今回は、2016年2月のドイツ はベルリン からです。
この時期のベルリン は、ベルリナーレ (ベルリン国際音楽祭)が開催されているためか、ちょっと人が多めな感じがします。
今日のベルリンフィル 、指揮は首席指揮者&芸術監督のサイモン・ラトル です。
フランシス・プーランク:人間の顔
最初の曲は、
フランシス・プーランク:人間の顔
Francis Poulenc:Figure humaine
珍しく、無伴奏の混声合唱曲が最初に演奏されました。
フランシス・プーランク (1899~1963)は、フランス の作曲家、ピアニストです。母親がピアノがうまかったようで、その影響から5歳でピアノを始めます。しかし、父親が製薬会社を経営していたため、音楽学校へ行くことは許されませんでした。1914年からピアニストのリカルド・ビニェス に師事しますが、17歳で母を、19歳で父を亡くし、その後、ビニェス の影響が大きくなり、音楽へと傾倒していきます。サティ やラヴェル とも親交を深め、ルイ・デュレ 、アルテュール・オネゲル 、ダリウス・ミヨー 、ジェルメーヌ・タイユフェール 、ジョルジュ・オーリック などとともにフランス6人組と呼ばれるようになっていきます。
この曲は、詩人ポール・エリュアール の詩に基づいて作曲されており、次の8曲から構成されています。
1.この世のすべての春のうち
「この世のすべての春の中で 今年は最も醜い春だ・・・ 」と始まります。
2.歌いながら修道女たちが急いで行く
第二曲も「歌いながら修道女たちは急いで行く 人が殺された場所を清めるため。。。 」とはじまり、
3.沈黙と同じように低く
4.汝、我が忍耐強き者
5.天と星を笑いながら
6.昼は私を驚かせ 夜は私を恐れさせる
7.赤い空の下の脅威
そして、極めつけは、
8.自由
この曲が作曲された1943年のパリ は、第二次世界大戦中でドイツ の占領下。この曲が公の場で演奏できるわけもなく、初演は、1945年3月25日ロンドン でレスリー・ウッドゲート (Leslie Woodgate)指揮BBC合唱団 の演奏で行われています。ロロ・マイヤーズ (Rollo Myers)の英語翻訳版でした。ベルリンフィル では、今回が初演のようです。
サイモン・ラトル は、指揮台より舞台奥に寄った位置に立って指揮をし、合唱団は通常弦楽器が座っているあたりに立って歌っていました。合唱は、ベルリン放送合唱団 です。なかなか、厳かで、素晴らしい合唱でした。曲もブーランク の最高傑作のひとつと言われるだけのことはあります。
シャルル・ケクラン:レ・バンダール=ログ
2曲目は、
シャルル・ケクラン:レ・バンダール=ログ
Charles Koechlin:Les Bandar-log [Scherzo des singes] op.176
シャルル・ケクラン (1867~1950)は、フランス の作曲家であり、音楽教師。作品番号226もの作品を残しているにもかかわらず、意外と知名度が低いのではないでしょうか。ケクラン は、パリ音楽院 でマスネ 、フォーレ などに師事し、パリ のスコラ・カントルム で教鞭を取り、アメリカ やカナダ でも教えていたようです。実は、今日の1曲目の作曲者プーランク もケクラン の元で作曲を学んでいます。日本でも名著とされている「和声の変遷」は彼の書籍なんですよね。一方、曲の方は、難解な曲が多く、なかなか万人に受けるというわけにはいかなかったようです。
ケクラン はラドヤード・キップリング の「ジャングルブック 」を題材にした曲をいくつも作曲していますが、今回演奏された「レ・バンダール=ログ 」も、そのうちの1曲。副題に猿のスケルツォ (Scherzo des singes)とあるように、猿の群れ「バンダール=ログ 」をテーマにした曲です。1839年~1940年に作曲され、初演は1946年12月13日ブリュッセル でフランツ・アンドレ 指揮ベルギー放送交響楽団 の演奏で行われています。ベルリンフィル での初演は、1989年9月26日ベルリン音楽祭 でゾルターン・ペシュコー (Zoltán Peskó)の指揮で、これまで一回だけ演奏されています。今日は2回目のようです。
この曲、聴き終わってなんだか印象が残らない曲でした。
クルターグ・ジェルジュ:厳かな小音楽~ピエール・ブーレーズの90歳の誕生日に
3曲目は、
クルターグ・ジェルジュ:厳かな小音楽~ピエール・ブーレーズの90歳の誕生日に
György Kurtág:Petite Musique solennelle en hommage à Pierre Boulez 90
この曲は、2015年の
ルツェルン音楽祭 の一環として、
クルターグ が
ピエール・ブーレーズ の90歳の誕生日のために作曲した曲で、初演の2015年8月23日、
マティアス・ピンチャー 指揮
ルツェルン音楽祭アカデミー の演奏で行われました。今回の演奏会では、前月(2016年1月)に亡くなった、
ブーレーズ への追悼の意を込めてプログラムに加えられました。
クルターグ・ジェルジュ (1926年~)は、ハンガリー のルゴシュ (現在はルーマニア の一部)出身の作曲家、ピアニスト。バルトーク にあこがれ、フランツ・リスト音楽院 で学び(残念ながらクルターグ の入学前年にバルトーク は亡くなっています)、1957年から1958年にかけてパリ へ留学し、フランス6人組 の一人ダリウス・ミヨー やオリビエ・メシアン などに学び、また、この時代にアントン・ヴェーベルン の影響を色濃く受けます。バルトーク・ベーラ音楽高校 、ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団 のトレーナーなどに続き、フランツ・リスト音楽院 の教授を務めました。シフ・アンドラーシュ 、コチシュ・ゾルターン なども彼の生徒です。
この曲は、華々しい曲ではなく、抑制された嘆きを連想するような曲です。3小節のアダージョ、ホルンのソロ、そしてハープ、チェレスタ、ピアノ、グロッケンシュピールに支えられてバヤン(ロシア式クロマチックアコーディオンなどと呼ばれる民族楽器)とツィンバロム(ハンガリーなどの大型打弦楽器)が独特の音色を奏で、そして管楽器のソロが続き、そして驚くほど唐突に曲が終わります。
ちょっとメロディーがはっきりせず、個人的にはあまり好きな曲ではありませんでした。
モーリス・ラヴェル:ダブニスとクロエ
最後の曲は、
モーリス・ラヴェル:ダフニスとクロエ
Maurice Ravel: Daphnis et Chloé(Daphnis et Chloé)
この曲が全曲演奏されることはあまりありませんが、今回は全曲演奏でした。
このブログでも、セルゲイ・ディアギレフ 率いるバレエ・リュス (ロシアバレエ団)が出てくる記事を何度か書いていますが、18世紀初頭の音楽シーンをけん引したことは間違いありません。火の鳥 、ペトルーシュカ 、遊戯 、春の祭典 など、多くの曲が生まれています。今回のダフニスとクロエ も、そのうちの1曲です
。
ダフニスとクロエ は、古代ギリシア のロンゴス の描いた物語「ダフニスとクロエ 」を題材に作られています。羊飼いのダフニス とクロエ 、牛飼いドルコント との踊り勝負、海賊の襲来とクロエ の誘拐、ダフニス の失神とニンフによる蘇生、パン神 の出現、そして一件落着へと言った感じでしょうか。
元々、この演目は1910年に初演される予定でしたが、ラヴェル が作曲に苦しみ、結局公演は1912年にずれ込みます。このシーズンは、多くの作品が目白押し状態で、1か月に4プログラムを公演するという過密状態。そのうち3演目の振り付けを受け持つフォーキン の振り付けも間に合っておらず、また、演目に対するイメージも、関係者であっておらず、当のディアギレフ は、構想からすっかり時間がたって興味が薄れている状況。さらには、このシーズンで公演される「牧神の午後 」の振り付けが(恋人?の)ニジンスキー が担当するため、すっかりそちらに興味が移っている状態。
初演は、1912年6月8日バレエ・リュス の公演としてピエール・モントゥー 指揮で行われますが、あの大暴動に発展した「牧神の午後 」の公演の後で話題にも上らず、「牧神の午後 」が初演こそ大騒ぎでしたが、話題性抜群でチケットが売り切れ、追加公演まで行ったので、「ダフニスとクロエ 」は4日の公演の予定が2日に縮められ、散々な状態だったようです。
1909年からバレエ・リュス の振り付けを担ってきたミハイル・フォーキン は、このダフニスとクロエ を作り上げた一人ですが、この作品を最後に、バレエ・リュス を去ることになります。
そんな「ダフニスとクロエ 」ですが、今でも曲としてもバレエとしても公演される作品として残っており、ラヴェル を代表する曲の一つとなっているのは、この世界の面白いところです。
ベルリンフィル では、1920年12月20日オスカー・フリート 指揮で初演が行われています。
ラヴェル の「
ダフニストとクロエ 」なかなか聞きどころが多く面白い曲です。それでも60分と結構長いん曲なんですよね。合唱も入っているのですが、歌というよりは効果音的な感じの合唱で、それがうまく使われていて合唱の効果が最大限に発揮されている感じです。最後は、スピード感もあって、しっかり盛り上がり、演奏後の満足感もなかなか高い曲です。
今日の演目ちょっと長めで19時始まりだったのですが、終了したら21:20分ごろ。21:42ベルリン中央駅発のアルトナ(ハンブルク)行きに乗らないといけないので、タクシー飛ばして中央駅まで移動し、なんとかICEに間に合いました。
今日は、なかなか面白い曲も聞け、ラヴェルの大曲も全曲盤で聞けて大満足です。