正直に言うよ!俺が食べました!」
「え?否、違うけど。それはジョンイナにちゃんと謝りなね。」
「え?あ、はい。」
「撮影が終わってからのお楽しみってことで。さ、そろそろ行こう。」
俺が着替え終わったことを確認して、手を引いてドレッサーから出た。
ギョンスのことだし、まさかとは思うけど。
いや、きっと俺の気持ちに気づいてるのかも。
「「「ただいま~!」」」
「「「サッカーぁああああ!!」」」
宿舎に着くなり、サッカー観戦組はバタバタとリビングに直行した。
帰りの車のなかでは全員で静かに寝てたのに、帰ってきた途端にうるさくなる。
「うるせーな、あいつら。」
「ふふ、ベッキョンが加わったらもっと騒いでるよ。」
毒つくと、ギョンスの思いがけない返答が返ってきた。
「それにプラスにルハニヒョンとシウミニヒョンも加わればパーティ騒ぎになるよな。」
「「ああ、同感。」」
お父さんというよりお爺ちゃんのような穏やかな笑みを浮かべてスホヒョンが付け足した。
「ベッキョン、お茶の用意しとくから着替えて僕の部屋で待ってて。」
ギョンスは上着を脱いで玄関近くのコート掛に上着を掛けてウインクすると、リビングに入りキッチンの方へと言ってしまった。
「それじゃ俺は風呂に入って先に休むね。おやすみい~。」
スホヒョンはそう言うと着替えを取りに一旦部屋に入って行った。
俺はそれを見届けてからギョンスに言われたとおりにした。
しばらくしてギョンスがオボンに紅茶とお菓子をのせて部屋に入ってきた。
「そのお菓子どうしたの?」
いろんなお菓子がボールいっぱいに入っていた。どれも甘いもので、俺の好きなものばかり。
「チャニョルがくれたんだ。」
「え?」
平然と言うギョンスの口からその名前を聞いた瞬間、ドキッとした。
「なんか、3人とも甘いものよりポップコーンとかしょっぱいものだけでいいらしくて、貰ってきたんだ。」
なにを期待していたのか、そう聞かされて落ち込んでしまう。
「ねぇ、ベッキョン。」
ギョンスは部屋着に着替えながら話を続けた。
「チャニョルのこと、どう想ってるの?」
ぶフッ!
チャニョルのことを聞かれるのだろうなとわかっていたけど、思わぬ問いに口に含んだ紅茶を吹き出すところだった。
「ケホケホ、な、?!」
「ごめん。なんか、気になって。」
なんで?
「チャニョルのこと避けてるのかなって思ってたけど、横目で何度も見てるから。ほんとはどう思ってるのかなー?って。」
「………ギョンスにしては珍しくストレートに聞くね。」
すっごい吃驚なんすけど。
「僕もなんとなく気づいてたけど、セフナから聞いたんだ。僕らの公演などをテレビとかで観たタオから連絡があって、タオが言ってたことをそのままベッキョンに聞いてみたんだ。」
ああ、なるほど。
マンネふたりのワードですーげー納得。
あのふたりの似てるところはさらっとストレートに言うところだよな。
俺も何度もズバッと言われて、いつも答えるのに言葉に詰まることがある。
「で?どうなの?」
着替え終わって俺と向き合うかたちでテーブルを挟んで座って問いただすギョンスに、なにも答えられずに黙ってしまう。
どう?って。
それがわからないから、避けてしまうんだ。
「チャニョルがベッキョンを好いてるのはわかるよね。」
そんなこと言われなくても、チャニョルの行動ひとつでわかる。
毎日毎日、抱きついてきたり、何度も名前を呼んだり、絡んでくるから。
うるさいくらい、呆れるくらい、わかる。
だけど、それは、
「仲間なんだからそれくらいわかるって。」
そう、仲間だから。メンバーだから。
「なら、ベッキョンは?チャニョルのこと好きなの?」
"好き"
その一言に肩がびくりと跳ねるけど、なんでもないフリして頷く。
「それはメンバーとしてなの?」
「…………向こうがそうなら、俺もそうだろ?」
メンバーとして、、もちろん好きだ。
好きだけど、
好きなんだよな?
「ふふ、ベッキョンって自分のことには意外と鈍感なんだね。」
「は?」
「この前、ジョンイナから聞いたんだ。ベッキョンがダンス組と一緒にレコーディングしたとき、ずっとチャニョルを見てたって。」
そのときのことを思い出して、一気に顔に熱をもつ。
耳まで熱い。
そんな俺を見てくすりと笑うギョンス。
「メンバーとして好きなら、僕に思うことと一緒だよ。でも、違うんでしょ?」
うんとしか答えられない。
だけど、なんで?
「チャニョルへの好きは、」
いつから?
「それ以上でしょ。」
俺のなかでチャニョルの存在がそうなったのは、いつから?
「………たぶん、」
知らぬ間に自然と抱いていたのかもしれない。
「俺は、チャニョルが好きだ。」