昨日の続き | 岩石翁の多肉ブログⅡ

岩石翁の多肉ブログⅡ

メセン栽培を主軸として、多肉植物の「岩石栽培」という新手法を実験中。その記録です。

【新しいメセン栽培法について】

  当ブログを通じて是非とも皆さんに知っていただきたいのが、この、これまでの標準的な方法とは異なる新しいメセン栽培法(※主にリトープス中心)である。これは従来の(一般的な栽培手引書に載っているような)メセン栽培の常識を覆す内容ではあるが、事実、私が何度もダメにしてきた帝玉がこの栽培法によってしっかり生育するのを目の当たりにした(※残念ながらその時の帝玉は、岩石栽培がらみの判断ミスでダメにしてしまった)。そして、再び取り組み始めたリトープスたちも、以前よりはるかに順調に育っているのである。この新たな栽培法の要旨であるが、あちこちの先人の実践例から理論的に納得したポイントを抽出し、更には個人的見解も加えて勝手に整理させてもらうと以下の通りである。なお、以下の記述はリトープス栽培を主眼に置いている。ちなみに、私は他にプレイオスピロス、アルギロデルマ、ケイリドプシス、ラピダリアも育てているが、コノフィツムその他は手がけていない。また、あくまでも南関東在住の私の所ではうまくいっているのだということを念頭に置いてお読みいただきたい。

①〔灌水〕メセンの多く(※全てではない)は、そもそも夏季降雨地帯に自生している。個人的に南アフリカ各地の気候とメセンの分布を照らし合わせて詳しく調べてみたが、これは紛れもない事実である。そして、雨の降る季節が主な生育期であることは植物として当然のことであり、一部の例外を除けば従来言われてきたような夏季休眠などはしないはずの植物なのである。したがって、球型メセン全体を「冬型の多肉植物」などと位置付ける旧来の栽培区分も間違っている。群仙園の先代でありリトープスの第一人者であった故・島田保彦先生も、「リトープスは休眠などしない」と言っておられたと聞く。要するに大部分のメセンにとって、夏はむしろ生育させなければいけない時期なのである。本来の生育期である夏に断水して生育させないから体力が低下し、細根も枯れ果てて衰弱死や腐死に至ると考えられる。私自身もこれまでに散々経験した、「マニュアル通りに断水・遮光してきちんと休眠管理したのに、なぜか異変が…」というお決まりのパターンである(※その証拠に、巷の失敗リトープスの多くは、暑いさなかではなく(夏季休眠を経て)過ごしやすくなったはずの秋口に様子がおかしくなる)。なので、断水による夏季休眠などはさせない。基本的に週1くらいで、乾きやすい夏場はむしろやや回数を増やしてしっかり灌水して育てる。脱皮中の灌水に関しては後述する。

②〔日光〕自生地で強光線に長時間晒されて生育していることを考えれば、自生地ほどの強光線でなく年間日照(晴天)時間も短い日本で遮光などしたら、生育に悪影響が出るのは当然である。動物で例えたら、これはまさに餌の量を減らされるようなものであろう。本来は生育期であるはずの夏に無理に休眠させられたことで体力が落ちたメセンは、気候の変化や病原菌に対する抵抗力が落ちて消滅していくのである(※殺菌剤や殺虫剤を常用している栽培者も多いが、うちでは今のところ必要ないので一切使用していない。殺菌剤に至っては所有すらしていない)。また、体力面以外でも遮光には問題がある。というのも、ネットを見回すと、光量不足の栽培環境によって無残にも徒長してしまったリトープスの写真を、何の疑問も抱かず掲載している人が少なからず見受けられるからである。コマ型とも表現される、多くのリトープスの本来の体型が分かっていない人が多いのだろう。植物なのだから光量不足で徒長するのは当然であり、それが健全な状態でないことは言うまでもない。したがって、しっかり生育させるため、真夏でも全く遮光せず直射日光を当てる。ただ、そんなことをすると日焼け等のダメージが出るのではないかと心配する向きもあることと思う。しかし、夏にリトープスがダメになる本当の原因は強光線そのものではなく、次項で述べる「植え方」と、日本の蒸し暑い夏の気候下での高温や蒸れなのではないかと考えている。

③〔深植えと通風〕リトープスの側面は本来、土に埋まっている部位なので強光線には弱いはず、という指摘をしている先人がおられる。また、枯れ残った旧葉(脱皮殻)は、側面から根際にかけての弱い部分を保護しているのだから取り除くべきではないのだ、とも。今、改めて自分の失敗例を振り返っても、この説は理にかなっているように思う。なので、リトープスは自生地での状態にならって用土から頂面付近だけが出るように深く植え込むことにしており、旧葉も植え替え時に自然に脱落するまでは取り除かないことにしている。旧葉を残した上にしかも深植えなどしたらたちまち腐ってしまうのではないかと心配する向きも多いとは思うが、よく言われているような「根際が湿っているとそこから腐る」という単純な図式は、事実に反している。何よりの証拠に、うちではリトープスは全て旧葉を取らずに深植えして夏場は頭から(ただし夕方や夜間に)ジャージャー灌水しているが、根際から腐ったりしたものは一つもない(※腐死云々は別として、一部のリトープスやその他のメセンではこのような灌水方法が適切でないことは承知している)。島田先生の著書にもあったが、リトープスは湿っているから腐るのではなく、通風が悪くて蒸れるから腐るのである。通風はとにもかくにも大事なので、うちでは雨よけ程度しか取り付けていない吹きさらしの置き場にメセン類を置いてある。ちなみに先ほど述べたように、メセンに限らずサボテンその他もCAM植物である以上、温暖期の灌水は夕方や夜におこなうべきものであると考えている。

④〔脱皮〕脱皮の最中でも適度の灌水は必要である。理屈から考えても、旧葉からの水分移動だけでは新葉が十分大きくなれないのは当然のこと。事実、ネットを見回すと、マニュアル通りにきっちり断水していたため新葉の生長が止まってしまい、脱皮そのものに支障をきたした事例が見受けられる。完全に水を切ってしまうから新たな球体が十分育たず、更には夏越しも困難になってしまうのである。したがって、脱皮中でも腰水など、ある程度の灌水はする。この時期に水を与えると二重脱皮してしまうなどと恐ろしげに(苦笑)書いてある栽培手引書が多いが、二重脱皮はむしろ、夏場の遮光や断水で異常な状況下に置かれたことに対する反動というか副作用ではないかと考えている。

 以上が、私が先人たちの実践例から学んだ新たなメセン栽培のキモである「直射光・無断水=無休眠栽培」である。栽培者によっては上記のどれかを欠いていたり異なる要素が組み合わされたりしていて微妙に人それぞれなのだが、私のところでは上記の組み合わせが理にかなっていると判断して実践している。この栽培法のお陰で私のメセンたちはみんな元気に育っており、更にはホームセンターの酷い売り場から救い出してきた瀕死状態のリトープスたちも復活して丸々としているので、とりあえずはほぼ正解と思われるところにいるのだろうと実感している。思えば、今は毎年当たり前のようにリトープスたちが花を咲かせているが、栽培方法が間違っていてうまく育てられていなかった頃は花つきがとても悪かった。今の自分から見たらわざわざリトープスの体力を低下させていくような管理をしていたのだから、それは当然のことであった。

【冷却について】

 私のメセン栽培の重要課題の一つは、高温対策である。メセンに限らず多肉栽培で何が問題なのかといえば、高温は高温でも自生地のようなカラッとした高温ではなく、蒸し暑い中での高温だということである。この湿度対策については以前、読者の方から尋ねられたことがあったが、思い切ってエアコン完備の置き場を作れるほどリッチではなく(苦笑)他に手立ても見つからないので、湿度の問題については正直諦めている。その代わりといってはなんだが、それならせめて高温を少しでも緩和できないだろうかとは考えた。また、温度に関しては、特にメセンの自生地の気候は昼夜の温度差が顕著なのであって、真夏の夜間の最高最低気温(←分かりにくい表現ではあるが、要するに最も高い最低気温)が日本では自生地ほど十分に低くない、ということも栽培上のネックになっている。というわけで、大がかりでなく費用も許容範囲に収まる冷却方法はないか(※小型扇風機の設置も考えたのだが、雨ざらしでも大丈夫そうな屋外用の適当な商品が見当たらない)と色々検討した結果、まず最初に「二重鉢による冷却」にたどり着いた。これは、ある先人の手法を参考にしたものであり、具体的には鉢ごと更に素焼き鉢に入れて二重にし、その隙間に満たした砂に注水することで気化熱による冷却を行うというものである。なるほどと思って導入してみて一定の効果はあるように感じられたのだが、この方法には短所もいくつかあった。すなわち、第一に鉢の外径が大きくなるため場所をとってしまうこと(※うちのメセン置き場はなにしろ狭い)、第二に鉢数が増えるとそれだけ注水の手間も増えてしまうこと(※夏の盛りには毎日注水が必要)、第三にメセン置き場は吹きさらしなので風が強い時に結構砂が飛び散ってしまうこと、などである。このような事情から二重鉢化は暑熱を特に緩和したいものだけに限定したいのだが、それでは他に何か置き場全体を冷やすような工夫はないものか。で、そうこうしていて思いついたのが「水上栽培(※いわゆる「水栽培」ではないので注意)システム」であった。これは、「夏でも水辺(水面)は涼しい」という経験則から思いついたもので、「それなら鉢を水の上に置いてしまえばいいではないか」という発想から生まれたものである。その方法はというと具体的には、鉢底が水につからないように工夫した上で、水を張ったバットの上にメセンを並べることで気化熱による高温緩和を期待する、というものである。この方法は、顕著といえるほどの温度差は作り出せないにしても、周囲からの輻射熱というかメセンの体感的には結構効果があるのではないかと考えている。少なくとも、真夏の焼けたベランダに置いてあるよりは何倍も快適なのではないだろうか。ちなみに、今年の夏の例年にない異常な酷暑の中にあって、うちのメセンたちは全く遮光していないにもかかわらず、2頭が表皮に少々のダメージを受けただけの被害にとどまった。無論、何年も直射光栽培しているから真夏の太陽にも耐えられるのだろうが、この水上栽培システムも多少は効果を発揮しているのではないかと思う。
イメージ 1

【結び】

 というわけで、以上の新たなやり方で栽培に取り組み、このまま軌道に乗ってうまくいくようであれば、将来的には何度も敗北を喫している悲願のディンテランタス栽培にも再挑戦したい、というのが私の最終目標である。不肖、別段何の目標があるわけでもないパッとしない人生を歩んではいるが(苦笑)、何か夢のようなものがあるとすれば、それは、メセン置き場に「奇鳳玉」「春桃玉」「幻玉」「妖玉」「南蛮玉」「綾燿玉」がコンプリートされてズラリと並んでいる光景を眺めることかもしれない。ちなみに、これまでの栽培経験から鑑みて、特にディンテランタスは直射光栽培でなければ絶対にうまく育たないはず、とニラんでいる。断水すべきでないというのもしかり。なにぶん入手困難なのがネックだが、自信が付いてきたら導入を検討したい。