元JWの非常に多くの人がそうであるように、私にとっても、エホバの証人と完全に決別するうえで最も決定的な影響を与えたのは、元統治体のレイモンド・フランズの書いた『良心の危機』を読んだことでした。
もっとも、私は、『良心の危機』を読むようになるまでだいぶ時間がかかり、「エホバの証人組織はおかしい」と確信するようになっても実際に読むまでは1年くらいの時間があったように記憶しています。
・もっと早く読めばもっと早くエホバの証人と決別できたかもしれないと思う反面、
・このように時間をかけ、段階を踏んで最終的に読んだからよかったのだと思うところもあり、
自分がこの本を読んだタイミングが良かったのか悪かったのか、良し悪し両面あると感じています。
いずれにしましても、いつもしているように自分がどのようにしてこの本を読むに至ったのか、そしてこの本を読んで何を感じ、どのような影響を受けたのか、事実を事実のとおりに思いだすままに書いてみたいと思います。
【なかなか読めなかったこの本】
●当時のインターネットについて
すでに書いたとおり、私は大学に入っておおむね半年もすると、エホバの証人組織にい続けることはできないと強く感じるようになりましたが、その理由は、周りの環境・それまで見てきたJWの実態・そして大学教育で学んだ動かぬ真実等の影響からであり、いわゆるエホバの証人のいうところの「背教者」的な情報には積極的にはアクセスしていませんでした。
とはいえ、大学においてインターネットの重要性を非常に強調されましたし、かつ、インターネットを使わないとやっていけない教育環境にも置かれたので、必然的に、まずはインターネット上のエホバの証人についての情報サイトにだんだんとアクセスするようになっていきました。
当時自分がアクセスしたサイトは、
・「エホバの証人の子供たち」の筆者の秋本さんが運営していたサイト
・STOPOVER
・昼寝する豚
・そして、アメリカの精神科医村本先生の運営していた、JWIC「エホバの証人情報センター」
などでした。
ほかにもいくつかサイトがあったと思いますが、今はもう思い出せないあるサイトに初めてアクセスしたときに、あまりにも統治体を侮辱する体裁の辛辣すぎる内容であったため、「いくらなんでもこれは酷い」と感じ、「どんなにエホバの証人がおかしいとしてもここまで侮辱的で下品な内容の情報は見る気がしない」と感じたのをよく覚えています。
「昼寝する豚」については、その後、さらに数か月から1年くらいがたってからよく読むようになり、ゆーじさんとも何度も会って二人だけで飲むこともありましたが、この離れ始めの最初のころは、やはり同じく内容や表現が辛辣・直接的すぎましたし、中身についても(たぶんゆーじさんが何かのことで勘違いした内容をそのまま書いていたので)事実と少し違う内容が何か所かに書かれていたので、同じように敬遠して、2,3度見たら後はアクセスしなくなっていました。
最初に足掛かりになったのは、秋本さんのサイトでした。彼は、エホバの証人として誠実に活動をしながら、内部で起きているおかしな事件について訴えだしたのをきっかけに真理から離れた自分自身の経験を書いていましたので、心情的に重なる部分が多く、感情的にとても入りやすかったです。どこででも、同じような酷いことが起きていて、それに対する組織の対応のひどさもまた、同じなのだなと共感を持てました。
その後にさらにステップになったのは、STOPOVERの中にあった「金沢文庫」、つまり、北海道の北広島会衆でおきた「大量背教事件」の本当の経緯を詳細に書いた忠実な記録でした。
https://www.stopover.org/lib/Kanazawa/index.html
北広島会衆事件については、私自身もそのような事件があったことを現役時代に聞いていて、「この背教事件のリーダーだった長老は悪霊に取りつかれていて、指一本でタンスを動かすことができた」というようなうわさを話半分で聞いたこともありましたので、この記録も非常に頭と心に入りやすかったですし、何より、「エホバの証人組織内で説明されている事実」との違いに驚愕して衝撃を受けたことをよく覚えています。
そして、この「金沢文庫」の傑出している点は、起きた出来事を時系列で忠実かつ詳細に再現していることや、登場人物はすべて実名を使われていることから、「迫真性や真実の響き」を感じ取ることができる、という点だと思いました。
私ですら、ここに登場する、当時の日本支部委員会の調整者織田正太郎の弟兄弟、日本人初の地域監督で奉仕部門のドンだった阿部孝司兄弟、この件を扱った後にストレスから白髪になったという噂のあった地域監督の藤原兄弟などはよく知っていて、直接会話をしたこともありましたし、べテル内部での物事の扱い方を考えたときに、「さもありなん、これは本当に起きたことなのだろう」と強く感じることができました。
自分がべテルで見た偽善、本音と建前の使い分け、都合の悪いことに対する徹底的な非情さなどがこの記録のすべてに表れていて、「自分が末端の会衆や、べテルで短い期間に見聞きし体験したことは、日本中のいろんなところで、しかももっと大規模な酷いレベルで起きているのだ」と体感することができ、ますますべテルの実態についての確信が深まり、極めて貴重な影響を自分に与えてくれました。
その直後にSTOPOVERの運営者の方たち何人かと数回にわたりお会いしたこともありましたが、いずれも素晴らしい方たちでしたし、確か「やめた元エホバの証人」にお会いしたのはその時が初めてでしたが、「柔和で知的なエホバの証人の兄弟」そのままの雰囲気の方たちであったので、非常に安心したこともよく覚えています。
何よりも最もインパクトを与えてくれて、自分の人生を救ってくれたのは、村本先生の「JWIC エホバの証人情報センター」でした。
このサイトのすばらしさについては、私などが駄弁を重ねて説明する必要は全くないと思います。
いったい、このサイトのおかげでどれだけの人が人生を救われたのだろうかと想像いたします。
もし1つこのサイトについての感想を述べるとしたら、「この一般社会の、高い教育を受け専門分野を持つ専門家が、中立的かつ客観的視点から、専門的な事実やデータに基づいて、淡々と本当の真実を公開する」というスタンスに最も感銘を受け、そこに最も説得力を見出した、という点です。
この当時、村本先生は、読者からの感想を公開するとともに、それに対してコメントや回答を添えておられましたが、その言葉一つ一つが、簡潔ながらも知的で要点をついており、何より「冷静で理性的」であるというところから、特別の影響を受けたことをよく覚えています。
エホバの証人の吹聴する「悪辣で感情的な背教者の姿」はそこにはなく、文面からにじみ出る人間性から、「どちらが本当の背教者・偽善者で、どちらが本当に真実を公開しようという誠実さを持っているのか」が、おのずと読者に伝わる素晴らしいサイトであったと思います。
●『良心の危機』に導かれる
さて、本論ですが、このようにいろんなサイトを通じて、いろんな元JW関係者との接点が増えるにつれ、『良心の危機』を読んでみるように促される機会がどんどん増えていきました。
また、私のこの本に対するハードルを下げてくれたのも、やはり「JWIC エホバの証人情報センター」でした。
というのは、まだ『良心の危機』の日本語版が出版されていなかったころ、村本先生がいち早く、この本の内容の要約を、「レイモンド・フランズの伝記」という体で同サイトの中で日本語翻訳文を掲載してくれていたからでした。
http://www.jwic.info/franzbio.htm
この「伝記」にアクセスすることは、実際に『良心の危機』を読む上でのハードルを一気に下げてくれました。